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氷と王様

名指しで呼ばれたヒューズを周りが見つめている。


「ヒュー兄は会ったことがあるって言ってたよね?私を託されたって。だったら顔も知っていると思う」

「顔?誰の…、いや、シルヴィアを託したのは…」


シルヴィアのいる凍った湖に近づき、一歩二歩と歩いて行くヒューズ。


「すごく強い力を感じるの。だからこの人はそうなんじゃないかなって…」

「人?湖の中にか?」


話を横から聞いているライオネルは、何のことかまるで分からずに首を傾げた。アシュレイは相変わらず表情を変えないため、考えが読めない。

ヒューズはシルヴィアの横に行き、足元のその凍った湖を見て固まる。そこに眠るように、凍っている青年がいたからだ。そして確かにその顔には覚えがあった。


「晶霊王様…」


ヒューズの呟きに、聞いていた者たちが一斉にどよめいた。


「は?」

「何だと?」

「今、なんと…??」


聖騎士やハウズリーグ兵は勿論、ライオネルやバースも意味が分からずに互いに顔を見合わせた。いきなり何を言い出したのだと。


「やっぱりそうなの?ま、まさか女神様が湖ごと凍らせて封じ込めた…ってこと?」


浮気の代償にしては大きすぎやしないだろうか。シルヴィアはそう思いながら恐る恐るヒューズに尋ねた。


「確証はありません。王はシルヴィアを預けられた後、どこへ行くのかは明確にされませんでした。どうしてこんなところにいるのかは…」

「もしかして500年くらいここにいるってこと!?い、生きてる…よね?晶霊の王ってことは、水も氷も炎もなんでも操れるんじゃないの??」

「いや待て待て待て!話が唐突過ぎて分からない。これは、お前ら晶霊の王で間違いないのか?」


いつのまにか横に来ていたライオネルを足元を指差す。彼を止めていた聖騎士たちも混乱していたため、その隙に振り払ってきたらしい。

なぜ封じられているのかはともかくとして、凍っているのは誰なのかからはっきりさせたいようだ。


「それは間違いないかと。このお方は我ら晶霊の頂点、晶霊王様です」

「なるほどな。で、何故かここで氷漬けになってる…と。凍結させた術はかなりの大昔みたいだな。もう術の気配が分からない」


神聖術なのか魔術なのか、はたまた晶霊術なのか。使われた術の痕跡はもう分からない。しかし、神話の事を考えると…。


「凍らせたのは…女神様?」

「いや、そう断じるのは…」

「何だ?どういうことだ…?」

「晶霊王だと?」


ざわざわと両軍共に騒めいている。皆シルヴィアたち以上に現状が理解出来ないのだ。憶測を口にするもそれが正しいのかわからない。ドルマルク神聖国の聖騎士に至っては、口にしていいのかすら分からないようだ。


「いや、つまり…どういう事だ?」

「うーん…?」


ライオネルもシルヴィアも考えにつまり、思わず同時にアシュレイを見た。


「ん?なんで俺を見るのかな?」


ここまで会話にも参加せず、何の反応も見せなかったアシュレイ。彼ならば何か知っているのではと2人は思ったようだ。


「ご主人様怪しまれてます〜?」

「さすがに何百年も前の出来事に関係はないよ?知らないかもしれないけれど、俺は人間だからね」


背後に控えるトラッドは面白そうにしている。まさかアシュレイが凍結事件の犯人と疑われているのではないかと。言われた当人、アシュレイは平然と答えているが。


「いや…それはまぁ分かるんだが…。この騒ぎの中で驚いていないのが怪しいっつーか…」

「あ、怪しいとかじゃなくて!アシュなら何か知ってるのかなって思っただけ!ハウズリーグの王様なんだし」


完全に疑いの眼差しで見ているライオネルと、まるで言い訳をするようなシルヴィア。対照的なようでどちらも考えは近いようだ。


「俺よりもそこの鳥の方が余程詳しく知ってそうだけどね。ここまで案内してきたんだし」

「神鳥…」

「いや、とはいえ…」


アシュレイは笑いながら神鳥たちを示す。今は静かにその場に控えているかのようだが、確かに何らかの事情を知った上で連れてきた可能性は高い。とはいえ、相手は鳥だ。それとも聖王ともなれば神託やら何やらの形で会話ができるのだろうか?シルヴィアはそう思ってライオネルの方を見たが、彼の表情から察せられたのは…。


「…ライ。相手は鳥だからなぁ…って思ってない?」

「え。いや…神鳥、だ。女神の御使であって、その御意志を伝える存在だぞ?さすがにそんな…」


じっと覗き込むシルヴィアの質問に、ライオネルはどことなく歯切れ悪く答える。


「じゃあ会話はできるの?」

「…鳥と話ができるわけないだろ」


質問を変えると、すっぱりとした答えが返ってきた。どうやら言い訳はすぐにやめたらしい。彼らしい答えではある。


「げ、猊下…」

「ライ…その発言は聖王としてアウトじゃないか?」

「いや、無理だろ!鳥だぞ、だって??」

「くっ…!ははははは!」


聖騎士やバースがその発言は危ないとライオネルを嗜める。その様子がおかしかったのか、アシュレイは声をあげて笑い出していた。


「そこは嘘でも対話を試みるとかしないんだ?そうだよな、鳥だもんな。はははっ…!」

「うるせえ!とにかく、このまま放っておくわけにはいかないだろ。どうにか封印を…」

「どうして?それこそ女神様の御意志とやらに背くことになるんじゃないかい?」


もしも本当に女神様が封じ込めたのなら、それを解くのは反逆となるのではないか。そもそも全員がこの場で炎の神聖術を使えないのは、女神様が拒否しているという何よりの証としか思えない。


「それは…」

「ライ、一度国へ帰って審議をした方がいい。どちらにせよ今できることはないだろ」


迷うライオネルに、バースが助言をする。ドルマルク神聖国としての方針を話し合うべきだと。


「…そうだな。だがハウズリーグはどうするつもりだ?晶霊王を祖とする国はむしろそちらだろう?」

「うちは別に晶霊王を信仰しているわけではないからね。国としてはこのままでも特段困らないよ。ただ…晶霊たちはどうだろうね?」


アシュレイが平然としているのは何故なのか。ライオネルとしてはそれが気になった。もしかすると最初から知っていたのだろうか。そしてその質問の答えになっているのかいないのか、相変わらず飄々と返事をしながらアシュレイは自身の契約晶霊たちを振り向く。


「私は…晶霊王をお救いせねばなりません。我らが王ですから」

「俺は別にどっちでもいいかな〜。もしかして凍ってるのもそういうプレイかもしれないし〜」

「僕も、どっちでも。主君に、従うだけです」


ヒューズたち晶霊は三者三様の反応を示した。助けたいヒューズに、ふざけているトラッド。アシュレイに恭順の意を示すロウルに、そして…。


「シルヴィは?君はどうしたい?」

「私は…、よくわからない。誰が何のためにここに封じたのかよく分からないから…安易に解くのもな、とは思う」


シルヴィアはぽつりぽつりと答えながら、アシュレイを見つめた。ご主人様は何を考えているのかよく分からないし掴みどころもないが、聞けば割と答えてくれるのだ。


「アシュは…どうして晶霊王様がここにいるのか知ってるの?」


彼女のその質問に、全員が思わずアシュレイを見つめる。凍らせた犯人とは思わないが、やはり何か知っていそうな雰囲気だからだ。


「いや、正確なことは知らないな。だから君に何か言えるとしても、あくまで憶測でしかない。そんな半端な状態なんだ。可愛いシルヴィ、君は今選んでも選ばなくてもいいよ。ただし選ぶなら…ここで契約は解除だ」

「え…」


にこやかに、ゆっくりとアシュレイは告げた。しかしその言っている意味が分からず、言葉を失ったシルヴィアは瞬きをすることしかできなかった。


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