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神鳥

「神鳥?」

「女神の御使い、神鳥オルディウスだ。滅多に人前に現れないし、現れる際には何かしらのお告げがあると言われている」

「基本的には番で現れると言うが…、神鳥メイフィールはいないのか?」


呆然と神鳥を見つめながらバースが解説をしてくれた。そしてもう1羽近くにいるのではとライオネルがあたりを見回すと…。


「なるほど。これはやはり食べては駄目なやつだったか」

「危なかったですねぇ〜ご主人様〜。ガウディとのリンクが切れてなかったら燃やしちゃってましたね〜」

「ケェェェ!」


にこやかに現れたアシュレイの横で、トラッドが檻に入れた鳥を抱えている。鳴き叫ぶその鳥は、シルヴィアの頭にいた神鳥とやらに似ていた。


「アシュ!」

「神鳥メイフィール!?あんた、なんで捕えてるんだ!?」


ぎょっとしたライオネルが慌ててアシュレイに詰め寄る。よりによって女神の御使いである神鳥を捕らえているのだ。神聖国としては喧嘩を売られているに他ならない。


「急に襲ってきたから捕らえただけだよ。で、焼き鳥にでもしようかなと思って」

「思ってじゃないだろう!?それは神鳥メイフィール、女神の御使いだ!」

「えぇ、その可能性を察して何とか我が君をお止めして確認に来たところです…」

「あ、ヒュー兄」


はははとアシュレイは爽やかに笑っているが、ライオネルは怒り心頭だ。いや、あまりのことに若干引いてもいる。そしてさらにアシュレイの背後には疲労困憊という様子のヒューズがいた。おそらく主人の説得に苦労したのだろう。


「ケェェェ!」

「あ!」


番が囚われている事に憤ったのだろう。シルヴィアの頭にいた神鳥オルディウスが翼を広げてアシュレイたちの方へ飛びかかる。


「邪魔だ」


パキパキパキッ!!


アシュレイは手をかざすと瞬時に晶霊術で氷の檻を作り、神鳥オルディウスを閉じ込めた。


「わあああぁ!神鳥が!」

「げ、猊下!抜剣許可を!」


聖騎士たちが目の前でおきたことに混乱し、ライオネルを振り向く。


「待て!剣は抜くな。攻撃したのは神鳥からだ。ハウズリーグ王、神鳥を害するつもりはないだろう?」

「別にないよ。焼き鳥にしようかなって思ったけれど、あまり美味しそうなわけでもないし」

「や、焼き鳥…」

「美味しくなさそう…」


聖騎士たちを落ち着かせようとするライオネルの質問に、平然と答えるアシュレイ。逆効果にはなってしまったが、周りの聖騎士たちは怒りというよりもやはり引いている。アシュレイの側に控えるハウズリーグ兵たちも微妙な顔だ。


「襲ってこないという保証があるなら解放するよ。邪魔だし」

「邪魔って…」


あまりの物言いにライオネルは文句を返そうとしたが、ふと横にいたはずのシルヴィアがいなくなっていることに気づく。ご主人様のそばに行ったわけでもなさそうだ。


「お腹が空いてるから飛びかかってきたのかな?神鳥って何食べるんだろ?」


ふと下の方を見ると、シルヴィアがしゃがんでその辺にある大きめの石をどけていた。どうやら虫を探しているらしい。


「いや…食べようとして襲ったわけじゃないとは思うぞ。お前じゃないんだから」

「なるほど。俺は食べられるところだったんだねシルヴィ」


2人の王はシルヴィアの発言にかたや呆れ、かたや笑っていた。


「あ、ミミズ。これ食べるかな?」

「…シルヴィだったら俺とミミズ、どちらを食べたい?」


自身の代打がミミズと言われたアシュレイは、にこやかにシルヴィアに尋ねた。

答えを絶対間違えてくれるなよ…!と王の機嫌を損ねたくないハウズリーグ兵たちは、皆心を一つにしてシルヴィアを見た。


「へ、私?私はアシュを食べたいけど…」

「じゃあそのミミズを触るのは止めて、こちらにおいで?」

「うん!…え?」


言われるがままにご主人様に駆け寄ろうとしたシルヴィアを掴んで引き留めたのは、ライオネル、ではなくバースだった。虫を探しているシルヴィアのことは気にしないでいいと判断したらしい。ライオネルはむしろ神鳥の檻を炎で溶かそうか悩んでいる様子だ。


「え、バース?何で掴むの?」

「…俺はドルマルク神聖国の聖騎士。女神を崇めその教えと国を護る役目がある」

「うん?」


それはシルヴィアとて知っている。それと自身の腕を掴むことになんの関係があると言うのだろうか。


「その中には神鳥も含まれる」

「そうなんだ。…で?」

「お前を人質にして神鳥たちを解放してもらおうか、しかしそれはそれで女神の怒りをかうだろうかと考えあぐねている」

「えぇ??」


そんな胸の内を晒されても困る。だいたいアシュレイにとって晶霊1人なんて人質になり得ないだろう。


「はははっ…!それは困ったなぁ」

「バース!やめろ、離してやれ」


アシュレイは大して困っていなさそうに笑っているが、むしろ自国の王を怒らせたようだ。気づいたライオネルがすぐさま解放するよう命令した。


「聖王としての命令なら従う。が、離せばご主人様の所へ帰るぞ。それはそれで困るんじゃないか?」

「そ…れは…」


確かに困る。そもそもバースは神鳥と交換しようともしているが。ちらりとシルヴィアを見てバースは尋ねる。


「戻るつもりだろう?」

「アシュがおいでって言った。私も命令には従う。私の最優先はアシュ」

「別に命令って程ではないよ。聖王様のところにいたいならそれでもいいさ。シルヴィの最優先はシルヴィ自身だ」

「!」


当たり前のように答えるシルヴィアに、アシュレイは笑いながら否定する。


「バース!離して!アシュのとこ行く!」

「さすがご主人様はお前の扱いが上手いな」


慌てたシルヴィアがもがくも、その力ではバースは微動だにしない。むしろ冷静に、アシュレイの対応に感心していた。


「ピィィィィィ!」

「うおっと」


いつの間にか檻から出た神鳥が、今度はバースに向かって飛びかかる。まさか反撃する訳にもいかず、バースは慌てて避けた。

それを見てアシュレイは神鳥の檻を抱えていたはずのトラッドを振り向く。


「トラッド」

「聖王様が炎で檻を溶かしてました〜。俺は溶かされたくないのでただ見てました〜」

「まあ別に鳥に用はないからそれはいい。こちらに向かって来ないならの話だが」


特段気にする様子もなくアシュレイは解放された神鳥を見ていた。しかし、神鳥は再びアシュレイへと向かっていく。


「アシュ!」

「あ、シルヴィア!」


そこへさらに飛び出したのが、先程神鳥がバースへと飛びかかった際に解放されたシルヴィアだった。ライオネルが制止する間もなくすぐさまアシュレイに駆け寄り、ご主人様を守ろうと神鳥との間に両手を広げて面前に入り込む。


「おやおやシルヴィ、危ないよ?」

「だってアシュを攻撃させる訳には…!」

「鳥はなんか止まっちゃいましたけどね〜」


焦っているシルヴィアとは対照的に、トラッドがのんびりした声で指をさした。確かに飛び掛かろうとしていた神鳥は、2羽ともシルヴィアの前でぴたりと止まった。


「聖王猊下…これは一体…?」

「神鳥が…なぜ晶霊を見つめているんだ?」


聖騎士たちはシルヴィアをただの水の晶霊だと思っている。ハウズリーグの兵たちもだ。ライオネルとて、先程アシュレイからその出自を聞くまで知らなかったのだから当然ではある。


「今度はシルヴィを見ているみたいだね」

「な、何?お腹空いたならあっちにミミズがいるよ?私はアシュのだから食べちゃだめ」


先程ミミズを見つけた方角を指差すシルヴィアだが、何故かライオネルが正面で落ち込んでいる。


「…俺に的確にダメージを与えていくのをやめろ」

「よしよし、シルヴィはいい子だねえ」

「ピィィィィィ!」


アシュレイがシルヴィアの頭を撫でると、神鳥たちは飛びかかりはしなかったが、まるで威嚇するように鳴き出した。


「やれやれ。女神の僕たちは揃いも揃ってうるさいなぁ」

「俺も含めているだろそれ?…まあいい。それより、神鳥がこんなに騒いでいるんだ。何かしらの理由ばあるはずだろう」


言外に含む物がありそうな口調で言ったのは伝わったようだが、ライオネルはそれより神鳥の騒ぐ理由が気になったようだ。


「それこそ聖王様と同じだろ?シルヴィの主人である俺が気に入らないんだろう」

「へ?鳥が??」


平然とアシュレイは答えたが、シルヴィアとしては何故そんな話になるのか分からず首を傾げた。


「そもそも何しに来たの?お告げとかなんとかしに来たの?」


雄だか雌だかどっちがどっちなんだっけ?と思いながらシルヴィアが少し近寄ると、神鳥は2羽ともくいっと嘴で森の奥を指した。


「ん?」

「ピィィィィィ!」


先程より少し音を下げたが、鳴きながら飛び上がる神鳥たち。攻撃をしてくるようではない、これはむしろ…。


「ついて来いってこと?」

「こらこらシルヴィ。知らない鳥について行ってはいけないよ?」

「不審者みたいに言うな!御神託だ!皆、神鳥を追うぞ!」


首を傾げながらも思わずついて行きそうなシルヴィアを、笑いながら嗜めるアシュレイ。ライオネルはゆるゆると飛ぶ神鳥たちの後に続くように聖騎士たちへ指示をするのだった。


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