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アリモラウニの花

「アシュぅ…なんか身体が変なの…お腹空いてるわけじゃないのに…」

「うんうん、大丈夫だよ。それ以外に害がある花じゃないからね」


甘える様に擦り寄るシルヴィアを、アシュレイは抱き上げたまま優しく撫でる。慌てる様子もなく慣れた様なその態度に、ライオネルは一応助けられたのは確かだが内心複雑だった。


「ご主人様どうします〜?人払いしときます〜?」

「払われるわけないだろ!ってお前、そんな近づいても溶けないのかよ??」


ここで事を始めるか平然とアシュレイに聞くトラッドだが、よくよく気づけばいつの間にかシルヴィアの至近距離にいる。それは確実に溶けてしまいそうな距離だが…。


「あ〜ご主人様が近くにいる時は溶けないよ〜」

「俺のいないところでシルヴィに変なことしないための制約だからね。条件をつけておかなければ不便だろう?」

「お前ら…」


笑いながらいうアシュレイ主従にライオネルはまた苛立つ。じゃあさっきシルヴィアとトラッドを離れて歩かせるだのなんだの言っていたのは何なんだと思ったが、ただ揶揄われていただけなのだと瞬時に気づいて声に出すのはやめた。そもそも今はそれどころではないからだ。


「こらこらシルヴィ、こんなところでは駄目だよ」

「うぅ…我慢するぅ…」


一応この状態でもご主人様の命令には従うのか、ふるふるしながらもシルヴィアは耐えている。契約者の言うことを聞かずに気絶させられている晶霊も何人かいる中でだ。ライオネルは大人しくしてくれて安心はしたが、とはいえやはり複雑な心境でシルヴィアを見た。


「本当に従順なんだな…」

「シルヴィはいい子だからね。躾のなっていない晶霊とは違うさ」


飼い主の責任はどう問うかな…とアシュレイが振り向くと、騎士たちはびくりと震えた。


「まあ今はそれより…このまま放っておくのも可哀想だな。そこの木の陰ででもするかい?」

「するぅ…!」

「するな!婚約者の前でなんてこと言ってんだよ!」


ちょっと一服する?みたいなノリで言うアシュレイから婚約者を奪い返そうと近づくが、ヒューズとトラッドがライオネルの前に立ちはだかる。


「まあまあ〜。この2人がいちゃつくなんて〜いつもの事だよ〜」

「そもそも…食事でもありますから」

「だからって見過ごせるか!」


思わずバチバチと雷を身に纏い出したライオネルだが、それまで成り行きを珍しく静観していたバースがすかさず止めに入る。


「ライ、それはまずい。休戦中だろ?」

「…分かってる」


言われて少し頭が冷えたのか、ライオネルは見に纏っている状態だった雷を霧散させた。その様子を見てアシュレイは爽やかに笑いかける。


「ははは、冗談だよ。さすがにこんな場でそんな気にはならないからなあ。あ、でも聖王様は若いからできるのかな?」

「は?」


いきなり振られた話の方向性に、ライオネルは理解できずに聞き返した。


「あんた…本当にこいつをなんだと思ってんだよ!」

「もちろん可愛い俺の晶霊だと思っているよ」


苛立ちを隠さないライオネルに、全く悪びれることなくアシュレイは飄々とした笑顔で答えた。それがまたライオネルの神経を逆撫ですることを分かっていながら。


「…じゃあその認識は今日までだ。今日であんたとの契約を終わらせてやる!そうすれば残るのは俺との婚約だけだ」

「ははっ、凄いなあ愛の国の王様は。愛の力で人の契約を解除できるのか」


正面から啖呵を切って見せたライオネルに対して、アシュレイはおちょくるような態度のままだ。いやむしろまるで相手にもしていないかのようだ。


「…確かにライは足元にも及ばなそうだ」

「でしょう?」


何やら得心したかのように、バースはヒューズの横で頷いている。


「うぅ〜アシュぅ〜。も…ぅ、無理ぃ…」

「おやおや良い子のシルヴィならまだ我慢できるだろう?ほら」


二人の会話など聞こえてもいなかったのか、真っ赤な顔で息も絶え絶えになっているシルヴィアが声を上げた。しかしご主人様はまだ耐えろと言いながら背中をつつ…と触れた。


「ひゃん!」

「ご飯はさっき聖王様に貰ったばかりなんだろう?お腹が空いているわけではないって言ってたね、可愛いシルヴィ」

「ひうぅ…」

「どうしようかな?シルヴィが頑張ってくれたら俺もその気になるかもしれないね」


爽やかに笑いながら言うアシュレイの横で、ライオネルが静かに剣の柄に手をかける。が、その行動を予測していたのかすぐさまバースと聖騎士たちが止めに入ってきた。


「ライ、落ち着け!」

「猊下!おやめください!」

「違う、落ち着いてる場合か!魔獣だ!」

「え…!?」


味方に取り押さえられたライオネルが指す方を見ると、確かにハウズリーグ軍の背後に魔獣がいた。それも大型獣を含めて30匹ほどはいそうだ。近くにいたハウズリーグ兵たちも騒ぎ始める。


「ま、魔獣だ…!」

「おい、お前ら立て!発情してる場合か!」

「このままじゃ晶霊術が使えないぞ!?起きろ!」


晶霊たちは皆正気を失っていたり気絶していたりで、ハウズリーグ軍はまともに機能していない。慌てた兵たちは剣を抜くも、それだけでは大型獣たちに太刀打ちできるわけがなかった。


「来るぞ!離せバース」

「ああ!」


ライオネルは掴まれていた手を振り解き、アシュレイではなく魔獣に向かって剣を抜く。


「やれやれ、狙い澄ましたかのようなタイミングだな。動けるものは全員下がれ、巻き込まれないようにな」

「は、ははっ!」

「陛下のご命令だ!総員下がれ下がれ!」


晶霊術の使えないハウズリーグ軍を下げさせ、アシュレイ自身はその場でシルヴィアを抱えたまま動かない。その横をライオネルが駆け抜けて行く。


ダンッ!


「こちとらなぁ!お前らに構ってる場合じゃねーんだよっ!」


バリィィッ!


5メートルはあろう巨大な魔獣に飛び掛かると共に、剣先から雷撃を放つ。手早く鮮やかな一撃だ。


「聖王猊下は女の取り合いでお忙しいからな」

「うるせー!」


横で軽口を叩きつつ、バースも周りにいる中型魔獣を斬り捨てる。


「猊下に続け!女神に勝利を!」

「「女神に勝利を!」」


そして聖騎士たちもそれに続き、湧き出てくるように現れた小型の魔獣たちと応戦を始めるのだった。


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