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熱を帯びる晶霊たち

森の中を両軍揃ってぞろぞろ行軍している中、シルヴィアはちらちらとアシュレイの様子を伺っている。


「どう、したの?シルヴィア。主君に、何か、あるなら、話しかけたら?」

「う、ううん!別に…何かあるわけじゃないし、今忙しそうだし…」


共にご主人様の少し後ろを歩くロウルに言われたが、シルヴィアは即座に否定する。アシュレイは歩きながらもハウズリーグの騎士たちとこれまでの状況を話している様だし、実際何か急ぎの話があるわけではない。ただ…彼が今何を考えているかが気になっているだけだ。


「ただこう、なんていうか…落ち着かなくて」

「そっか、色んな感情が、整理しきれて、ないんだね?」

「そう、そうかも!」


その言葉にしっくりきたのか、思わずロウルの手を握りぶんぶん振りだすシルヴィア。


「別にそんな気にされてないのはわかってるんだけど…」

「そんなことは、ないと思うよ。どう、見ても」


アシュレイは忙しいのだから、契約晶霊のことまで構っていられないのは分かっている。だから煩わせたくないし、敵国の聖王とゴタゴタしている晶霊など面倒だと思って捨てられたくないのだ。シルヴィアのそんな考えをロウルは否定するが。


「それより、ほら。聖王様が、すごい睨んで、きてるよ、僕を」

「へ??」


その言葉に振り向くと、少し離れたところを聖騎士団を連れて歩くライオネルが確かに警戒するようにこちらを睨んでいる。


「な、何で??まさか攻撃すると思われてるの??」

「違うよ。シルヴィアが、手、握ってきてる、からだよ」


確かにシルヴィアはロウルの手を握っていたが、彼女にとってロウルは弟分だ。2人の間にそれ以外の感情はない。ないのだが…。


「あれは、ただの、嫉妬、だね。主君も、あれくらい、分かりやすければ、いいのに、ね」

「アシュにそんなのあるわけないって知ってるくせに…。ロー君ってトラちゃんにそういうとこ似て…」


とその時、シルヴィアの後ろを歩いていた男の晶霊がいきなり腕をがしりと掴んできた。


「へ?な、何…??」

「ごめん…なんか、急に君を見てたら…」


大した面識があるわけもない、先程少し話しただけの晶霊だ。その男が急に熱を帯びた目で見つめて近づいてきている。おそらく彼の主人だと思われる騎士もわけが分からず目を見開いている。


「すごく、触りたい…いいかな?」

「良いわけねぇだろアホがっ!!」

「がっは…!」


パァンッ!!


すぐさま駆け寄ってきたライオネルが、シルヴィアから引き離し、神聖術で男を吹き飛ばした。先程からずっと彼女に注視していたため対応は早かったようだ。


「なんだ!?いきなり何しているんだお前!?」

「この状況でどう考えても手を出していい相手じゃないだろ!?」

「もはや剥き出しの爆弾なんだから見ればわかるだろ!」


周りにいたハウズリーグ兵たちに慌てて取り押さえられるが、晶霊はジタバタ暴れている。そして騒ぎはそれでは収まらない。


「うわっ!何だ急に!?」

「ご主人様…私、なんか身体が…」

「君、可愛いね…」

「お前ら急にどうした!?やめろこんなとこで!」

「うお!やめろ!そんな趣味はない!」


よく見るとあちこちで晶霊たちが赤い顔をして騎士に抱きついたり晶霊同士で抱き合ったりし出して、慌てた騎士たちに止められていた。何なら過激な者は殴られている。


「な、何だよ??ハウズリーグ軍は発情期なのか!?」

「うわぁ…」


ドルマルク軍は正常な状態のため、ライオネルや聖騎士団は引きながら見ていた。ちなみにハウズリーグ軍もアシュレイを始め、人間の兵たちは止める側になっているだけで盛ってはいない。というか晶霊の数名がよりによってアシュレイに寄って行ったため、兵たちは慌てて捻り伏せていた。


「ライ…なんか、いい匂いする…」

「おわっ!?ちょっ…」


そしてシルヴィアも例外ではないようで、助けるために抱き寄せていたライオネルにそのまま擦り寄ってきた。愛しい婚約者の突然の行動に動揺したライオネルは思わずバランスを崩し、そのままどさりと尻餅をつく。


「猊下っ!?」

「ど、どうする?止めるか…?」

「いや、愛があるなら止められないだろ…」


聖王猊下が馬乗りにされてしまったため、助けるかどうか聖騎士たちは判断に迷い顔を見合わせた。が、相手は先程ライオネル自身が熱烈に口説いていた女性でしかも婚約者だ。聖騎士たちはどうすればいいか分からず狼狽えるしかない。


「ライ…もっと触りたい…」

「待て待て待て、やめろほんとにやめろ!危ない危険だ何するか分からないぞ俺が!」


何かするのは聖王猊下の方だと本人も言っている。どう見ても服をまさぐられているのは彼の方だが。


「だって…。ん…なんか、熱い…」

「あ、こら脱ごうとするな!いきなりどうした!?」


馬乗りになったまま今度は服を脱ごうとするシルヴィアを、ライオネルは顔を赤くして必死で止める。こんなところで脱いでくれるなと。


「わ〜お、みんな情熱的〜」


そんな中でもトラッドは正気の様だが、しかし止める気もなくただヒャヒャヒャと笑って見ている。ロウルも特段変わった様子はないが、主人の命令がないからかやはり無表情で黙って見ていた。


「なんだ?ライ、これはどういう状況だ?」

「バース!」


あちこちで騒いでいて混沌とする状況をかき分け、聖王の懐刀たるバースが現れた。ライオネルはどうすることもできないこの状態に、救いを求める様に彼を見る。しかしバースから見れば、ライオネルは愛しい婚約者に抱きつかれているだけだ。少々場所が問題ではあるが。


「助け…る必要はない、か?」

「盛っているのは晶霊たちのようですね」

「あ〜ヒューズじゃ〜ん」


バースと一緒にいたらしいヒューズもひょっこり顔を見せる。一応彼も正気のようだが、なるべく息を吸わないようにか服の裾で顔を覆っている。


「何なんだよこれは!また魔術か何かか!?」

「魔術、ではない、ね。この匂い、多分…」

「多分〜アリモラウニの花じゃないかな〜」


シルヴィアに擦り寄られながらも何とか理性と戦うライオネルに感心もしくは同情したのか、一応ロウルとトラッドが質問に答えた。


「アリ…?いやとにかくこれどうにかしてくれ!」

「え〜ラッキースケベで頂いちゃえば〜?」

「聖王様、そういう体質、っぽいもんね」


そういう体質とはどんな体質だ。


「んっ…」

「!やっ…めろ!首を舐めるな!」


2人との会話に気を取られた隙に、首筋を舐められライオネルは動揺を見せる。もはや心臓は早鐘のようだ。

しかし当のシルヴィアはライオネルに言われたとて全くやめる気配はない。


「お前ほんっとに俺の言うこと聞かないな!?止めろって!」

「んゆっ…」


何とか理性を保ちながらシルヴィアを手で押しやるライオネル。いやさすがにこんな所でどうこうするわけにもいかないが。


「じゃあ…ライが、舐めて?」

「ぶっ…!」


先程からずっと理性を見えない拳で殴打されているかのようだったが、とうとう綺麗なストレートが決まったらしい。


「いや、お前な…!本当に、一旦離れろ!お前らも見てないで止めろ!」

「お、お止めすべきなんですか…??」

「また一歩越えた公開プレーなのかと…」

「またって何だよ!?公開した覚えなんてねえよ!」


周りでオロオロしている聖騎士たちは言われてもピンとこなかったようで、すぐには動かない。しかもライオネルにとって不名誉なことまで言い出す始末だ。確かによく目の前で吸精という名目のキスはしていたけども。

そんなライオネルたちの様子を見てトラッドはまた笑い出す。


「本人もそう言ってるしもうあっちの暗がりで食べちゃいなよ〜。さっきは聖王様から迫ってたんだし〜今なら両者合意じゃ〜ん?」

「どう考えても正気じゃないだろ!そもそも何なんだよそのアリ…なんとかって花は!」

「晶霊に効く、催淫効果のある花だよ。ほらシルヴィ、おいで」

「アシュ…?」


トラッドはケラケラ笑って取り合わなかったが、いつの間にか近づいていたアシュレイが両手で抱き上げてシルヴィアを回収した。彼女は正気ではない様だが、ご主人様の命令には素直に従うらしい。特に抵抗することなく大人しくその腕に収まったのだった。


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