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笑顔に弱い

逃げるように森の中を歩き出したシルヴィアにトラッドはのんびりと警告をする。


「一人で歩くと危ないよ〜。文字通り森の獣の餌になるよりは聖王様に食べられた方がよくな〜い?」

「いや、俺を獣と並べるなよ!…シルヴィア、さっきは悪かった。変なことしないようにするから逃げんなよ」


歩いて横に追いついて来たライオネルの言葉に、シルヴィアは疑わしげな目で見つめる。本当に?とその目は訴えていた。


「ってか変なことされてもよくな〜い?今ここにあるシルヴィアのご飯は聖王様だけじゃ〜ん。美味しくいただけば〜?」

「トラちゃん!」


緩やかにかつズバッと言うトラッドに、シルヴィアは驚く。確かにそれはそうだし、以前ならシルヴィアもそう思っていたかもしれないけども。


「まあ俺はどっちでもいいけど〜、あ、でも餓死しそうになったら俺にも分けて欲しいかな〜」

「お前ら俺を何だと…」

「トラちゃんは他のみんなみたいに手から吸精できるの…?」


ヘラヘラと軽く話すトラッドに、ライオネルは自身の扱いが雑すぎないかと抗議をした。が、シルヴィアは別のことが気になったようだ。


「あれ〜?俺らとの吸精方法の違いについて知ってたのシルヴィア〜」

「さっきアシュに聞いた。私が女神の娘だから他と違う吸精方法なんだって…」


女神の娘云々の件をトラッドは前々から知っていた様子で、シルヴィアの言葉に驚く様子もない。シルヴィア的にもアシュレイと出会った時には彼も横にいたため、分かっているのだろう前提で話している。


「そうだね〜、俺はエロい方法じゃなくて普通に手から取れるよ〜。だから聖王様に不埒なことしないから安心して〜?」

「不埒っ…??」


まさかの仲間からの自分への認識に驚くシルヴィア。


「えっ、待って??トラちゃん、私の吸精方法をエロくて不埒…って思ってた…ってこと??」

「うん。だってエロくな〜い?」

「い…や、まあ…」


ね〜?と唐突に同意を求められてライオネルは返答に詰まった。どう答えるのが正解だと言うのだこれは。


「聖王様も可哀想だよね〜?散々エロい方法で吸精させられて〜、その気になったらむしろ拒まれるとかさ〜」

「え、えろ…」


かつて神聖国でバースやライオネルに言われた時にはダメージはなかった。そういう契約だし、アシュレイの晶霊は皆同じだと思っていたからだ。しかし周りと吸精方法が違うと知った今、兄のような存在のトラッドにそう言われてシルヴィアは確実にショックを受けていた。


「おい、やめてやれ。ショック受けてんぞ」

「自覚させておくのはいいんじゃな〜い?ご主人様がそこちゃんとしておけば、シルヴィアもよその男に腰振らなかっただろうにさ〜」

「振ってない!トラちゃんのばか!」


思わずトラッドに近寄るシルヴィアだが、その瞬間トラッドがじゅわじゅわ湯気を放ち出す。


「わ!わー!トラちゃん!溶けてる溶けてる!!」

「おわーっ!」

「いやまだ大丈夫〜」


慌てたシルヴィアはトラッドに晶霊術で水をかけ、ライオネルは彼女を抱えてトラッドから引き離した。本人は何故か余裕そうだが。


「とにかくさ〜、ご飯のために誰彼構わず迫る婚約者じゃ嫌だろ聖王様も〜」

「そ…れはまぁ…」

「誰彼構わなくない!契約者にだけ…」


言いかけたシルヴィアだが、先程ライオネルに精気を貰ったことを思い出して口をつぐんだ。


「ん〜?契約者にだけ〜?」

「では…なかっ…たけど、あとは、ライ、だけだし…」


トラッドに問われて、シルヴィアは顔を赤くしながらぽつりぽつりと言い訳のように呟く。


「やっぱ聖王様は特別なんだ〜?婚約者だもんね〜?」

「最初は戦場だったし…!そのあとは捕虜で…!だからご飯の支給だし…」


さらに草を踏み締めるように詰め寄るトラッドに、水をかけながらシルヴィアも答える。ライオネルとしてもトラッドが溶けるというグロい絵図を特段見たくはないので、一応じりじりとシルヴィアを抱えて後ずさっていく。なんだこの状況とは思いながら。


「ま〜その状況なら俺だってくれるもんなら貰うよ〜。誰からでもさ〜」

「ほら!トラちゃんだって…」

「で、今は?」


何だ同じじゃないかと言いかけたシルヴィアだったが、トラッドはへらへら笑いながら近づくのをピタリとやめた。


「え…」

「力ずっと使ってたよね〜?お腹空いたんじゃな〜い?」


言われてハッとするシルヴィア。トラッドが溶けないようにずっと晶霊術で水をかけていたのだ。大した力ではないが同時に治癒の術もかけている。そうすれば確かに…。


「…腹、減ったのか?」

「ち、違…」

「俺もすいたな〜。ここにご主人様いないしな〜。くれるって言うなら誰からでも有り難く貰うな〜」


わざとらしく言うトラッドの声が森に響く。そのうるさいまでの響きをご主人様が聞いたら、その辺の虫からでも摂取してろと言われそうだが。


「わ、私は…」

「むしろシルヴィアもさ〜、その辺の兵とかからなら気にせず貰うんじゃな〜い?」


言われてシルヴィアは考える。確かに最初はライオネルからもらう時も特に何も気にしていなかった。今だってよく知らない兵とかならあまり気にしないかも…?いやでもそれならなぜ…。


「聖王様にだけ顔を赤くして断るのは、なんでかな〜?」

「何でって…」


後ろから自分を抱き抱えたままだったライオネルを、シルヴィアはそろりと見上げた。


「…食べるか?」

「た…べ、ない…!」

「耐えてる耐えてる〜!いいよぉ〜どこまで頑張れるかな〜?」


拷問が趣味と名乗るだけあり、トラッドは明らかに面白がっている様子だ。


「そぉーれ、そぉーれ、いっき!いっき!」

「ぐぅ…食べ、ないもん…!」

「ぷっ…はははっ…、何変な顔して訳の分からない意地はってんだよ」


トラッドのアホみたいな煽りにぶるぶるしながら耐えるシルヴィアに、むしろ笑ってしまうライオネルだった。


「えう…」

「ん〜?これはクリーンヒットかな〜?」


笑顔のライオネルを見て何故か固まるシルヴィア。その表情は誰が見ても、な顔をしていた。


「ほら、いいから食っとけよ。もう今さらだろ」

「ラ…」


ドーンッ!!


シルヴィアが思わず受け入れそうになったその時、突然遠くから爆発するような音が聞こえた。


「ひゃあ!」

「晶霊術と〜神聖術のぶつかりあう音だね〜」

「誰か停戦協定破りやがったのか!?いくぞ、あっちの方だ!」


ライオネルはシルヴィアを肩に担ぎ、音のした方角に走り出した。トラッドも付かず離れずの距離で後に続く。


「え、ちょ、ライ!またこの山賊スタイル??」

「緊急事態だ!じっとしてろ!」


ご飯は?とあやうく言いそうになったシルヴィアだが、何とか踏みとどまり大人しく森の中を運ばれることにするのだった。


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