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かつての兄貴分

「やっぱシルヴィアじゃ〜ん」


手をひらひらと振りながら黒髪の晶霊が近寄ってくる。シルヴィアは何故かライオネルの背に隠れている。


「誰だ?」

「トッ…、トラちゃん!」

「あっは、聖王様と2人とかウケる〜!しかも俺よりそっちのが信頼あるっぽいし〜」


そう言ってにやにやしながら近寄ってくる男の手にはシルヴィアが持つのと同じ模様のアシュレイの契約紋がある。つまりは同じ契約者を持つ晶霊同士というわけだが…。


「おい、なんでこいつをそんなに警戒するんだ?お前の兄弟分なんじゃないのか?」

「だ、駄目!それ以上近づかないで…!」


一定の距離まで近づいて男はピタリと止まる。


「大丈夫、これ以上は近寄らないよ〜。ご主人様の命令だからね〜」

「近寄らないって…それは敵である俺にか?それとも…」


状況的にどちらかと言うとシルヴィアにっぽいが、シルヴィアはアシュレイの契約晶霊たちとは兄弟みたいなものだと言っていた。実際ライオネルが今まで見てきた晶霊たちとは仲が良さそうだったが…。


「ご主人様の可愛いシルヴィにだよ〜。俺が触ると溶けちゃうからね〜」

「はぁ??それは酸か何かの晶霊術なのか?ってか制御できないのか?」


思わずライオネルも障壁を張るが、トラちゃんことトラッドは気味の悪い笑いをしながら告げる。


「いや、俺が溶けるだけだよ」

「お前かよ!」

「ご、ごめんトラちゃん…!」


何なんだこいつは!と言う顔をしながら一応シルヴィアを背に庇い続けるライオネル。目の前の男が溶けるだけなら、庇う必要があるのかは分からないが。


「シルヴィアは悪くないよ〜。でもシルヴィアに触ったら俺が溶けちゃう制約を、ご主人様にかけられてるんだよね〜」

「何でそんな…」


間延びするような話し方をするトラッドはどこか不気味ではあるが、他の男が彼女に触れようと飄々として嫉妬心など殆ど見せてこないアシュレイだ。そんな彼がわざわざそこまでするのもライオネルには不思議だった。


「ん〜聖王様、シルヴィアのこと好きなんでしょ?ならこれ言ったら今度は聖王様に斬りかかられるかもだしな〜」

「は?お前、こいつになんかしたのか!?」

「だ、大丈夫だよ?未遂だし。あまり考えず簡単に実験に協力するって言った私も悪かったから…」


実験。何やらすでに雲行きの怪しい響きである。まずは自己紹介かな〜と言いながら男は恭しくお辞儀をした。


「改めまして聖王猊下。俺は拷問部屋の管理人トラッド。ハウズリーグ王の晶霊で、そこにいるシルヴィアの元兄貴分。ご主人様に怒られてから今は…なんだろな?まあいいや。とにかく色んな拷問を研究するのが趣味なんだ〜」

「この時点で嫌な予感しかしないが…シルヴィア、何をされたんだ?」


トラッドの自己紹介を受けて、ライオネルは恐る恐る背後にいたシルヴィアに尋ねる。


「えっと…正確には別に何もされてなくて、話の時点でアシュに止められちゃっただけで…」

「胎内を使った実験をしていいかって話をしていただけなのにね〜」

「よしわかった斬ろう」


即断したライオネルが剣の柄を握ったところでシルヴィアが慌ててとめる。


「待ってライ!トラちゃんは研究熱心なだけで、別に危険な晶霊じゃない!」

「いやそんな実験をお前に持ちかける時点で既に危険な奴だろ!」

「だから近づいたら溶けちゃうようにされてるんだよ〜。あれ以来兄と呼ぶなと言われてるしさ〜。逆にシルヴィアにとってはある意味無害だよ〜。聖王様よりもさ〜」


今にも斬りかかろうとしていたライオネルは、トラッドの言葉にピタリと止まる。


「完全に襲ってたよね〜?こんなとこで愛の国の王ってすごいね〜」

「お、前…見てたのかよ」

「見てたよ〜超長いキス。ご飯にしては抵抗してたし〜でも本気で嫌がってはないって複雑〜」

「!?」


トラッドがにやにや言ってくるのをシルヴィアはびくりとする。


「ちゃ、ちゃんと抵抗してた…!」

「本気で嫌がってたらさすがに止めてたけどさ〜、そうじゃないなら別にな〜」

「違う!本気で嫌がってたの!」


顔を赤くしながらムキになって言うシルヴィア。その必死さは確かに怪しい。


「嫌じゃなかったのか?」

「俺は拷問部屋の管理人だよ〜。人の考えなんてすぐわかるし、触らなくてもシルヴィアに本音を吐かせることなんて超かんた〜ん。やろうか聖王様?」

「や、嫌!やっぱり近づかないでー!」


ライオネルとしては魅力的に聞こえてきそうな話だが、返事は…。


「やめろ。これは本気で嫌がってんだろ。そういう風に追い詰めたくない」

「ライ…」


きっぱりと断るライオネルに、その背中にいるシルヴィアは服の裾を握りしめる。


「あ、ほら今キュンとした。脈どころか今なら心臓掴めそうだよそれ」

「ち、違うっ!」


ニタニタ笑いながら言うトラッドにさらに必死で否定するシルヴィア。


「あ〜、でもご主人様が怒るかな〜。どこにいてもシルヴィアのこと見つけるだろうし〜」

「アシュは別に怒らないしそこまで探さないと思うけど…」


一応森から帰る時は探してくれはするかもしれないが、ライオネルを選んだと判断されたら即座に笑顔で契約を終わらせてしまいそうだ。


「そ〜?ま、シルヴィアにはそう見えてるんだろね〜。でもほら、見てよ俺の契約紋〜この距離でもうめっちゃ高熱になってるから〜」


トラッドがシルヴィアに手をかざすと確かにその手はじゅわじゅわと湯気を放ってきていた。恐らく彼の言うようにご主人様であるアシュレイがそうさせているのだろう。


「ト、トラちゃん!そのままだと溶けちゃうよ!?」


思わずシルヴィアはライオネルの背に隠れたまま水の晶霊術を放ち、じゃばじゃばとトラッドの手を冷やす。


「このくらいならまだ平気だよ〜。それよりシルヴィアの方が力無くなるよ〜」

「だ、大丈夫!さっき貰ったし…!」


はっ!と気づいたシルヴィアが水の術を止める。本人の言うようにトラッドの手はまだ大丈夫なようだ。水滴を振り払うように手を振っている。


「あぁそっか聖王様がいるから大丈夫か〜。ならむしろまた襲われたいのかな〜?」

「ち、違う!も、もういいからアシュたちを探す!」

「おい、だからはぐれるから1人で行くなって…」


くるりと向きを変え、シルヴィアは1人でスタスタ歩き出した。ライオネルも慌ててそんな彼女を追う。


「シルヴィア〜足元〜」

「へ?ひゃうっ…!?」


トラッドが間延びした声で忠告するも、間に合わずにシルヴィアは木の根に引っかかる。


「…っと」


足を取られて転びそうになるも、すかさず後ろにいたライオネルが抱き止める形でシルヴィアを助けた。


「び、びっくりした…!ライ、ありがと…」

「お、おう。気をつけろよ…」


そのままなぜか無言になる2人。ライオネルは後ろから抱きしめた腕を離さないため、シルヴィアはぶら下がったままだ。


「え、あの…ライ?」

「いやもういっそ一回することしたら〜?それから諸々考えなよ〜。俺ちょっとはずすからさ〜」


焦ったい2人にトラッドは具体的な解決策を提案した。最低な案だが。


「いや、しねぇよ!」


言われて慌ててシルヴィアを離すライオネル。この反応は以前と同じだ。が。


「え〜さっきあんなにがっついてたくせに〜」

「そ…れは、まぁ…」

「き、危険…!」


2人の会話を聞いてシルヴィアはまた逃げるように歩き出すのだった。

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