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好きか嫌いか

アシュレイは笑顔で腕を組んでこちらを見ている。何を考えているのかは全く分からない。シルヴィアは恐る恐る名前を呼んだ。


「ア、アシュ…」


そろそろとご主人様へ手を伸ばそうとしていたシルヴィアの身体を、ライオネルは自身へと抱き直す。そしてアシュレイをみて笑いながら告げる。


「見ただろ?こいつは俺を選んだんだ」


彼女やそのご主人様が何か言う前に、ライオネルは先手を打ったのだ。


「そうだね、見てたよ。君に手を伸ばしたね」

「ち、違…!」

「ちゃんと俺の名前まで呼んでいた。間違えたわけじゃない」


にこやかに返すアシュレイに、真っ青になってシルヴィアは言い訳をしようとするも、ライオネルによって阻まれる。確かにはっきりと、ライと呼んでいた。


「う…あ…」

「シルヴィ、大丈夫。怒っていないよ?ただ…」


グラッ…!!


アシュレイが何かを言いかけた瞬間、また大きく森が揺れた。晶霊術や神聖術では防げないこれは…。


「うおっ!?」

「また女神か…」

「アシュ…!」


再び空間が歪み、シルヴィアの目の前は真っ暗になった。けれど、その身体を掴む温もりだけはずっと感じられていた。


――


「…シルヴィア、おい、シルヴィア!」

「…あ、れ?ライ…?」


意識を失っていた感覚はないけれど、また転移させられたのだろうか。先ほどとは少し景色が違う。森は森なのだが。


「またみんなと逸れちゃった…?」

「みたいだな。気づいたら周りは誰もいねえ。抱えていたからお前とは逸れなかったが…」


ライオネルの言う通り、シルヴィアは先程と同じように横抱きにされていた。そうか、温もりを感じていたのは彼の体温か…と、シルヴィアは考え…。


「ライ、降りる…」


そう言って顔を逸らしながら、ライオネルの身体を押しやるように手を出し身をひねる。


「あのな。ご主人様の方が良かったとか言うなよ、さっきは…」

「違う、恥ずかしいから…」


なぜか顔を赤くして言うシルヴィアに、思わずライオネルまでつられて赤くなる。


「お、おう…?」

「ありがと…」


その予想外の反応に動揺して、言われるがままにシルヴィアを地面に下ろした。


「…とりあえず、先へ進むか」

「そう…だね。みんなを探さなきゃ…」


“みんな”とは誰のことなのか。ご主人様と会ったら先程の件はどうなるのか。そこにはあえて触れずに、2人は歩き出した。


「…そういえばライはお腹すかないの?」

「そういや全然だな。以前に来た時もそうだったが…時間がどのくらい経っているかも分からないし、本当に訳の分からない森だな」


最初に森に入ってからしばらく時間が経ったような気がするが、休憩したとはいえお腹も空かないし疲労も無い。それはそれで大丈夫なのかは分からないが、今は進むしかなかった。


「さっき、お前ら晶霊が暴走したのは覚えているか?」

「覚えてる…でも、なんでかはわからない…。何か頭の中に響いてきたんだけど…」


そういえばそこを聞いていなかったなとライオネルはシルヴィアに尋ねた。


「頭が痛そうにしていたのは大丈夫なのか?」

「今はもう大丈夫。ヒュー兄たちは大丈夫かな?私はあの後ライにごはん貰った…け、ど…」


言いながらシルヴィアは己の発言に気付き、そのとたんにまた顔を赤くした。


「いや…なんで赤くなるんだよ?」

「わ、わかんない…!なんか、変なの…!」


またつられて顔を赤くしながらライオネルが尋ねると、シルヴィアは思わず逃げるように足早になる。


「おい、逸れたら危ないぞ。別にとって食いやしないから逃げんな」

「わ、わかってる…!」


ライオネルは簡単に追いつくと、頬を赤く染めたまま頷く彼女の横につく。そして2人はややスピードを緩めて歩き続けた。


「…」


なぜかシルヴィアは顔を赤くしたまま無言で歩いている。その表情はよく分からないが恥じらっているようにも見えた。


(は?これ押せばいけるんじゃないか?何なんだこの反応は?正直めちゃくちゃ可愛いんだが?いや待て落ち着け俺。このままではとって食ってしまいかねない。聖王たる者が神聖な森でそんな真似は…いやでも女神の信託がそもそも結構力技だし、親的にも許可をだしているってことか?婚約者なんだしなあ…。あれ?でも父親は?)


煩悩だらけの聖王猊下はぐるぐると思考を巡らせている。


「…ライ、ねえ、ライ…」

「へっ!?な、なんだよ…?」


気がつけばこちらを覗き込むように見ていたシルヴィアに思わず動揺した返事を返す。


「あのね、これ、晶霊術封じの腕輪…」

「あ、ああ悪い。さっき暴走してからそのままだったな」


シルヴィアが見せてきたのは手首につけられた封じの腕輪だ。そういえばすっかり忘れていた。


「ううん、アシュがいないところでまた暴走したら困るからこのままでもいいんだけど…」

「暴走したらまたつければいいだろ。さっきの被害も雨くらいだし。俺がいるから大丈夫だ」

「ありがと…でも、あの、この森のせいもあるかもなんだけど…」


言いながらライオネルは即座に腕輪に力を流してぱきりと壊した。しかしそれではなく、どうやらシルヴィアは何かを言おうとしている。


「…私、封じの腕輪してると、強くじゃないんだけど、精気がじわじわと吸収される感覚があって、なんか、その…」

「腹減ったのか?」


もじもじしている理由はよくわからないが、要はお腹が空いたという話をシルヴィアはしているようだ。


「う…。ちゃ、ちゃんとアシュから貰えば大丈夫だったんだけど…」

「さっきも目の前にいたご主人様じゃなく、俺を掴んだからな」


痛いところを突かれてシルヴィアはびくりとする。


「や、やっぱりなし!今の話は何でも無い!」

「別にいくらでも俺を食えばいいだろ?今はご主人様もいない緊急事態だ。そもそも前は遠慮なく食ってたじゃねえか」


目の前で食べた先程もアシュレイは怒ってはいないと言っていた。そこから何かを言いかけてはいたが。


「だって、なんかみんなと違ったみたいだし!よくわからないけど、考えたら!は、恥ずかしくて…!」

「は…」


可愛らしく真っ赤になった顔を手で隠しながら話すシルヴィア。それを見てむしろライオネルが我慢できずに彼女の手を掴んで目を見つめた。


「え」

「食えよ」

「た、食べない!ライ、だってな…んむっ…」


まだ色々言っている彼女の言葉を遮るように、ライオネルはシルヴィアの唇を塞いだ。


「んっ…ふっ…」


キスをしながら抱きしめてきている彼の胸を、シルヴィアが抵抗するようにドンドンと叩くもびくともしない。


「んんっ…やっ…!」

「…はっ…ほら、俺を食べろよ。食べるまで止めねえからな」


そういうとライオネルはまたシルヴィアの唇を貪りだす。待ってと言う言葉すら出させずに。食べろと言うがむしろ食べられているのは自分なのではと彼女に思わせる勢いだ。


「んっ…んんん…!」


しばらくその攻防は続いたが、とうとうシルヴィアが根負けしてライオネルの精気を吸収した。


「はあっ…はあっ…」


ようやくライオネルから離されると、後ろにあった木に身体を預けてシルヴィアはずるずるとへたり込んでいく。


「…ライの、ばかぁ」

「…お前が、意地はるから…」


そのまま俯いて文句を言うシルヴィアに、しゃがんで手を差し出す。が、彼女はその手は取らない。


「た、食べられちゃうかと思った…」

「…それは、今凄ぇ耐えてる…」


潤んだ目で真っ赤になって息を整えているシルヴィアを見ていると、正直それ以上のことをしそうである。が、ここで我慢をしなければあの変態と同レベルだとライオネルは己を律した。


「…ライのすけべ!なん、でこんなことするの…?」

「人を弁当呼ばわりしてたのはお前だろ。…けど、可愛いからだ。こんなことするのはシルヴィアにだけだ」

「わっ…私、アシュのなのに…!」

「シルヴィア。晶霊契約にそこまで縛りはないんだろ?なら俺をお前にやるから、お前を俺にくれよ」


何を言っても口説くように言い返してくるライオネルに、シルヴィアはさらに赤くなる。


「ラ、ライは…聖王様なんだから女神と国のものでしょ??」

「聖王としてはな。けれど1人の男としては愛も真心も全てお前に捧げると誓っただろう」

「え??あ!…あれ…!」

「そうだ。祝勝会の夜に、言ったはずだ」


そう。あの時はよく分からなくて伝わらなかったけれど、ハウズリーグに帰った後から思い返して気づいたあれだ。


「あ、れって…その、プロポーズだったの?」

「それ以外のなんでもねえよ!あんな場でプロポーズして適当に流されて戦場で再告白した上で他の男に掻っ攫われた愛の国の王が俺だ!」


早口で捲し立ててきているライオネルは、むしろやけになって言っているのだろうか。それにしても改めて聞くとかなり不憫な話だ。


「で、でも、私はアシュので、敵国の晶霊で…」

「それは一回置いとけ。俺が聞きたいのは男として好きかどうかだ。それ以外の問題はまた解決する。俺はお前が好きだ。お前は?好きか嫌いかで答えろ」

「それは好きだけど…」


はっ!とシルヴィアは手で口を塞ぐ。勢いに押されて何か言ってはいけないことを口走ってしまった気がする!と。


「!ち、違うの…!好き嫌いの2択ならって話で、ライが好きだけど、そういうことじゃなくて…」

「…うん、わかってる。けど…やばい。すげえ嬉しい」


慌ててさらにもう一度好きと言っているシルヴィアに、ライオネルは噛み締めるようにして顔を赤くする。


「完全に脈がないわけじゃない。じゃあ他の問題は全部解決できる」

「…違うんだってば!」


満足気に笑うライオネルはシルヴィアの手を掴むと立ち上がらせる。赤くなって否定するも、今の彼女には説得力はないのであった。


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