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2人の出会いは

「女神の娘…って、え、でも私そんな記憶ない…」

「生まれてからほぼずっと眠っていたらしいからね。12年前にこの森で俺が見つけて起こしたんだ」


シルヴィアの質問にアシュレイはにこやかに答えている。


「起こすってそんなんどうやって…」

「当時はまだ王子だったからね。眠り姫を起こす方法は一つだろう?」

「はぁ??ふざけてんじゃねえよ!」


ライオネルの質問に、アシュレイはふざけてるのか本気なのかよくわからない笑顔で返す。発言と合わせるとふざけているようにしか思えないが。


「…猊下、我が君の言葉は真実です。眠っていたシルヴィアにいきなりキスをして目覚めさせました…」

「とんでもねえ14歳だな!?」


当時を見ていたのだろうヒューズが、フォローをするかのように言うとライオネルはむしろ引いた。


「ははは、だって当時からずっと可愛かったからねシルヴィは」


そう言うとアシュレイは近くの木をいきなり晶霊術でスパンと切り倒す。


「な…!?」

「は!?」


いきなりの謎行動に、バースが思わずライオネルを庇うように前に出た。が、アシュレイには別に攻撃の意思はない。ドシンと倒れた木の音も気にせず、そのまま自らが作った切り株に悠然と腰掛ける。


「どうした?話をするなら君たちも座ったらどうだい?」

「いや嘘だろ!?座るためだけに神秘の森の木を切るとか…!」

「こっちにある岩とかじゃダメだったんですか…?」


にこやかに着席を勧めてくるアシュレイに、ライオネルはもちろんバースすらドン引きである。ヒューズはまた横から、我が君は雑なんです…と呟いてきている。


「ほら、君もおいでシルヴィ」

「うん」


アシュレイが横にいたシルヴィアに手を伸ばすと、彼女は当たり前のようにちょこんと彼の膝に着席する。


「なんで膝の上に座らせんだよ!?」

「可愛いシルヴィを地面には座らせられないだろう?」

「アシュは紳士」


紳士は眠っている初対面の女性にキスをしないだろう…とライオネルたちは思ったが、シルヴィアは曇りない目をしていた。


「いや待てよ、お前散々人のことガキ扱いしておいて精神年齢12歳かよ??」

「違う。晶霊は人と同じようには成長しないし、そもそも年はとらないもん」

「ははは、もし年を数えるなら実年齢は500歳超えだね」


ライオネルの言葉をシルヴィアは即座に否定する。


「そんなことより。女神の娘というのはいったい…」


話を戻そうとバースがアシュレイに尋ねる。アシュレイはふむ、と考えるそぶりを見せてから口を開く。


「国が二つに分たれた時に、女神様のお腹には子供が宿っていた。やがてこの森で娘を産み落とし、そして隠した。…っていうのがハウズリーグ王家の言い伝えだけど、聖王様はそういう話は知らないのかな?」

「…先代も先先代も急死だった。そんな話を伝える間もなかったんだろう。本来俺はスペアでさえないはずだったしな」


アシュレイは聞いて良かったのかわからない伝承をさらりと話した。そして国を継ぐつもりなどなかった三男のライオネルは、全く神聖国の伝承を知らないという。


「君がスペアではないのはまあそうだろうね。むしろ前聖王様の方が繋ぎじゃないか?…いや、そんなことはいいか。で、その言い伝え通りに女神の娘シルヴィが寝てたから起こして連れて帰った。まあそれだけの話だね」

「それだけって…なんで女神の娘ってことを公表しなかったんだ?」


当たり前のように言うアシュレイだが、女神の娘を起こしておいてなぜ今に至るまで普通の晶霊のように扱っていたのか。ライオネルにはその理由が分からなかった。


「ハウズリーグの先王は権利欲が強いが妄執の激しい愚物でね。女神の娘を連れ帰ったなどと知られると碌なことにならないだろうから黙っておいた」

「いや、先王ってお前の親父だろ??それに今はあんたが王なんだしもう黙ってる必要は…」


笑いながら自分の父を貶すアシュレイにライオネルは驚いた。父親が亡くなっているのは同じだが、そこにある感情はまるで違うようだ。


「黙っている必要はなかったとしても、わざわざ公表する必要だってないだろ?」

「はあ??」


しれっと言うアシュレイに、ライオネルもバースも困惑気味だ。


「俺にとってシルヴィは可愛いだけで十分だ。わざわざ周りがうるさくなるような真似はしないよ」

「アシュは優しい」

「いや絶対何か企んでたんだろこいつは…」


アシュレイの言葉にシルヴィアはうんうんと頷いていたが、ライオネルはそのままの意味では取らなかった。何より今だに膝の上に彼女を乗せていることが気に入らない。


「シルヴィはどこまで記憶があるのかな?森にいた記憶は?」

「うーん…何となく…。この森だったってことはよく覚えてないけど、私の最初の記憶はアシュだよ」


目を覚ましたらいたってことか?と思いながら、ライオネルはそこでハッと気づく。


「お前…まさかそれ刷り込みってやつじゃ…」

「え?」


生まれてからずっと眠り続けていたシルヴィアを目覚めさせたのがアシュレイなら、最初に見たのも彼のはずだ。


「ははは、聖王様は意外と鋭いなぁ。そういう面も否めないかもしれないよね」

「しかも中身は赤ん坊のような状態だったってことなんじゃないのかそれって…」

「そこで契約をしてあれやこれやをしたんですか…」


笑いながらさらりと認めるアシュレイに、神聖国の二人はさらに気づいて引いていく。当時のアシュレイにとって年齢と見た目は年上、精神年齢は年下の女性。そう考えると思った以上にとんでもない男だと。


「まあ、人の子とは成長の仕方が異なるので、晶霊的には…ギリギリセーフ、ですから」

「う、うーん…、そう、ね…?」


ヒューズは何とか主人に変態のレッテルを貼られないようにフォローを入れる。今初めて出会いの話を知ったゴンダールも何とかぎりぎり受け入れようとしているようだ。


「それに決して中身が赤子だったというわけではありません。目覚めた時には大人でしたし、しっかり今と同程度の会話能力や理解力はありましたから」

「ま、まあ神と晶霊のハーフですものね」


力説するヒューズに、ゴンダールも戸惑いながらも頷くことにした。


「そもそも普通の晶霊とは違います。その吸精方法を考えると、シルヴィアが生きるためにはあれこれも必須なのです」

「そりゃそうかもしれないが…。そもそもどうして女神の娘だって知ったんだ?」


なんとか自身にも言い聞かせるようなフォローをヒューズが続けたが、ライオネルはさらにふと疑問に思い尋ねた。


「私は晶霊王様がお姿を消される前に、シルヴィアを見守るよう託されていたからですよ」

「え?ヒュー兄、晶霊王様に会ったことあるの?今はどこにいるの?」


ヒューズの話にシルヴィアはくいついたが、ライオネルとしては別のことが気になった。こいつ500年近く眠るシルヴィアをひたすら見守ってきたみたいなこと言わなかったか?と。


「お会いしたことはありますが…今はもうどこにいらっしゃるかはわかりません」

「そうなんだ…」

「大丈夫だよシルヴィ。晶霊の命は長い。いつかきっと会えるさ」


しゅんとするシルヴィアに対してアシュレイは優しく頭を撫でるが、ライオネルはそれすら不機嫌そうに見ている。


「…まあ、何にしても我が君が決めた吸精方法なわけではないことは分かりましたか?」

「まあ、それなら…って、ん?いや、契約紋の場所は関係なくないか??」


ヒューズの言葉に頷きかけたライオネルだったが、ふと気づいて声を上げる。


「へぇ、契約紋の位置を知っているのか。猊下に見せたのかいシルヴィ?」

「会ってすぐの頃に無理矢理開かされて…」

「いや待てお前言い方ぁ!!」


このままでは自分まで変態扱いされかねないとライオネルは慌てた。確かにあの時見せろと言ったけども!


「まぁ確かにシルヴィの契約紋の位置は、単なる俺の趣味だよ」

「え、そうだったの!?」


爽やかに笑いながらアシュレイは認めた。知らなかった事実にシルヴィアは驚いて振り向くが、ご主人様はつつ…と自身の膝上にいる彼女の紋に触れてきた。


「んっ…」

「知ってる?紋は契約者が一定の距離にいる時にはじんわりとした熱を感じるんだ。つまりシルヴィは俺がそばにいる時はいつでも…」

「やめろこの変態野郎!!」


ついに堪えきれなくなったライオネルがシルヴィアをご主人様から取り上げた。さすがにヒューズもフォローをしきれなくなったのか無言で頭を抱えている。


「わ、ラ、ライ!やだ、離して…!」

「変態に騙されてるぞお前!やめとけこんなご主人様は!」

「ははははは」


ご主人様から急に離され、またライオネルに抱えられる形になったシルヴィアは慌ててもがいている。当のアシュレイはそんな様子を見て、何がおかしいのか笑っていた。


「騙されてなんてない!私はアシュのなんだからどう扱われてもいいの!」

「それこそが悪質な刷り込みだろが!ちゃんと目ぇ覚ませ!」


ばたばた暴れるシルヴィアたちを放置して、何かを黙って考えていたバースが口を開く。


「…初めて会った時。あんなプロポーズとも言えない雑な方法で望まない婚約が成立したのも、女神様が最初から導いていたのか…」

「は?」


恐らく自身のお気に入りかつ第一の僕であるライオネルと、実の娘であるシルヴィアを番わせようとしたのではないか。刷り込みによって契約してしまったアシュレイから引き離すためにも。バースはそういう考えに至ったようだ。


「そのプロポーズとやらは見ていないから知らないけれど、まあ女神様の策略だろうね。俺がずっと気に食わなかったんだろう。それなのに俺は洗礼を受けた信徒ではないから、直接雷を落とすことも出来ないらしいしね」


女神の力といえども制限はある。基本的にはその信徒相手か、もしくは信徒を通してでしか神の力を発揮できないのだ。


「自分の意思で選んだ俺と、選ばされてしまった君。さて、シルヴィが求めるのはどちらだろうね?」


アシュレイは面白そうにライオネルを見つめながら言った。


「惑わそうとすんな。きっかけが何であれ俺はちゃんと自分の意思で選んでいる。一緒に過ごした時間の中でシルヴィアを好きになったからだ」

「ラ、ライ…」

「うんうん。女神様が君を推すのもそういうところだろうね。実に真っ当で真っ直ぐだ」


きっぱりと言うライオネルに、その腕から逃れようともがいていたシルヴィアは動揺する。ご主人様は依然として爽やかに笑っている。


「可愛いシルヴィ、どちらを選んでもいいよ。…まあ本当はどちらも選ばず流されていた方が、君にとっては良い気がしているけどね」

「アシュ…?」

「何をまた訳の分からないことを…」


アシュレイの言う意味がわからずに聞き返そうとしたが、その瞬間シルヴィアはカン高い耳鳴りの様な音が頭に響いた。

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