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休憩ということは

一度休憩をすることにした一行。

ライオネルとバースは地面に図を描き、森の入り口から東側のある地点まで線を引いて現在地を話し合っている。


「この辺りまで進んだところで移動したわけだ。一緒にいた聖騎士たちもそれぞれどこかに飛ばされているはずなんだが…」

「地形が歪んだというか、ワープさせられたといった感覚だな。近くにいたはずのやつが全く見当たらないわけだからな」

「そもそも東側に行った俺らと西側に行ったハウズリーグと同じ場所で合流しているわけだろ?理屈とか道理とか通用しないんじゃないか?」

「やはりそうなるか…」


2人で話し合ったところで埒が明かないな、という結論になりふと顔を上げて周りを見出した。先程までいたはずのアシュレイたちはどうしたのかと。そして気づくと、いつの間にか少し離れたところにヒューズとゴンダールが立っていた。


「ん?お前らだけか?ご主人様はどうしたよ」

「そう…ですね、我が君は…」

「…お前の婚約者もいないぞライ」


聞かれたヒューズたちは微妙な顔をしている。その表情から嫌な予感がして、まさかなと立ち上がり近寄ると…。


「…はっ…アシュぅ…」


彼らの後ろ、木々の暗がりの中から声が聞こえてきた。


「待て待て待て!!人の婚約者に何していやがる!?」


怒鳴りながらヒューズたちを押し退け進むとアシュレイとシルヴィアがいた。幸い服は乱れていないようだ。


「…何って…ご飯?」

「一応気を使って、聖王様の視界には入らないようにしたんだけどなあ」


シルヴィアは頬をやや赤くはしているがそれ以外は平然とした態度だ。またもやバースに羽交い締めにされているライオネルに、アシュレイは苦笑している。


「どうもこの森にいるとシルヴィはお腹が空くみたいでね。本当はもっと一杯取れる方法の方がいいんだけど…さすがにここでは、ね?」

「叩っ斬るぞてめぇ…」

「落ち着けライ!」


はははと笑っているアシュレイに、今にも斬りかかりそうなライオネル。バースが抑えてはいるが、もしも神聖術を使われたらライオネルを止められない。


「アシュ…もっと欲しい」

「よしよし、待てだよシルヴィ。聖王様が怒ってるからね?」

「シルヴィア!腹減ったなら俺を食え!」


アシュレイに擦り寄るシルヴィアに、ライオネルはバースの拘束を振り解いて詰め寄る。


「え?ライを?あ、アシュがいるのに、そんなはしたないことしないってば!もう捕虜じゃないんだし!」

「そいつは契約者であって恋人でもなんでもないんだろ?婚約者以外とそういうことする方がはしたねぇんだよ!」

「それは人間の感覚!晶霊的には契約者からご飯をもらうのは当たり前だもん。あとそいつじゃなくてアシュ!名前知らないの?」


アシュレイの腕に巻き付きながらシルヴィアはライオネルと口喧嘩を始める。


「ははは、名前で呼ばれたくはないけどね。呼びたいのかい?ライオネル君?」

「呼びたかねーよ!俺のことも呼ぶな!」


笑顔で拒絶をみせるアシュレイだったが、ライオネルとしても呼びたいわけではないし別に呼んで欲しくもない。


「ねぇ、なんでシルヴィアちゃんは聖王様のこと愛称で呼んでるの?」

「従兄弟で幼馴染の俺がそう呼んでるからつられたんだろう。割と最初からあんな感じだった」

「そんな理由!?聖王様って意外と心広いのね??」


やいやい騒いでいるライオネルたちの後ろで、バースやゴンダールたちは主を見ながら疑問を話す。


「お前たちのご主人様はどうなんだ?」

「愛称で呼ぶのはシルヴィアちゃんだけよ。あたしたちもご主人様とか呼んでるしね。そもそも人間でも他のご令嬢が名前で呼ぶと、冷たくあしらってるわ」


そういう時のアシュレイは、笑顔ではあるが有無を言わせない圧がある。しかしそれだけ線引きがはっきりしているのなら、何故シルヴィアにだけ愛称呼びを許しているのかゴンダールにも謎なのである。


「恋仲ではないんだろう?なぜシルヴィアにだけ愛称呼びを許しているんだ?」

「あらさすが愛の国の騎士ね。やっぱり気になるわよね?」

「ゴンダール、余計な話はやめなさい」


余計な話を始めようとしているゴンダールを、ヒューズが止める。彼らの主人たちは言い争いをしていて外野の会話は聞いていなさそうだが。


「だいたい晶霊を構う暇があるんならさっさと妃を何人でも作ればいいだろ?ハウズリーグは後宮があるんだから」

「ははは、嫌だよ面倒臭い。夜は好きなことしかしないと決めてるんだ」


ライオネルはアシュレイに言葉で噛み付いているが、笑いながらかわされている。


「ものぐさみたいなこと言ってんじゃねえ!後継はどうするつもりなんだよ?」

「君に言われたくはないなあ。対になる女神の呪いがかかってしまってるんだろう?シルヴィが嫌だと言い続けたらどうするんだい?」

「呪いじゃなくて祝福だ!それに絶対に口説き落とすから問題ない。本人の意思を持って連れて帰る」


質問にキッパリと言い切るライオネル。当のシルヴィアはいつのまにかずっと無言だが…。


「シルヴィ。そんな物欲しそうな目で聖王様を見るのなら、食べさせてもらったらどうだい?」

「は?」

「えっ…ち、違う!」


アシュレイは自身にしがみつきながらもライオネルを見つめていたシルヴィアに、笑顔で告げた。ライオネルはそんな視線に気づいていなかったが、言われてみれば確かに彼女のその目はどこか潤んでいる。


「確かに美味しそうだけど、そうじゃなくて!吸精の途中だったからいつまで“待て”をしてればいいのかなって思ってて、ふと見たらなんか目の前に美味しそうなご飯が…って、違う!違うの!」

「お前また俺のことご飯呼びしたな…」


言えばいうほど墓穴を掘っていくようにしか聞こえないシルヴィア。ライオネルは複雑そうな顔をしている。


「うんうん、良い子のシルヴィはちゃんと“待て”をしてたんだよね。ただ、聖王様があまりにも美味しそうに見えたんだよね?」

「じゃあもうそれでもいい!利害の一致だ!俺を食え!」

「や!アシュがいい!アシュが欲しい!」


ライオネルは開き直ったのか、とりあえずはご飯扱いでもなんでもいいからこっちに来いとシルヴィアに詰め寄る。彼女はいやいやしてご主人様にしがみついている。


「ははは、じゃあシルヴィ。いつもみたいに可愛くおねだりしてご覧?そうしたらあげるよ」

「アシュレ…むぐっ」

「やめろこんなとこでなにをさせる気だよ!?」


ご主人様の言う通りにおねだりしようとしたシルヴィアの口を慌てて手で塞ぐライオネル。


「…な、何を言わせようとしたのかしら?」

「自身の性癖をこんなとこで晒そうとするとは、さすがとしか言えないな…」

「我が君…」


後ろで聞いていた従者3人も引いている。一体何を言わせようとしたのかは興味があったが。


「むーっ!むーっ!」

「お前も素直に従おうとするな!ど変態だぞこいつは!」

「ははは、力づくで止めるとはさすがは女神の僕だ」


ご主人様の命を邪魔されてシルヴィアは怒っているようだ。しかもライオネルに後ろから抱きすくめられる形になってもがいている。力で勝てないながらも抵抗として、口を塞いでいた彼の手に噛みついた。


「はむっ!」

「うおっ!噛んだ!…や、全然痛くねえな」


噛まれたこともだが、ライオネルとしては全然痛くないことにむしろ驚いた。弱すぎないか?こいつ、と。


「強く噛まないようにちゃんと躾けてあるからね。だって危ないだろう?」

「これもあんたの趣味かよ…」


アシュレイの言葉に再びライオネルは引いた。正直確かに可愛いとも思ってしまう自分にも。目の前にいるこの爽やかドスケベ王と、女の趣味が一緒などとは決して認めたくない。


「俺のシルヴィは何から何まで可愛いと思わないかい?」

「俺の、婚約者だ。…ってシルヴィア、いい加減噛むのはやめろ」


先程からずっとライオネルの手を甘噛みし続けているシルヴィア。痛くはないので放っておいたが、むしろ段々何だか変な気になりそうである。顔を赤くしながらライオネルは嗜めた。


「なかなかくるだろ?」

「やめろこのドスケベが!」


はははと笑いながら言ってくるアシュレイに怒るライオネル。図星なだけに否定はできないが。おやおや、お気に召さなかったかな?と言ってアシュレイはシルヴィアを見た。


「シルヴィ、噛むのはやめだ。どうやら聖王様はお気に召さないらしい。もう二度と彼を噛んだらダメだよ」

「へ?二度と…?いや、そこまでは…」

「わかった、もう二度とライは噛まない」


ご主人様の命を受けたシルヴィアは噛むのをやめた。また何かの扉を開けられたのかライオネルは動揺しているようだが。掴まれた腕が緩んだ隙にシルヴィアは彼の手から離れて再びアシュレイの方へ戻る。


「…ライの情操教育に悪いなあの主従」

「なんか聖王様って可哀想ね…」


外野で聞きながらバースは従兄弟が変な方向に成長しないか心配をしていた。


「後ろでうるせぇ!聞こえてんだよ!」

「俺はお前が心配だ、ライ」

「どことなく不憫なのよねぇ」


バースたちの方へと振り向き、見せ物じゃないと文句を言いながら近寄って行くライオネル。そこでヒューズがスッと前に出る。


「猊下は本気でシルヴィアを自身のご正妃としてドルマルク神聖国へ連れ帰るおつもりですか?」

「冗談でそんなこと言うわけないだろう。俺の唯一はシルヴィアに決めた」

「ライ」


ヒューズの質問にライオネルはまっすぐに答える。横でバースが何やら止めたそうだ。


「我が君の晶霊であるシルヴィアを、だなんて反対意見の方がお有りでは?」

「根回しはもう始めている。それに何より女神の祝福がある。誰であろうとそれを覆すことはできない」

「おい、ライ」


ヒューズの言うことは最もではある。しかしライオネルの言う通り、神聖国において女神は絶対だ。


「だからといって全ての貴族が納得するのですか?それに彼女はそんな立場を望んでいないでしょう」

「ライ!」

「納得させてみせるさ。それにシルヴィアもー…、って何だよバース!お前が邪魔するのか!?」


会話を遮るように声を掛けてくるバースをライオネルは睨む。まさか反対派なのかと。しかし…。


「いや、むしろ邪魔しなくて良かったのかと言いたかったんだ」

「はあ?」


バースが指差す方を振り向くと、アシュレイがにこやかに笑いかけてくる。その腕の中には何故か顔を赤くしたシルヴィアがいた。


「やあ、どうしたんだい?」

「どうしたって…まさか…。おい、シルヴィア?」

「…」


ライオネルに話しかけられるもシルヴィアは無言だ。


「おい無視すんな!」

「ああ、悪いね。命令してたんだった。シルヴィ、もう声を出していいよ?」

「…ふはっ…!…うう〜」


アシュレイが命令とやらを解くと、シルヴィアは息を吐き出す。


「息は普通にして良かったんだよ?可愛いシルヴィ」

「だって…声だけ抑えるの苦手で…。でもさすがにちょっとずつは息してたよ」

「声を抑えるだ…?」


目の前の主従の会話を聞き、ライオネルはもう一度バースの方を向く。


「だから、吸精しているのを放置していいのかって言いたかったんだが」

「言えよ!…ん?そういやいきなり話しかけてきたと思ったら、あんたまさか俺の気を逸らせてたのか!?」

「さてどうでしょう?」


そういえば殆ど黙っていたのに急に話しかけてきていたなとヒューズを振り向くが、当の本人はうっすらと笑ってはぐらかしているようだ。


「さあ、遊んでいないでそろそろ行こうか」

「うん、アシュ」

「あ、おい!」


アシュレイは爽やかな笑顔でシルヴィアと手を繋いだまま歩き出した。ライオネルは不満に思いながらも後に続いたのだった。


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