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ご主人様と犬

一時協力関係を約束をした一同は、森を進むことにした。また逸れたらいけないからね、とアシュレイはシルヴィアの手を握っている。彼女がご主人様の命に逆らうわけがないとは知りつつも、ライオネルは不満顔で後ろを歩いている。


「アシュ、他のみんなは?」


シルヴィアの言うみんなは晶霊たちのことだろう。森に呑まれる前にはいたはずだった彼の契約晶霊たち。


「みんなどこかに逸れてしまったみたいだね。ただそれぞれの晶霊術は使えるからそう遠くにはいないはずだよ」

「そっか…。じゃあいざとなったら私がアシュを守るね」

「ははっ…シルヴィが?ありがとう、頼もしいな」


なんの頼りにもならなさそうだが、実際シルヴィアが危険に晒されればライオネルがガードするだろう。そしてそのライオネルを守るのがバースの仕事だ。必要かどうかは別として、今アシュレイは三重の盾を手に入れていたのだった。


「…さっき森の獣に食われそうだったのはどこのどいつだよ」

「ライ、放っておいていいのか?晶霊との主従関係って言うよりあれは…」


呆れながら歩くライオネルと、前を歩く2人を冷静に見つめているバース。なんだかんだ前から気にはなっていたハウズリーグ国王アシュレイとその契約晶霊シルヴィアの様子は…。


「アシュはお腹空かない?岩の裏にいる虫とか獲ろうか?」

「よしよし、シルヴィはいい子だね。でも絶対食べないよ」

「あ!キノコ!人間ってこういうの食べるよね?」

「うんうん、見るからに危ない色をしているね。触ったらダメだよシルヴィ」

「アシュアシュ!」

「こらこら、そっちは沼だよ可愛いシルヴィ」


森を歩きながら何かを見つけてはアシュレイに報告して、その度笑顔で止められている。その姿はまるで…。


「アホな犬と飼い主みたいだな…」

「おい、バース…」


バースの言葉にライオネルも否定はできない。シルヴィアは絶対的な信頼を寄せるご主人様のそばにいるからか、訳の分からない森にいながらもあまり気を張っていなさそうだ。役に立とうと変に張り切ってはいるようだが。そしてアシュレイもまた悠然としているので、後ろから見ていると確かにまるで犬の散歩をしているかのように見えてきた。


「恋仲ではないというのは本当かもしれないぞ、ライ」

「なんか、想像と違うな…?」


人の国に攻め込んでまで取り返しに来たのだ。もっと艶めかしい関係性を想像したが、こうして見るとなんか違う。


「…というか、あれが婚約者でいいのか?」

「あれが、いいんだよ俺は」


たとえあの笑顔が自身に向けられていなくとも、ご主人様のことでいっぱいになっていようとも、何がなんでも振り向かせたいのだ。


「見てアシュ!うさぎ!」

「うんうん、あれは魔獣だね」

「え」


言いながらアシュレイはスパッ!と晶霊術で真っ二つに魔獣を裂いた。今にもこちらに飛びかかろうとしていた瞬間だった。


「し、神秘の森にも魔獣ってでるの?」

「出るね。今のは魔術師に生み出された魔物とは違って繁殖して増えるタイプだ」

「油断してた…。ちゃんとアシュを守るね!」


ささっと前に出ようとするシルヴィアだが、アシュレイが手を離してくれない。


「あの、アシュ?手を繋いでたら盾になれない…」

「可愛いシルヴィ、じゃあ俺の左腕を守っていてくれるかい?強めの術はいつも右手から出すから左側は守りが弱いんだ」

「わかった!」


アシュレイに言われて素直に左腕に巻き付くシルヴィア。後ろから見ていたライオネルは絶対に嘘だろ…と思い、さすがに黙って見ているのも限界になる。


「おい、シルヴィア。お前は犬か」

「犬??前にもそんな事言ってたけど、ライ失礼!」


とうとう我慢できなくなったライオネルはシルヴィアにツッコミを入れた。言われたシルヴィアはむっとしている。


「いや今にも尻尾を振ってご主人様を舐めまわしそうなアホ犬だったぞ」

「バースまで!」


バースもライオネルの言葉に賛同した。シルヴィアには聞こえていなかっただけで、そもそも先に言い出したのは彼でもあるのだが。


「ははは、舐めるかいシルヴィ?」

「こ、ここで…??」

「待てこらどこを舐めさせるつもりだ!?」


頬を撫でながら笑顔で言うアシュレイに、シルヴィアは動揺を見せた。その反応を見て思わず掴み掛かりそうになるライオネルをバースが止める。


「ライ、慌てるな。変な意味じゃないだろさすがに」

「そうだよ、シルヴィは舐めるのはあまり得意ではないからね」

「いや絶対変な意味で言ってんだろ!!」


さすがに爽やかな顔でそう言う話はしていないだろうとバースはライオネルを嗜めたが、アシュレイはさらに発言を続けた。あくまでにこやかに。それを聞いたシルヴィアはご主人様を見上げる。


「も、もっと頑張った方がいい…??」

「いや。拙いながらも一生懸命なのが良いから、そのままがいいんだよシルヴィ」

「ライ、落ち着け。剣はまずい」


もはや無言で今にも剣を抜きそうなライオネルをバースは両肩を掴んで止めながら、アシュレイを振り向く。


「ハウズリーグ国王陛下。聖王猊下は純情なので、婚約者を使ったからかいはお控えください」

「あぁ。そういえば俺のシルヴィの婚約者なんだったね」

「こ、婚約は解消するんだってば!」


笑顔のアシュレイに、シルヴィアは慌ててしがみつく力を強めた。それを見てライオネルはシルヴィアに手を伸ばす。


「解消はしないって言ってるだろ。諦めるつもりは毛頭ない」

「人のこと犬呼ばわりしてたくせに!私はアシュの!」


掴もうとしてきたライオネルの手を払い、ぷいっとそっぽを向くシルヴィア。


「まあ、確かに…」

「犬って言っていたね、可愛いシルヴィの事を」

「ぐっ…」


同じく言っていたバースからもアシュレイからも追い詰められ、ライオネルは唸るしかなかった。

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