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つい食べたくなるよね?

手を掴まれた意図がわからずきょとんとしているシルヴィアに、ライオネルはそのままその手にそっと口付けてきた。


「へっ…!?」

「誓いは違えない。必ず迎えに行く」


シルヴィアの目を真っ直ぐ見つめながらそう告げると、するりと手を離してライオネルは反対方向に歩み出した。兵やバースたちもその後ろに続いて行く。顔を赤くしているシルヴィアの方をちらりと見て一言、ライは本気だぞと言い残していきながら。


「え…え?」

「わぁお!情熱的ー!」

「愛の国の男って凄いわねー!」

「言ってる場合か!ほら早く行かないとご主人様に置いていかれるぞ」


戸惑うシルヴィアをよそに、ゴンダールとターニアの女子会組が色めき立つ。そんな中ガウディはご主人様を早く追えと後ろから急かす。


「わかってるわよー、行きましょシルヴィアちゃん」

「う、うん…」


ゴンダールに言われてシルヴィアは先へ歩いて行ったアシュレイの方へと歩き出した。その周りには女子会組の他、たまたま近くにいたロウルやガウディも一緒だ。そして一部始終を無言で見ていたロウルがここで口を開く。


「シルヴィアは、聖王、様が好き、なんだね」

「へぇっ!??ロ、ロー君な、何を…??」

「!?」


歩きながら唐突にぽつりと言ってくるロウルに、シルヴィアだけでなく全員度肝を抜かれた。


「さ、さっきのやりとりでなんか分かることでもあったのかしら?」

「まさか!聖王様が一方的に告白して去って行ったようにしか見えなかったわよ?」


ゴンダールとターニアは歩きながらひそひそと話し合っている。自分たちは何かを見落としていたのかと。


「だって、主君が行くよって、言ってるのに、追うのを邪魔、されたようなもの、なのに、シルヴィアは、怒らず、聖王様を見つめてた」

「!」

「「た、確かにー!」」


それはご主人様が最優先の彼女にしては珍しいことであった。ロウルの指摘に思わずゴンダールやターニアは声を揃えて感心してしまった。


「いきなり掴まれたからびっくりしただけ!あとなんか美味しそうだったから見ただけ!」

「いや、美味しそうってシルヴィアあなた…」

「シルヴィアちゃんお腹すいてるの?」


あれだけ毎日ご主人様に食べさせられてるのに?と不思議な生き物でも見るようにゴンダールたちはシルヴィアを見た。


「そ、そういう訳じゃないけど…!ライを見るとなんか…」

「ああ、それは、食欲、という、よりせ…」

「待てやめろロウル」


何かを言いかけたロウルの口を、後ろからガウディがガシッと手で塞いだ。


「ちょっとガウディ!何で話の邪魔するのよ!」

「そうよー!ロウルちゃんの話聞いてたのにぃ!」

「のんびりしてる場合じゃないだろ。この森は危険なんだ」


きいきい文句を言う女子会組を相手に、ガウディは面倒くさそうにあしらう。


「え、あれ?みんなはライを見て美味しそうって思わないの…?」

「んー?まあ確かに良い精気を持ってそうではあるけど…」


シルヴィアに言われてゴンダールはライオネルを思い浮かべた。しかしご主人様の精気が極上なので今はこれと言って…と、思ったところで続くシルヴィアの発言に固まることになる。


「ライを見たら思わず口をつけたくなったりとか…」

「へぇ???」

「は???」


その言葉にゴンダールはおろか、ガウディからすらも変な声が思わず出てしまった。ロウルはほらね?って言いたげな顔をしている。


「あ、食事!肉に齧り付く的な話よね?これ?」

「そ、そうだな。それだ」


そういえばシルヴィアは吸精方法の違いを知らない。自分たちも同じようにキスやあれこれで食事をすると思っていたのだったとターニアは思い出した。ガウディは本当にそう思っているかは謎だが、己の妻の言葉に頷いている。


「ガウ兄もつい食べたくなるよね?」

「いや、それは…」

「あなたもなるの?シルヴィアの言う方法で?」


美味しそうに見えているのは自分だけではないだろうと確認したいのか、シルヴィアはガウディにさらに詰め寄った。ライオネルにキスしたくなるかどうかを。彼の妻の前で。


「あっはははははは!やだもー!」

「ゴンダール!笑ってないで止めろ!」

「?」


急に笑い出したゴンダールにシルヴィアは首を傾げた。何か今おかしな事があったのだろうか、と。


「よくわからないけど、アシュの近くに行ってくる」

「ああ、そうだな。早くそうしろ」

「早く、行かない、と。主君、機嫌、悪くなっちゃうよ」


のんびり歩いていては追いつけないと気づいたシルヴィアは駆け足で行くことにした。


「この森ではぐれると厄介だ…ぞ、ってしまった…!」


ガウディがそう言った瞬間ぐらっ…と地面が揺れ動く。


「まさかこんな入り口近くでなんて…!」

「え、何何?」

「ちょっとゴンダール!あんたの晶霊術??」

「違うわよ!これ晶霊術じゃないわよ!」


突然の揺れにターニアは地の晶霊であるゴンダールを疑ったが、すぐさま否定された。ガウディは己の妻であるターニアを掴みながら叫んだ。


「女神の仕業だ!移動させられる!なるべく近くの奴をつか…」

「え!?何?聞こえ…」


ガウディの叫び声は歪みゆく景色の中に溶けるように消えていった。シルヴィアはまるで分からないまま呆然と揺れる地面と景色に飲まれていったのだった。

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