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女神様っているの?

「ねえアシュ、女神様って本当にいるの?」

「それは神聖国の人間が偶像崇拝してるかどうかの話かな?それとも、女神エスメラリアが実在しているかどうかというだけなら…いるよと答えるよ」


湯船に浸かり、シルヴィアを後ろから抱きしめる形でアシュレイは答える。はっきりとその存在を肯定したことにシルヴィアは驚く。


「え、いるの??」

「ははっ!そんなに驚くところかい?」

「神聖術って思い込みの力なのかなって少し…」

「ぷっ…ははは!思い込みって…!ははは…!」


シルヴィアが驚く姿になぜかアシュレイは笑っている。ご主人様は結構笑い上戸だ。


「あの力が思い込みで出せるのだとしたら聖王様はかなりの空想力だ…ふはは…!」

「ま、まあ実際にライの神聖術を見たら違うのかなって思ったけど…でも意外」


何が面白いのかアシュレイはまだ笑っている。シルヴィアは弁明をするように続けた。


「意外?」

「あ、うん。だって神様とかってアシュ信じてないのかと思って…」


シルヴィアから見て、アシュレイは何となくそういうふんわりした抽象的なものは好きではないのかと思っていた。


「信じる…ね。うん、まあ別に信頼はしてないけど、存在自体は否定しないって話だよ。神聖術も実際女神が与える力だしね」

「術の違いって難しい…。何と無く魔術はねっとりして絡みつく感じで、神聖術はなんか温いお風呂みたいで、晶霊術は…それぞれの晶霊次第?」

「シルヴィは感覚派だものね。晶霊らしいといえばらしいかな」


うーんと悩むシルヴィアに、アシュレイは穏やかに微笑みながら答える。目の前にあるアシュレイの手を見てシルヴィアは考えた。


「たとえばなんだけど…魔術も神聖術も晶霊術も全部使える人っているの?」

「それは難しいかな。特に魔術と神聖術。女神様は魔術師が大嫌いだからね」


そういえば晶霊王が魔女と浮気したとかなんとかドルマルク神聖国では伝えられていたのだったな、とシルヴィアは思った。


「じゃあ魔術と晶霊術は?あっ…でも、魔術師はあまり美味しくないから晶霊が嫌がるか…」

「ははっ…!そうだね、味は大事だからね。契約してもらえないと晶霊術士は名乗れないね」


じゃあ神聖術と晶霊術は…と聞こうとしたところで、アシュレイはシルヴィアの唇を指で撫でた。


「んっ…?」

「神聖術士の味はどうだったのかな?それも最高峰の術士の」


ライオネルの味を聞いているのだろう。アシュレイは怒ってはいないが、何を考えているのかはよく分からない。流れで聞いただけなのか。まさか食レポを求めているのか?そういえば意外とグルメなところがある気がするなとシルヴィアは判断した。


「ライは…その、変な混ざり気がなくて、すっきりしてた、かな」

「清廉で真っ直ぐな性格が出てるんだね」

「性格…素直じゃないとこもあったし、よく怒鳴ってたけどなぁ…」


清廉かなぁ?とシルヴィアは首を傾げた。そういえば途中から甘みも出てきたな、とふと思いつつ。


「それこそ分かりやすくてすっきりしてるじゃないか。境遇の割に荒んでないのは女神様のご加護かな。…まあ、その境遇の半分以上は女神様の仕業だけど」

「境遇…。お父さんは早くに亡くなって、お兄さんは女神の雷に打たれたって…」

「まあ生きていたらいたで今頃熾烈な王位争いが起きていたかもしれないね。聖王様本人の意思はどうであれ、女神の愛し子を周りも放ってはおけないだろ。勿論女神様ご本人もね」


アシュレイの言葉にシルヴィアはうーん、と考える。なんだか引っかかるような気がしたからだ。


「アシュは女神様が嫌いなの?」

「俺が?」

「なんか言葉の端々に棘があるような気がして…」

「はははっ。まあ棘があることは否定しないけど…嫌われているのはむしろ俺の方かな」


おかしそうに笑うアシュレイに、シルヴィアはやはり何か引っかかる気がした。でも言われてみればアシュレイの行動原理に愛とか祈りとかはなさそうだしなぁと少し納得もした。そして確かにライオネルのほうがよっぽど素直で分かりやすいなとも。


「女神様は国を二分した後どこに行っちゃったんだろう…」

「そうだね。人々に神聖術を与えている以上いなくなってはいないし、なんならシルヴィと聖王様を見守ってるんじゃないかな?」

「わ、私は別に、婚約は解消するつもりだし、アシュのだから困る…」


見守られても困るし、当のアシュレイにそんなこと言われたらなおさら困るのだ。


「というか熾烈な王位争いって…女神様の加護ってそんなに意味あるものなの?」

「そうだよ。女神のお心一つで神聖力の威力は決まる。聖王様の力は周りとは桁違いだったろう?そんな女神の愛し子を粗末に扱えば、それ自体が女神のお怒りに触れるかもしれないね」

「…ライは、あまりそういうの深く考えて無さそうだったけど」


バースはしょっちゅうライオネルを揶揄っていたし、なんなら聖騎士たちもよく彼を冷やかしていた。まあ本気で怒ってはいなかったのだろうし、互いに仲が良いからとは感じられたが。


「彼のそういうところがまた女神のお好みなんじゃないかな?」

「うーん…女神様ってなんか勝手だね」

「ははっ…!神とはそういうものだよ可愛いシルヴィ。身勝手で独りよがり。救いも試練も勝手に与えていく。国も…ね」


アシュレイはまた笑っているが、女神の気まぐれで争いが起きるなら人間にとっていい迷惑ではないのだろうか。


「そもそも王位ってそんなに価値があるものなの?私にはよく分からない」

「それは俺にもわからないな。ただ…俺の父親の最期はシルヴィも知っているだろう?」

「あ…うん」


アシュレイの父親、先王は当時王太子だったアシュレイを殺そうとして返り討ちにあっている。それ以来アシュレイは真実を知る一部の家臣たちに恐れられながらも望まぬ王位についているのだ。


「ごめんアシュ…聞く相手を間違えた」

「何が?俺が父親や…結果として兄弟たちを死に追いやってきたことは別に後悔してないよ。可愛いシルヴィ、君は優しいね」


今さらっと兄をも殺したみたいな話をしたような…とシルヴィアは思ったが、掘り下げることでもないかと流すことにした。アシュレイが気にしていないならシルヴィアにとってそこは大した問題ではない。


「まあ女神のいない国でもそうなるんだ。人も神も結局は変わらず利己的なのさ。そうなると自分勝手に生きたもの勝ちかもね」

「アシュは?アシュは自分勝手に生きるとしたら何がしたい?」

「俺?…そうだなぁ、こうやってずっとシルヴィとゆっくり過ごしていたいかなぁ」


はははと笑いながらアシュレイは答える。


「ずっとこうしてたらのぼせちゃうよ。アシュ人間なんだし」

「ははっ。そうだね、俺は人間だ。晶霊とは違う。…でもだからこそ君にご飯をあげることができる」

「うん、アシュは美味しいよ」


ちゃぷん…と湯船の中で手を動かし、シルヴィアを振り向かせる。


「…俺はどんな味がするのかな?」

「…ん、甘くて深みがあって…」

「食べ方によって味が違うって前に言っていたね?」

「うん…でも、味わおうとしても、いつもふわふわしてよく分からなくなっちゃうの…」


シルヴィアのその言葉を聞いて、アシュレイは微笑んだまま無言になった。


「アシュ…?」

「うん。そろそろのぼせるかもしれないし、あがろうか。話の続きはまた今度かな」

「うん?あれ?…え、あの、え?」


そのままザブンと風呂から抱き上げられ、タオルで包まれたかと思うとあれよあれよという間に続き部屋にあるベッドに連れていかれたシルヴィア。


「アシュ?あの、ご飯…?」

「そうだよ、可愛いシルヴィ。それともお腹は空いてないかな?」

「ううん、ご飯欲しい…」


タイミングはよくわからないけど、ご飯をくれる分には困らない。シルヴィアはそう思いながら、優しく微笑むご主人様に手を伸ばすのだった。


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