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聖王様のことが気になる?

ある日シルヴィアは1人で城の書庫に来ていた。今まであまり興味が無かったけれど、それぞれの国の成り立ちや女神や晶霊王について調べてみたくなったからだ。ライオネルたちに会うまではそもそもそんなものが実在しているのかすら正直疑ってもいた。女神の力などは正直思い込みの力で、仕組みは魔術と大差ないのではと。


(でも、実際ライの力が無くなったり強まったりとか、思い込みにしてはいろんな現象が起きてたしなぁ…)


それに魔術の反応とは全然違う、どこか懐かしさすら感じるような温かい力だった。そもそも聖王を名乗る割に、ライオネルはさ程女神を敬っていなさそうにも見えた。


(ライはあまり信心深い感じでは無かったしなぁ…。神聖術について仕組みはよく分からないけど使えるから使うって感じだったような…)


本をぱらぱらと開きながら考えるシルヴィア。ハウズリーグの書庫なので、やはり神聖国で聞いた話とは少し違う。女神と晶霊王が夫婦だったのは同じだが、単に女神があまりに嫉妬深いために一緒にいられなくなったというような記述だ。その後、間にある森を残して国が東西に二分されたのは同じ。魔術師については…そんなに目立った記述はない。昔はどうか知らないが、ハウズリーグ王家は一夫多妻が許される。浮気云々言われても…と何代目かの王が判断して書き直させた可能性もある。


(…国が二分された後、女神様と晶霊王様はどこに行っちゃったんだろう?)


2人はそれぞれ国を治め続けてはいない。ドルマルク神聖国は女神の第一の僕に、つまり今でいう聖王に託した。そしてハウズリーグ国は晶霊王の契約者が王位についたとある。どちらも神や晶霊ではなく人間だ。


(迷惑な夫婦喧嘩したままどっか行っちゃったのかな?それに晶霊王様は契約者と離れたら、ご飯はどうしたんだろう…)


本には女神様も晶霊王様も、どちらについてもご飯の記述はない。シルヴィア的には1番大事な問題なのに。


(晶霊王様ってどうやって吸精してたんだろ?吸精は嫉妬深い女神様的に浮気には当たらないのかなぁ?)


自身の吸精方法がかなり特殊とは知らないシルヴィアは首を傾げた。


(あれ、でも普通は手から貰うだろって最初にライが騒いでいたような…?契約次第なのは確かだけど、神聖国の人はそういう認識なのかなぁ)


あまり周りの晶霊の食事について気にしたこともなかったシルヴィアはふと考えた。シルヴィアが神聖国についてよく知らないように、ライオネルたちも晶霊について詳しくは知らないようだった。


(契約者以外だとあまりいっぱいは吸精できないんだよね。だからみんな確保するための契約をするわけで。ライはこまめに吸精させてくれたし、ライにご飯もらうのは好きだったからいいけど…)


と、そこまで考えてシルヴィアは顔を赤らめた。自分は何を考えているのだと。


(違う!そういう好きじゃない!単に美味しかっただけで…ううん、それも違う!私はアシュのなんだから!)


別に今お腹が空いているわけでもあるまいに、余計なことは考えないようにしよう。それより本の続きだ。二国は神秘の森を奪い合っているとあるが、一体その森になんの意味があるのだろうか。


(もしかしてその森に女神様たちがいる…とか?でも何百年も夫婦喧嘩中なら一緒にはいないか…。むしろ人間に代理戦争させてないで、自分達で殴り合いなりジャンケンなりで決めればいいのに…)


そして晶霊についての記述のところでふとシルヴィアの目が止まる。晶霊の力には晶霊王が課した制限があり、神聖国の人間のためにその力を奮うことはできないと書かれていた。これはハウズリーグからドルマルクへ寝返る裏切り者を防ぐためだという。


(え…?どういうこと?私、ライに何度か晶霊術を使って手を貸していたような…。私が弱すぎる力だから見逃された?それとも…)


ライオネルが神聖国の人間じゃない??いやいやそんな馬鹿な。女神の第一の僕たる聖王猊下が違うなら誰がドルマルク神聖国の人間だというのだ。そう思いながらも別の本を手に取り、神聖国についての記述を開いた。そもそも聖王とはなんなのか。


(基本的に世襲制で、女神の第一の僕。王家の男子から選ばれる。父から子へ、兄から弟へ…。ライは女神の愛し子だってバースが言ってたっけ…)


神聖国は一夫一妻制。浮気などしようものなら神聖力はなくなる。ライオネルの父は数年前に戦争で亡くなっているし、神聖力が無くなったなら周りにバレるはずだ。それに隠し子でも作ろうものなら、前聖王のようにとっくに女神の雷に打たれていそうなものである。それはライオネルの母である王太后も同じだろう。


(ならライは間違いなく神聖国の王家の血を引く人間…)


パラリと開いた本にはこう書かれている。

ライオネル=ウィル=ドルマルク。ジェラルド=ウィル=ドルマルクの第三子。現聖王。女神の愛し子と呼ばれ、歴代の中でも屈指の神聖力を持つ。まだ若いがこれから伴侶を持つと、相手によっては更に神聖力が強大化されると思われる。要注意。


(なんだこの本…。伴侶って…あ)


もしかしなくとも自分はハウズリーグで要注意とされていた男の力を強めてしまったのか??伴侶ではないが婚約してしまったことで力はいまだ強化されたままとも聞いている。


(ど、どうすれば婚約って解消できるんだろう?ライに会わないと出来ないのかな…)


そもそも遠く離れたのに愛の女神様に祝福されたままなのはどうしてなのか。


(ライはまだ私を好きってこと?…いやそんなまさか!一度誓ってしまったからそれを破れないだけかもしれないし…。そもそも私はライを…)


「聖王様のことが気になるのかい?」

「うん…会わないといけないなって…」


本を開いたままぐるぐると思考を巡らせているところでいきなり声をかけられて、思わず考えていたことが口から出たシルヴィア。その瞬間辺りの空気は凍りついた気がした。


「そうか、可愛いシルヴィは聖王様に会いたいんだね」

「ア…シュ…」


声をかけてきた方向を振り向くと、そこには爽やかに微笑んでいるアシュレイがいた。後ろには何故か血の気の引いた顔をしたヒューズとゴンダール、そして近衞兵たちもいた。


「ち、違うの!婚約で力を強めちゃったから、責任取らなきゃって…」

「シルヴィア…」


その発言は意図しない方向の意味で伝わりそうだとヒューズが止めようとするも、アシュレイがそれを微笑みながら手で制止する。


「責任を取る…ね。聖王様と結婚でもするのかい?」

「!?ち、違う!逆!婚約を解消しなきゃって思って…!」


にこにこと笑いながら聞くアシュレイに、シルヴィアはおろおろと答える。


「責任を取らなきゃいけないような行為を彼としたのかな?」

「し、してな…!…くもないような、何も、されてな…いわけじゃなくて…」


シルヴィア的には食事だったわけだけど、今考えれば愛の国の王にしてはいけないことだったのかも??それにマーズリーの術にかけられた時の記憶はあやふやで、何もしてなくはないと彼も言っていたわけで…いや、でも…。


「あ…あう…」

「シルヴィ?」


混乱して俯くシルヴィアを面白そうにアシュレイは覗き込む。


「ご、ごめんなさい…!」

「あ」


キャパオーバーになったシルヴィアはとうとう走って逃げ出した。周りのものたちは王の反応を恐る恐る伺ったが…。


「ぷっ…ははははは!」

「我が君…あまり揶揄うのはおやめください」


まさかの大爆笑である。その姿を見てヒューズが嫌そうな顔をして嗜めている。


「いやあ、可愛くてつい…。聖王様と大したことしてないのは見ればわかるのになあ」

「お、追いますか?」


ゴンダールが困惑しながらもアシュレイに問う。シルヴィアはどこまで逃げるつもりなのか分からない。万一にも城門から出てしまうと危険だ。


「いや、まだ呼びかければ届く距離だ。どうするのか反応が見たい」


アシュレイはにこにこ笑いながら、シルヴィアを契約紋を通して呼びかけた。それだけでご主人様の意図は伝わるはずだ。さてそれにどう反応するやら。


「来なかったらどうするおつもりですか…?」

「そうだなあ…その時はどうしようかなぁ」


恐る恐るヒューズは主人に尋ねる。多分来るとは思うが、万一来なかったら彼女はどうなってしまうのか。

しかしそんな心配を他所にして、しばらくしてぴょこっと書庫の入り口に再び水色がかった銀髪が見えた。こちらの様子を怯えながら見ている。


「ふっ…はは!…可愛いだろう?俺のだ」

「お戯れは部屋でしてください…」


込み上げる笑いを堪えながら自慢してくる主を、ヒューズはまた呆れながら嗜めた。


「…アシュぅ…」


不安そうに入り口から呟く姿は確かにちょっと可愛いな…と書庫にいる者たちは思ったが、王が怖いので口にはしない。


「おいでシルヴィ、怒ってないよ?」


そう言って両手を広げると、シルヴィアはちょこちょことやって来てアシュレイの顔を見る。


「ほら、ね?」

「うん…」


アシュレイがそういうとシルヴィアは、ぽすんと彼の腕の中に収まる。


「よしよし、何か調べたい事があったんだろう?聞いてくれれば俺が教えてあげたのに」

「でもアシュは忙しいから…」


シルヴィアを撫でながらアシュレイは頬にキスを落とす。ちゃんと戻ってきたことに満足したようだ。


「大丈夫だよ。お風呂でゆっくり話そう。…さあ、行こうか可愛いシルヴィ?」

「うん…アシュ。まずは片付けるね」

「いいわよシルヴィアちゃん、やっておくから!それよりご主人様を待たせちゃダメよ、ね?」


本をそのままにしていたことに気づき、片付けようとしたシルヴィアをゴンダールが止める。本当に、まずはご主人様のご機嫌をとってくれと思いながら。


「でも散らかしたの私だし…」

「いいから、ご主人様が1番大事でしょ??」

「う、うん。ありがとう、ゴンちゃん」


何故だか緊迫感の走るゴンダールの勢いにおされ、そのままアシュレイの元へと背中を押されるシルヴィア。


「気が利くなゴンダール。片付けたら今日はもう自由でいい。ご苦労」

「はっ…」


アシュレイはそう言うと笑いながらシルヴィアの手を取り、そのまま去って行くのだった。


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