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豚小屋の番人

シルヴィアはあれからずっと変だった。ご主人様のこと以外など深く考えたことなんてなかったのに、気がつけばなぜかライオネルのことを考えてしまっていた。

あの祝勝会の時、自分はもしかして正式にプロポーズをされていたのだろうか?あの時は何だかよく分からなかったけれど彼の目は真剣だったし、何よりそんなことを適当に言うような人間ではないことは理解している。


「ああああ…」


そう考えるとシルヴィアは、恥ずかしいやら申し訳ないやらよく分からない感情でいっぱいになってしまう。そんな感情を持て余しながらフラフラ歩いていると、城門の前まで来てしまっていた。

気づいたら裏庭から出てしまっていたらしい。別に城を出るなと言われている訳ではないが、普通は契約者から物理的に離れるようなことはあまりない。兵たちは不思議そうにシルヴィアを見ている。この晶霊は何をフラフラしているのかと。


「…シルヴィア、珍しいね。こんなとこで何してるの?」

「ロー君!」


声をかけて来たのは地獄の門番かというような、見るからに獰猛そうな犬を2頭連れた黒髪の少年だった。彼の手にはシルヴィアと同じ晶霊王の花、つまりアシュレイの契約紋が刻まれていた。


「特に何もないけど、ふらふらしてただけ。ロー君はこれから散歩?」

「うん。いつもの時間、だからね」


シルヴィアの質問にぽつりぽつりとロウルは返す。別に何か怒っているわけでも怯えているわけでもなくこれが彼の通常通りの話し方だ。


「そっか。ね、私も一緒に行ってもいい?」

「シルヴィアが?僕は、いいけど…。城の外に出るから、多分主君が知ったら、怒るんじゃないかな…?」


シルヴィア的には弟分であるロウルと犬の散歩は良い気分転換になるかな、と思ったのだがロウルからふんわりと断りを入れられた。


「別に気にしないと思うよ?ロー君だって晶霊術が繋がっていられる範囲からは出ないでしょ?」

「僕たちと、君は違うから…。君を連れ出した、ソーントン親子の、件。めちゃめちゃ怒って、たよ主君…」


同じ契約者なのだから出歩ける範囲は変わらないだろうと、シルヴィアは不思議そうに首を傾げた。ロウルはそれにぽつりぽつりと返す。


「アシュが怒ってた??」


あの事件に対してシルヴィアは自分こそが怒られるかと思っていたがそうでは無かったし、ご主人様がさ程気にするような一件でもなかったのかなとの認識で落ち着いていた。そういえば、自身を攫ったソーントン伯爵令嬢がその後どうなったかの話は聞いていなかったと思い出す。


「そういえばソーントン伯爵令嬢って…」

「生き、てるよ」


シルヴィアの質問にロウルはふふっと微笑む。何だそれなら大した処分もされてないのだし、アシュレイはそれこそ気にしていないのだろう。


「この子たち、の血肉となって、ね」

「え」


獰猛な犬2頭を見て微笑みながら言ったロウルの発言に、シルヴィアは固まる。ん?それってつまり…。


「僕はまだ、それは嫌、だから…。事前に主君、の許可を、とってからに、しなよ。じゃ、また…」

「う、うん…?」


ロウルはそういうと、犬2頭を連れて城門の外へと出て行った。これは彼の日課なのと、彼の場合は分かりやすく手に国王の晶霊紋があるので門番に気にされることもなく簡単に出入りできるようだ。


「うーん…?」


アシュレイが怒っていた?ロウルは城門の外に出ていいのにシルヴィアは駄目?いやいや、そんなことはないだろう。アシュレイにとって自分だけが特別なわけではない。ソーントン伯爵令嬢が国王の契約晶霊を勝手に連れ出した件はそもそも重罪だったのだ。城門の外に出ていいかは…分からないけど。特に命じられてないし、大丈夫…なはず?

そこまで考えてシルヴィアは再び城門に目を移した。なぜか門番がびくりと震えた気がするが気のせいだろう。別に外に出たとしても…と考えたところでシルヴィアは首を振る。万一にもアシュレイが怒る可能性があることをわざわざする必要などない。そもそも外に出る理由など別にないのだから。


「戻ろ…」


そう呟くとシルヴィアは踵を返し、裏庭へと戻ろうとして…いきなり現れたヒューズとぶつかりそうになる。


「わっ!…え、ヒュー兄?」

「おっと…すみません」


よく見ればその横にはゴンダールとターニアもいた。


「どうしたの?みんなお出かけ?」

「いえ、そうではなく…」

「シルヴィアこそどっか行っちゃうかと心配したのよー」


ターニアがシルヴィアの頬を両手で挟んでグニグニして離す。その言葉通り、どこかへふらふら行ってしまわないかと心配して見にきたようだ。


「私が?…ロー君と犬の散歩しようと思ったけど、アシュの許可とるようにって断られたし…もう戻るところだったよ」

「ロウルもちゃんと分かっているのね…」

「そりゃそうよターニア。豚小屋の番人よあの子は」


ターニアとゴンダールの心配する様子に、迷子にでもなると思われたのだろうか?とシルヴィアは首を傾げた。そこへ歩いてきた騎士たちとすれ違い、ふと目で追ってしまう。どこかの誰かと似た色をした、茶髪の騎士を。


「どうしたの?騎士に知ってる顔でもいた?」

「ううん…別に、なんでもない…」


シルヴィアが振り向いて見ているのを不思議に思ったターニアが尋ねるも、見ていた意識すら無かったシルヴィアはぼんやり答えた。しかし急に意識を取り戻したかのようにハッ!とすると、ポツリと呟いた。


「アシュに会いたい…」

「えぇぇ??ど、どうしたのよ急に?」

「も、もうすぐ迎えに来るか呼ぶかすると思いますよ?」

「そうよ、大丈夫よ??ほーら、いないいないバァー!」


まるで何日も会っていないかのように、ぷるぷる震えながら泣きそうな顔で呟くシルヴィアに3人は慌てふためく。ゴンダールに至っては動揺して思わず赤子のような扱いになってしまっている。なぜいきなりそんな捨てられた子犬のような雰囲気になっているのかまるで分からなかった。


「私はアシュの…」

「そうよね、うん。間違いないわよ!」


なぜか考えてしまう人物のことを振り払うかのように、そして自身に言い聞かせるかのようにシルヴィアは呟く。ゴンダールもよく分からないながらもその言葉に力強く頷く。


「ご主人様のところに行く?何か仕事ないか聞いてみたら?」

「…うん、そうする」

「じゃあ私と行きましょうシルヴィア。今ちょうど我が君に呼ばれたので」


ゴンダールに促されて頷くシルヴィアに、ヒューズが手の甲を見せながら言った。確かに契約紋が青く光っている。


「ヒュー兄はよく呼ばれるね。いいなぁ…」

「雑用を押し付けられているだけですよ。さ、行きましょうシルヴィア」


シルヴィアは羨ましがるが、そもそも彼女を呼ばないのはむしろアシュレイ直々に迎えに来ているからだ。そして今ヒューズを呼んだのは、シルヴィアを連れてこいという意味なのではないかと何となく思った。今この状況を知っている訳はないのだが、なぜかアシュレイは察しがいい。

兎にも角にもよく分かっていない妹分を連れて、ヒューズはアシュレイが呼ぶ執務室へと向かうのだった。


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