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婚約と疑問

ハウズリーグ城の中庭にて、暇な晶霊2人が話をしている。


「どう思う?ご主人様のあの様子」

「あれは…やっぱり好きなんじゃないの?シルヴィアちゃんのこと」


ターニアとゴンダールは魔術国から帰って来る道すがら、ずっとこの話がしたくてウズウズしていた。まさかご主人様本人の前で話す訳にもいかず、城の中庭に戻ってからようやく腰を据えて話し出した。


「嫉妬した…ってこと?でもそれなら聖王様がシルヴィアちゃんの婚約者になったって聞いた時にあんなに笑うかしら?」

「まあ…それはそうよね。その話聞いてめちゃくちゃウケてたものね。でもその後笑顔でヒューズちゃんを城の屋上から蹴飛ばしてもいたのよね。…あれは命令を遂行できなかったことを怒ってただけじゃないのかも?」


もしかしたらシルヴィアを取り戻せなかったことに加え、婚約を破棄できなかったことに怒っていたのか?しかしそれなら聖王から吸精していたことを怒らなかったのは謎だ。


「戦場で会った時、聖王様への態度は別に怒ってる風ではなかったのよね」

「それに聖王様の方が良ければ解放するとまで笑いながら言ってたわ…」


やはりご主人様が何を考えているのか分からない。


「じゃあ単に魔術師にイラッとしただけかしら?」

「まあそれはそれで分かるわ〜。魔術師たちって腹黒でいやらしくて腹立つのよね〜」

「それ以上に腹黒いのがご主人様なんだけどねー」


うふふと笑うターニア。ゴンダールもそこがいいのよーと笑っている。


「だってご主人様があの聖王様みたく戦場で愛を叫ぶなんて考えられる?」

「ないない!あはははは!」


ゴンダールの言葉にターニアがついに大笑いをしだす。そしてひとしきり笑った後にふと考える。


「…でも2人っきりの時は何を話してるのかしら?」

「案外甘く愛を囁いていたり…?」


うーん、と悩む2人。でもそれならばシルヴィアの態度は腑に落ちない。アシュレイとは誰よりも近しいけれど、誰よりも犬のような態度に見えるのだ。やることはやっているが、やはりあくまで食事としてなのだろうか。


「そういえば昔ご主人様の寝所に女が入り込んでたことあったじゃない?あの時も怖かったわよね」

「あー、追い出してもあまりに次々としつこいからついには斬り殺したってやつね」

「あれシルヴィアちゃんと鉢合わせて、女が襲い掛かろうとしてきたから殺したんでしょ?」

「え?そうなの?シルヴィア本人は全然理由がわかってなさそうだったけど…」


そもそもシルヴィアはいつも、ご主人様と同じ部屋で寝起きしているという。寝所に忍び込んだら鉢合わせるのは当然といえば当然なのだが、ただの警備のための晶霊だとでも思っていたのだろうか?それとも承知の上でむしろ始末しに来たのだろうか。

彼女は自分がご主人様にとって特別とは微塵も思っていない。確かにアシュレイの態度は少しわかりにくい。シルヴィアの事が女性として好きなら、それこそ堂々と側室なり愛妾なりにすれば良いのにそうはしない。過去に晶霊がそうなった例はあるのにだ。


「結局ご主人様はシルヴィアを女として見てるのどうなの??」

「どちらかって言うと…犬?」


可愛がっている犬、という印象だ。たくさんご飯をあげてスキンシップしているというような。


「でも、あんな兵たちの前で見せつけるようにキスしてたのは何…?」

「よそで尻尾をふってた犬に対するお仕置き…かしら」


確かにそれが1番しっくりきてしまう理由な気がした。


「それは…あんまり面白くないわねー。恋バナが不足してるのよー」

「そうよねー」


人間とは違う時間の流れで生きる晶霊は、もっと面白い話はないのかと勝手にがっかりするのであった。


――


翌日。昼過ぎにようやく庭園に姿を見せたシルヴィアはなぜか身体が重そうだった。


「シルヴィア?どうしたのよ?ご主人様にいっぱい食べさせてもらったんじゃないの?」

「それはそうなんだけど…食べすぎて苦しい」


よろよろと歩いてきたシルヴィアにターニアは不思議そうに聞いた。そして彼女の返事を聞いてゴンダールと顔を見合わせる。


「食べ過ぎ?あの食いしん坊シルヴィアちゃんが?」


基本的にシルヴィアについて、燃費は悪いが容量自体は大きいと皆認識していた。ご主人様が可愛がってしょっちゅう食べさせたがるのも知っている。そういえば帰ったらご主人様を頑張って癒すなどと約束をしていた。そして彼女の吸精方法は皆暗黙の了解だ。つまりそんな彼女が食べすぎと言うには…。


「ちょっ…ご主人様どれだけ…!?」

「え、ええ!?そ、れって…!?」


ざわめく女子会2人の後ろから、スッとヒューズが現れる。


「シルヴィア、それなら庭園の花にでも水をあげたらどうです?そうしたら力が減るし、無駄にもならないでしょう?」

「ヒュー兄頭良い!」


兄貴分の言うことに素直に従い、花に晶霊術で水をあげ出すシルヴィア。そんな彼女を尻目に、ヒューズは2人に向き直る。


「さて、お二人はそろそろ慎んだ方が良いのではありませんか?」

「うっ…何よヒューズ?別に何もしてないわよ?」

「そうよお!あたしとターニアはちょーっと楽しく恋バナしてるだけよー?」


やんわりと2人を嗜めるも、反論をしてくる。ヒューズはやれやれといった顔だ。


「仲間として一応忠告したまでです。とばっちりさえこなければ別に私は構いません」

「私たちだって本気で逆鱗に触れるような真似はしないわよ〜…って、シルヴィアちゃん本当に力が有り余ってるみたいね?」


ヒューズの言葉にたじたじになりながら答えるゴンダールだったが、庭園の花に端から端まで水をやろうとしているシルヴィアを見て気づく。


「別に行動制限はされてないとは思うけど、あの勢いだとそのまま正門に回ってふらふら出て行っちゃいそうじゃない?」


ここは中庭とは違って正門の裏にある庭園だ。特に制約はないが、基本的には主人のそばをあまり離れないのが晶霊たちの常識である。まさか自分から城門の外までは行かないとは思うが…。


「また攫われたらそれこそご主人様がブチ切れるんじゃないかしら」

「あ、声かけられてるわね。あれは誰かの契約晶霊ね。新入りかしら?国王陛下の晶霊って知らないのかしらね」


庭園の奥からぼんやりと見ているゴンダールたち。暇な晶霊がナンパをするのはよくあることだが、国王陛下のお気に入り晶霊相手に声を掛けるのは珍しい。


「シルヴィアちゃんて可愛いし、ぱっと見では契約紋見えないから実は高度な罠よね」

「お兄ちゃん助けなくて平気〜?」


ターニアがヒューズにからかうように聞く。


「この場合助けが必要なのはナンパ男の方では?…まあ我が君もそれくらいなら気にしないでしょう。それにあの程度、シルヴィアが自分で断りますよ」


割と冷静にヒューズは見ているようだ。特に3人は動くことなく見守る方針で一致した。遠目にぼんやりと見ていると、シルヴィアは明らかにNOのジェスチャーで男に答えている。


「あ、明確な拒絶」

「撃沈ね〜。諦めて歩いてきたわね」


ナンパ男は意気消沈した様子で庭園の奥、つまりターニアたちがいる方へと歩いてきた。


「ねえねえ、今見てたんだけど、あの銀髪の子に声かけてフラれたの〜?」

「え、あ…はい。可愛いし一緒にデートでもしないかって誘ったんすけど…」


面白そうにゴンダールが声をかけると、ナンパ男は素直に答えた。


「婚約者がいるから無理って断られちゃったっす」

「こん…?」


シルヴィアが言ったという返事に一瞬では理解ができず固まるゴンダール。横のターニア、さらにはヒューズも同様だ。


「よくよく見たら首にキスマークついてるし、相手の男に執着されてんだなって感じっすわ〜」

「キ…??」


彼女の言う婚約者とはもう何ヶ月も会ってすらいないはず。それに昨夜は間違いなくご主人様と一緒だったはずだ。しかしそんなものを付けるような性格だったか?あの主が?

そのような事を考えゴンダールたちはみな混乱している。その内に、何も分かっていないだろうナンパ男はそのまま普通に去っていく。


「…ねえ、今の話」

「いや、待って待ってターニア。ちょっと整理しきれてないわ。ヒューズ、あなたは分かった?」

「…シルヴィアの言う婚約者とは、多分…」


3人の頭に浮かんだ人物は1人だ。戦場で愛を叫んだ若き聖王、ライオネル。彼との婚約はシルヴィアの中で現在進行形だったのだろうか。相手の男は神聖力の問題もあるためまだそのつもりだろうが、彼女がまさかまだ意識していたとは驚いた。例えナンパの断り文句に使っただけだとしても、頭の中にあったとは。

この前も思い出して何故か顔を赤らめていたし、もしかしてシルヴィアは…?


「で、でももうずっと会ってないはずよね?だったらキスマークって…」

「つけられるとしたら、お一人でしょうね…」


どう考えても1人しかいない。魔術国にいる間も帰ってからもずっと一緒にいた人物。シルヴィアを食べ過ぎ状態にしたのはご主人様であるアシュレイだ。しかし、執着していると?あの彼が?


「さすがに…これ以上はお喋りをひかえた方が良さそう、ね」

「ええ…そうね」


ゴンダールとターニアがさすがに黙ることにしたが、今度はヒューズが難しそうな顔をして考え込んでしまっていた。

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