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特別

撤退をしてきたハウズリーグ軍は自国の領地内に張った本陣にまで戻ってきていた。


「陛下は中か?」


天幕の前にやってきた50代くらいに見える将軍が、近衛と共に見張のように立っているアシュレイの晶霊に尋ねる。


「ああ。…だが後にした方がいい。お怒りを買うぞ」

「は?何を…」


言われた将軍は眉根を寄せたが、中から漏れ聞こえた声に黙る。


「…そうか、分かった。終わったら教えてくれ」

「多分長引く。急ぎでないなら明日にした方がいい」


全て理解して去っていく将軍を見ながら、見張の晶霊ガウディはため息をついた。




天幕の中。


「ん…!アシュ、アシュ…!」

「…よしよし可愛いシルヴィ、もう大丈夫だからね」

「ふっ…うぅ…!」

「聖王様は口からしか吸精させてくれなかったのかな?随分寂しかったようだね」

「ん…!してたら…アシュ、怒った?」

「怒らないよ。君の命の方が大事だからね。そして可愛い君のお願いは聞く約束だ」

「アシュ…!」

「よしよし、いい子だねシルヴィ。今日はたくさん可愛がってあげるからね」



――


翌朝。


「やあゴルド将軍。昨日天幕まで来てたんだって?対応できなくて悪かったね」

「いえ、お気になさらなず…」


清廉潔白そうな爽やかな笑顔で声をかけてくるアシュレイ。晶霊術で身を清めたのだろうか、心なしかいつも以上にキラキラと眩しい。昨日天幕から漏れ聞こえた声は気のせいだったかな?と一瞬思わせる姿だ。腕に巻きついている何かが無ければ。


「で、要件は何かな?」

「昨日の神聖国での件です。何故あのタイミングで魔術師の軍が現れることが分かったのですか?まさか…」

「俺が国を売ったかの心配かな?」


にこやかに問うアシュレイの姿はいつもと同じだったが、何故だかゾッとした。


「い、いえ…」

「別に示し合わせた訳じゃないさ。ただあいつらを利用しただけ。魔術師は自己顕示欲が強く己の力を過信している者が多いからね。そこをつついただけだ。こちらに損のない消耗品って便利だろ」

「左様にございますか…」


なんだか爽やかに外道なことを言っているような気もしなくもないが、ハウズリーグ国としては問題なさそうなのでゴルド将軍は流しておいた。

アシュレイはそのままゆっくり歩き、地図が置いてある卓の前で振りむき宣言する。


「さて、これからの予定を話そう。皆揃っているな。軍議を始める」

「はっ…しかし、陛下、その…それ、は?」


将の1人が指したのはなぜかアシュレイの腕にずっと無表情で巻きついているシルヴィアだった。


「晶霊術士が己の晶霊を連れているだけだが?」

「いえ…しかし、そいつは、あの聖王の婚約者と呼ばれていたのでは…」


軍議にも自衛のためそれぞれ一体は己の晶霊を連れてきて良いことになっている。しかし他にもっと高位の晶霊がたくさんいるだろうに、アシュレイが連れていたのは彼の晶霊の中でも見るからに戦闘力の低そうなシルヴィアだった。しかも昨日敵の総大将といた彼女だ。疑問を口にされるのも当然ではある。が。


「ディルムント公」

「はっ…!」


にこやかに話すアシュレイだが、なぜだかその場にいた全員が圧を感じた。名を呼ばれた将は脂汗をかいている。


「俺が、俺の晶霊を連れているのに何か問題でも?」

「い、いえ!問題ございません!失礼致しました!」

「そうか、では軍議を続けよう」

「はっ…!」


逆らってはいけない。たとえこの場にいる全員が晶霊術で襲いかかっても、今と同じ笑顔のまま全て鎮圧しそうな気配が王にはあったからだ。


――


「ヒューズ」

「おや、ソルナ」


軍議を待っている中、ヒューズはゴルド将軍の晶霊に話しかけられた。そしてソルナと呼ばれた晶霊はじっと彼の姿を見てなぜか軽く引いた。


「…あんたも精気は満タンなのね」

「ええ、先ほど我々全員の背中をバシバシ叩いて補充して行ってくださいましたよ我が君は」


相変わらずあの鬼畜王は契約した晶霊に対して雑だ。


「きっと朝までずっと天幕でお楽しみだっただろうに…お元気なことね」

「何を言っているのかわかりませんが、我が君が天幕でなさっていたのは捕虜にされていた哀れな晶霊への吸精ですよ」

「あんな声出させておいて??何度か様子を見に行ったけど、ずっとアンアンしてたわよ」


主人に命じられたソルナが時間をおいて何度か様子を見に行ったが、天幕から漏れ聞こえる声はずっと止むことはなかった。さすがに朝までかは確認してはいないが、あの勢いならおしてしるべしだ。


「あんな吸精方法あり得ないでしょ!戦場で女がいないからとかなら分かるけど、あれがいつもだと言うの?」

「あなたの言う吸精方法が何かは分かりませんが、我が君にとって彼女は特別なんですよ」


主人に似たようににこやかに告げるヒューズにソルナは怪訝な顔をする。


「1人だけ特別って…契約晶霊の中から不満は出ないわけ?1番力があるとかならともかく、むしろ1番弱そうじゃない。他の晶霊たちは特別になりたくないの?」

「あり得ない!我が君の特別になど誰も!絶対に!なりたくありません!むしろ誰もが彼女を哀れに思っています!」


細い目をかっ開いて言うヒューズの姿ににソルナは引いた。なんだこの勢いは。むしろじゃあなんでこいつは契約してるんだと疑問になる。


「…彼女自身は分かってないですけどね。あなたもあまり余計なことは言わないように。私にあなたを処分させるような事はないようにしてください」

「はぁ?なんなのよ…訳がわからないわ。結局あの子は王様のなんなの?」

「契約晶霊ですよ。それは間違いない。…おや、終わったようですね」


ぱらぱらと軍議に参加していた者たちが戻ってくる。

やがてアシュレイもやってきたが、軍議に向かう時と同じようにシルヴィアを腕に巻き付かせている姿に周囲にいた晶霊たちもギョッとする。


「やあヒューズ、おまたせ」

「…我が君、まだ腕にくっ付けているのですか?」


さすがにヒューズも苦言を呈す。おそらくは軍議中もずっとこの状態だったのだろう。しかしアシュレイは気にする様子はまるでない。


「甘えん坊で可愛いだろう?」

「お戯れを…。あなたが一言命令すれば離れるでしょう」

「周りへの牽制も含めてるんだよ。こうしておけばどこぞの伯爵のように立場のわからないような真似をする者は減るだろう?」


相変わらず爽やかな笑顔でいう姿はキラキラしているが、そのどこぞの伯爵に下した処分は決して爽やかなものでは無かったことを周りにいた人間は皆知っている。


「…ところで、シルヴィアはなぜずっと黙っているのです?」

「あぁ、それも俺がさっき命令した。彼女へのお仕置きだから。…声を我慢しろってね?」


先程からずっと押し黙っているシルヴィアを見てヒューズは疑問を口にした。それにアシュレイは笑顔で答えると、空いていた方の手の指でシルヴィアの頬をくすぐる。


「っ…!」


シルヴィアはご主人様の指にびくりと反応をしたが、命令通りに黙っている。その様子を見た周りがまたざわついた。


「…我が君、お戯れは程々にしてください。シルヴィアが可哀想です」

「シルヴィは俺に何されても嬉しいって言ってるよ?なぁシルヴィ?」


ヒューズが頭を抱えたが、アシュレイが笑顔で問いかけるとシルヴィアは素直にこくりと頷いた。

そしてそこまでの一部始終を見ていただろうソルナを見ると、“確かに特別になりたくない”とヒューズにアイコンタクトをむけてきたのだった。


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