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婚約者と契約者

川に流された2人は、シルヴィアの晶霊術とライオネルの身体能力でなんとか河岸にたどり着いた。シルヴィアの腕にはめられていた晶霊術封じの腕輪は、川に落ちた際にライオネルが即座に解除していた。


「げほっ…げほっ」


ライオネルはずっと抱きしめていたシルヴィアを降ろし、神聖術による熱気で濡れた体や衣服をある程度乾かす。


「悪かったな…大丈夫か?」

「ライの馬鹿!せっかくアシュに会えたのに…」


自分のせいで川に落ちたことを謝るライオネルだったが、シルヴィアは川が云々ということよりもご主人様と離れてしまったことを怒っていた。


「…力、使ったんだから腹減ったろ?食わないのか?」

「アシュに貰ったからいい…」


ぷいっとそっぽを向いてしまうシルヴィア。本当は全力で貰ってはいないため、力を使ってしまった今お腹は空いている。


「アシュアシュって…。前から気になってたけど、お前自分のご主人様呼び捨てなのかよ??」

「アシュがそうしろって言った」

「はぁ??」


以前会ったヒューズとか言う契約晶霊は、アシュレイのことを我が君だのご主人様だのと呼んでいた。なんならどこか恐れていた節すらある。つまり自身の晶霊に対して等しくフレンドリーな訳ではないはずだ。それなのになぜこの少女にはそんなことを命じたのか。


「…アシュのとこ帰る」

「いや待て待て!だから許すわけないだろって!」


そのまますくっと立ち上がり、どこかへ行こうとするシルヴィアをライオネルが止める。


「許す許さないじゃない。アシュがそこにいた」

「なんだよこの力は!珍しく強情だな!」


ぐぐぐ…と掴まれた手を引き離そうとするシルヴィアだったが、さすがにライオネルの力には敵わない。しかもお腹は空いている。と、そこへ…。


「ライオネル様…!ご無事ですか!」


どうにか聖王を探し出したのか、バタバタと神聖国の聖騎士たちが数名走ってくる。しかしそんな中でも2人の言い合いは止まらない。


「お前を離すわけにはいかねぇんだよ!俺にはお前が必要なんだ!」

「神聖力のためでしょ?もういい加減女神様に土下座でもなんでもして許して貰えるようお願いすれば良い」

「前から言ってるだろ!?そうじゃなくて俺は…!」

「アシュのとこ帰る。私はアシュのものだから」

「俺は!お前が好きなんだよ!!」


ライオネルの絶叫は山の戦場をこだました。


「え…」


周りの聖騎士たちも固まり、言われたシルヴィアも目をぱちくりとしている。前からと言われたが彼女の中では告白された記憶などないのだ。聖騎士たちはもちろん知ってはいたが、祝宴の際の告白が実は空振りになっていたことも知られている。


「見つけたぞ!聖王だ!」


サザザッ!とハウズリーグの兵たちが両側から集まってくる。人数は今そばにいる聖騎士の数より明らかに上だ。


「ライオネル様っ…!道を開きます!お逃げください」

「逃げる必要はねぇ。…今、なんかすっげぇ力が滾ってんだよ」


バチバチバチィッ…!!


「うわぁぁぁっ!!」


強力な雷撃でハウズリーグの兵たちを全て弾き飛ばしたライオネル。その威力も精度も凄まじい。


「ライ…力が強まってる?」

「女神様は大層ご機嫌らしいな。…俺は激しく後悔中だけどな!」


再度の告白のタイミングはもっと別の機会を練っていたはずなのに、こんなところで勢いよく告白して敵までおびき寄せてしまったライオネル。めちゃくちゃ恥ずかしくて顔が真っ赤だ。


「ライ…」

「…なんだよ」

「…私はアシュのだから帰る」

「結局それかよ!!…お前ら行くぞ、とにかくバースたちと合流する」


とりあえずシルヴィアの意思は無視して肩に担いだライオネルは、本隊との合流を目指した。お腹が空いた状態のシルヴィアでは抵抗などあってないようなものだ。


「ライ!嫌だってば!」

「本隊と合流すりゃお前のご主人様だっているかもしれねーぜ?見つけ次第ぶっとばすけどな」

「アシュは強いからぶっ飛ばされない」

「はっ!わざわざ出迎えに来たってのに、まんまとお前を俺にとられてるじゃねぇか!」

「ライ…やっぱり山賊みたい」

「うるせー!!」


わあわあ騒ぎながら戦場を駆ける2人を見て、愛の女神の僕たる聖騎士たちはさっきの告白の答えはどうなったのか…と気になったが言えなかった。


――


ギィンッ!


敵を剣で弾き飛ばすバース。一人一人との力量は彼の方が圧倒的に上だが、人数で押されてきているようだ。


「くっそ、次から次へとわいてくるな…」


1人受け流すも2人、3人と切り掛かってくる。神聖術で弾き飛ばすも、向こうも晶霊術を使ってくるので制圧しきれない。


「覚悟っ…!!」

「くっ…!」


バチバチバチィッ!!


ハウズリーグの兵に後ろから飛びかかられて斬られそうだったバースだが、そこを横から放たれた雷撃に助けられる。


「ライ!」

「バース!無事だな?」


現れたのはシルヴィアを肩に抱えたライオネルだった。どうやら無事に確保できたらい。その姿に安堵したバースだったが、一つ気になる点もあった。彼の神聖力が無事なのは何よりだが、思っていた以上の力に驚いたのだ。


「ライ、なんかお前力が増してないか?」

「…かもな。ハウズリーグの兵どもよ!聞け!命が惜しければこのまま撤退せよ!」


バリバリバリバリ!!


「ひ、ひぃぃぃっ…!」


激しい雷を放って来ながら叫ぶ聖王に、ハウズリーグの兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。これは勝利確定かと思われたが…。


パァンッ!と急にその力が相殺される。


「やあやあ、聖王猊下。また会えたね」

「ハウズリーグ王…!」

「アシュ…!?」


現れたアシュレイに、抱えられていたシルヴィアがライオネルの肩の上で振り向き、またアシュアシュ言って力があまり無いながらもバタバタともがき出す。そのためずり落ちそうになったが抑え、ライオネルは片手で後ろから抱き抱える形になる。


「うちのシルヴィを抱えたままじゃ戦い辛いだろう?まずは引き取るよ」

「返さねぇって言ってんだろ!こいつはもう俺のだ!」


爽やかな笑顔を崩さずに両手を広げてくるアシュレイに、ライオネルはまた山賊のようなセリフで怒鳴る。


「私はアシュの!」

「うるせぇ!」

「ぷっ…ほら、本人もそう言っているよ?」


シルヴィアとライオネルの掛け合いに笑うアシュレイ。どこまでも余裕を感じる。


「それとも人質のつもりかな?困ったなぁ。俺の可愛いシルヴィを傷つけるわけにはいかないからなあ」

「人質じゃねぇよ!」


飄々と言うアシュレイの姿からは本意が読めない。そして意図したわけではないが、ライオネルの体勢は確かに人質を抱えているような格好だ。


「ライ、やっぱり誰から見ても山賊なんじゃない?」

「だから違うって言ってんだろ!お前は黙って…」

「シルヴィ」


アシュレイの笑顔はそのままだが、先程までより少し低めの声にシルヴィアはビクッとする。


「随分と仲が良さそうだね?彼の味が気に入ったのかな?」

「アシュ…!違…」

「君が望むのなら俺から解放してあげるのもやぶさかでは無いんだよ?可愛い君のためならば」

「嫌!嫌!捨てないでアシュ…!」


笑顔でアシュレイにそう言われてライオネルの腕から逃れようとシルヴィアはもがきだす。


「じゃあ俺のところに戻ってお仕置き…かな?」

「お仕置き…!お仕置きが良い…!」

「…戦場の真ん中でどエロいこと言ってんじゃねぇよ!!」


戦場で愛を告白した男が怒る。両国の兵たちもどうすればいいかわからず微妙な顔して互いに睨み合うことしかできない。


「こんな奴がそんなに好きなのかよ!?」

「好きとかそういうことじゃない、私はアシュの!」


ぎゃあぎゃあ喧嘩する2人をアシュレイは微笑を浮かべ無言で見つめている。


「じゃあ俺でもいいだろ!解放するっつってんだからそうしてもらえ!」

「意味わかんない!なんでそんなことしないといけないの!」

「俺はお前を好きだってさっきも言っただろ!!」

「「え」」


聖王猊下の叫びに聖騎士たちほぼ全員から同じ声が出た。さっき言ったの??知らない知らない。

先ほど聞いていた聖騎士はやっぱり聞き間違いじゃないよな?という顔だ。聖騎士たちは皆、祝勝会の時のプロポーズが伝わっていないことは何となく気づいていたのだ。


「はははっ…!さすがは愛の女神を祀る国の聖王だ。こんな戦場で愛を叫ぶとはね」


アシュレイは面白そうに笑っている。


「しかも敵国の王の所有物に、だ。なんてドラマティックなんだろうね?」

「所有物ってテメェ…!!」

「だって俺の名前がちゃんと書いてあるよ?だから返してもらわないと」


アシュレイの言葉に怒るライオネル。しかし彼の言う通り契約紋には古代語でアシュレイの名が刻まれている。


「可愛いシルヴィ、お仕置きされてもいいから俺のところに帰るんだろう?」

「うん!アシュ…!」

「じゃあ少しだけ我慢してね?」


アシュレイはそういうと、笑いながら少しだけ目を細めた。ライオネルはそれに非常に嫌な予感がした。



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