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ご主人様

神聖国の聖騎士たちによる制止を振り払い、シルヴィアは走り続けていた。この先にきっと彼はいる、そう思いながら。


「お待ちください…!猊下のご命令です…!」

「無理に拘束したらライの神聖力は無くなるかもしれないのに?」

「それは…!」


逃げ続けてとうとう崖上で追いつかれたが、どうせ兵たちにはシルヴィアを拘束することは出来ないはずだ。しかしここからまたどうするか…。後ろには川が流れている。最悪飛び込むか、しかし高さがあるため躊躇われる。段々とにじり寄ってくる兵から逃げられずに困っていたその時…。


バシィッ…!


シルヴィアの周囲の聖騎士たちを横へ吹き飛ばす風の晶霊術。それを放ったのは…。


「アシュ…!」

「やあ可愛いシルヴィ。迎えに来たよ」


ずっとずっと恋しかった姿がそこにはあった。やっと会えたご主人様に駆け寄るシルヴィア。すぐさま飛びつくようにその身に擦り寄る。その姿はまさに犬のようだ。

神聖国の聖騎士たちは吹き飛ばされた衝撃により一瞬で気絶している。


「アシュ…アシュ!」

「こらこら、“待て”だよシルヴィ。まずは無事を確認させるんだ。…うん、怪我はないね」


背伸びをしながらご主人様の顔に手を伸ばし、吸精をねだるシルヴィアをアシュレイは笑いながら止める。元気いっぱいなのは見て分かるが、一応彼女の全身を見て頷くアシュレイ。


「あぁ、可哀想に。晶霊術を封じられているんだね。これは晶霊術じゃ壊せないなあ」

「アシュでも無理なの?」


シルヴィアの腕にはめられていた封じの腕輪をつつくアシュレイ。


「全力でやれば出来るかもしれないけど、それだと君を傷つけてしまうかもしれないからなぁ。ヒューズがはめられた時には国境を越えたら取れる仕組みだったらしいね。ま、追々どうにかしよう」

「うん…ねえ、じゃあ…アシュ、まずは食べても良い?」


シルヴィアは早く早くとうずうずしている。その姿にアシュレイは吹き出すように笑う。


「ははっ…そうだね、シルヴィ。ほら、どうぞ」

「んっ…!」


屈んでくれたアシュレイにようやく吸精を許されて唇を寄せるシルヴィア。頬は赤く蒸気している。


「…シルヴィア。ここは戦場だ。あまり摂りすぎるなよ」


横で見ていたアシュレイの別の契約晶霊が呆れたように注意をする。ご主人様の精気がなくなるとは考えられないが、一応注意しておかないといつまでも吸精していそうな勢いだ。そんな時間は今は無い。


「ガウ兄!分かってる、でも…」

「いいよ、俺の可愛いシルヴィ。寂しかったんだよね?」

「アシュの匂い…!」


ガウディに言われて唇は離したが、そのままご主人様の胸に擦り寄り嬉しそうにスンスンと匂いを嗅ぐシルヴィア。


「うんうん、でも君からは違う男の匂いがするね?」

「え」


爽やかに笑ったままアシュレイは言った。ご主人様のその言葉に彼女は固まる。横にいた赤髪の晶霊、ガウ兄ことガウディは冷や汗をかいた微妙な顔をして目を逸らしている。


「我慢できなかったんだよね?分かってるよ。でも…帰ったらお仕置きかなあ?」

「ご、ごめんなさいアシュ…!私…!」


ガキィィン!


急に背後から斬りかかられ、その刃を晶霊術で防いで弾くアシュレイ。弾かれた男は一回転しながら着地する。


「ライ!」

「無粋だなあ…感動の再会だよ?愛の邪魔をするのは女神様がお許しになるのかい?」

「へっ…!なーにが愛だよ!ただの契約だろ?女神様は俺に婚約者を取り戻せと仰せだよ!」


バチバチバチィッ!!


雷撃を纏いながら再び斬りつけるライオネル。アシュレイも剣を抜いて切り結ぶ。


「君こそ契約者でもないのにどうして場所が分かったのかな?」

「女神様のご加護があるんでね!お導きってやつだよ!」


先程完全に出し抜いたはずなのに、予想外の早さで追いつかれたのだ。シルヴィアが逃げた場所など分からなかったはずなのにだ。アシュレイはそこを不思議に思った。いや、それにしても剣で打ち合いながら放たれる雷撃を晶霊術で返しながらもその強さに感心する。


「凄いなぁ…君、こんな力あったっけ?」

「俺の婚約者を奪う奴には容赦しねぇんだよ!」

「それは違うなぁ…シルヴィは俺のだ」

「うるっせぇ!!」


その瞬間、ズガーン!!と雷が落ちる。落としたのはライオネルだが、自身の想定以上に威力があり、アシュレイの後ろの足場が崩れた。その先にいたのは彼が取り戻しに来たはずのシルヴィアだ。


「へ…?」

「やっべ…!」


ぐらり、と後ろにいたシルヴィアは足場が割れてしまったため崖下へと落ちる。その瞬間剣を慌てて納めて駆け込んだライオネルが彼女の身体を抱きしめた。


「シルヴィ!」

「えぇぇぇ!?」


アシュレイが風の晶霊術で落下速度を落とさせるも、ライオネルに抱きしめられる形のままシルヴィアはそのまま崖下の流れの早い川へと落ちていく。


バシャーン…!


「ウッソだろ!アホなのか聖王は!?」


一連の出来事を見ていた炎の高位晶霊ガウディは呆然としている。ご主人様から奪いに来たはずじゃなかったのか?それなのに危害を加えてどうする!?と。

だが、アシュレイは何故か感心したような顔で呟く。


「いやぁ…凄いなあ、若さってやつかな?」


先程の雷撃によりビリビリと痺れている腕を見たあと、アシュレイは2人が落ちて行った川へと目を戻した。


「追いますか?」

「いや、炎の晶霊である君には分が悪い。水の晶霊術が使えるシルヴィなら大丈夫だろう。行き着く先はまぁわかる。そちらへ向かおう」


そう言うと踵を返し、歩き出したのだった。


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