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新たな捕虜晶霊

「契約を解除したい」

「貴様…っ!裏切る気か!?」


マクディの契約晶霊の青年は顔を合わせるなり、冷たい目で契約解除を求めた。あまりの人望の無さに、さもありなんと周りは晶霊に共感した。


「契約の解除というのはどうやって行うんだ?一方的には出来ないのか?」

「晶霊からは出来ない。主従契約だからね。術士に解除してもらうか、もしくはどちらかが死ねば強制解除だ」


契約解除の方法について興味があるのか、ライオネルは晶霊に尋ねた。


「好きで契約したわけではないのか?」

「お腹が空いて死にそうだったから契約してしまっただけで、忠誠心なんてないさ。そんな晶霊はたくさんいるよ」

「エンダ!貴様ー!」


エンダと呼ばれた晶霊はライオネルの質問に淡々と答える。特に嘘を言っている様子もない。


「気に入った主人を見つけるまで野良晶霊でいる奴もいるけど、ただで精気をくれる奴なんて中々いないからね。よほど力の強い高位晶霊でもなきゃ選り好みできないさ」

「ただでくれる奴は珍しいのか?」

「そりゃそうだろ。なんの得もなく自分のエネルギーが減るんだ。そんな奴は変態だろ」

「変た…!?」


バースが横から質問をすると、エンダは呆れたように答えた。その言葉でまさか聖王にダメージが入るとは知らずに。


「犬や猫から貰うことも出来るけど、ほんと生きれるギリギリってとこだしね。なら気に食わない相手でもご飯が確保できるならって思って契約したんだ」

「味に違いとかはあるのか?」

「そりゃあるよ。味というか…質だね。質の良い精気を持つ人間程魅力的で晶霊に人気だ」


それがシルヴィアの言う“美味しい”と言うことか。


「ハウズリーグ王はたくさん晶霊がいるが、それは晶霊にとって魅力的ってことなのか?」

「国王陛下?そりゃそうだよ。もちろん頂いたことはないけど、見れば分かるくらい高品質な精気で溢れてる。誰だって喜んで契約するさ。ま、高位晶霊でもなきゃ相手にもされないだろうけど」


高位晶霊でもなければ?確かに以前使者として来たヒューズとやらはそうかもしれないが、シルヴィアはどうだろうか?浄化の力は確かに便利ではあるが、特別力が強いわけではない。


「契約の際に…吸精の方法を決めるだろう?お前たちはどうやってるんだ?」

「僕?普通に手から貰うけど。え?他の方法わざわざ取る奴なんている?」


ライオネルの質問に何で急に当たり前の事を聞くんだこいつと言う顔でエンダは答える。


「キスや交合…そういうので契約するやつはいないのか?」

「はあ!?いないよそんなの!それこそ変態じゃないんだから!あ、聖王様思春期っぽいもんなあ…」

「俺が考えたんじゃねえよ!」


質問にドン引きしながらもエンダはお年頃なら仕方ないか…という反応だ。


「効率悪いし戦場でそんなことできないだろ。だいたい恋人や配偶者になんて説明するんだよ、そんなどスケベ晶霊術」

「いや、晶霊と恋仲なら有りなんじゃないか…?」

「長い時間一緒にいて恋人になる奴らもいるにはいるけど、そもそも吸精方法を決めるのは契約の瞬間だよ?その時から恋仲だなんてケースはほぼ無い」


確かにそうだ。ならばやはりハウズリーグ王は変態なのかとライオネルは考えた。


「それかその晶霊がよっぽど可愛くて一目惚れしたとかなら無くはないかもね。独占欲の強い変態なら」

「可愛い…?」


言われてシルヴィアの顔を思い浮かべてみる。が、今や彼女のどんな表情も可愛く思えてきてしまうライオネルには冷静な判断はできない。


「まあ普通は晶霊側が断るけどねそんな契約。余程のイケメンでもなきゃ許されないよね」


そう言われてバースとライオネルは2人してハウズリーグ王の顔を思い浮かべた。腹立たしいが許されてしまいそうな顔ではある。


「ところで、聞きたいのはそんなことなのかい?」

「あー…いや、今回の侵略についてだ。なぜ停戦を破った?お前のご主人様は言うことがわからなすぎる」


言われてようやく思い出したかのようにライオネルは本題に入る。聞かれてエンダは少し迷うそぶりを見せながら、口を開いた。


「婚約者が聖王様に取られたって言ってきかなかったんだ。あのあばずれ…身持ちの悪い令嬢の言うことを本気にしてしまってね」

「その令嬢とやらを全く知らないが、一方的に釣り書きを送って来たのはハウズリーグの方だぞ?しかも俺は断っている」

「え?」


ご主人様は騙されたのだと言うエンダだったが、ライオネルの言葉を聞いて眉根を寄せた。


「シルフィーヌ嬢は望まれて嫁ぐと、主にそう言っていたけれど…」

「だから知らない人間を望むわけないだろう。ここは愛の女神を祀る国ドルマルクだ。政略結婚は基本しない。俺の婚約者は別にいる」


どうにも話が噛み合わない。まるで裏で糸を引いている者がいるかのようだ。


「そうだ、貴様の婚約者は陛下の晶霊だとか言っていたな!?どんな妄想だ??」

「お前に言われたくねえよ!」


横からマクディに言われて睨み返すライオネル。頭がおかしい人間に妄想癖を疑われたくはない。


「陛下の晶霊?…見たことある女性は人妻か、男か女かよく分からない奴か、あとは…陛下の腕によく巻きついていた銀髪の…え!?あれか!?」

「あれってなんだ、知っているのかエンダ?」


銀髪の…の辺りでライオネルがぴくりと反応を見せたために気づいたのだろう。しかしなぜかエンダは激しい動揺を見せた。そんな彼にマクディはよくわかっていない様子で尋ねた。


「陛下が寵愛されていた晶霊でしょう、あのソーントン豚餌事件の原因の!」

「何!?ソーントン豚餌事件のか!?」

「いや待て、なんだその事件は??」


聞き覚えのある名前と物騒な事件名が聞こえたためライオネルはマクディ主従の話を遮る。


「陛下の晶霊を無断で戦に連れて行ったソーントン伯爵が豚の餌にされた事件だ。あの晶霊がまさか貴様のところにいるのか…!?」

「敵国で力を無くして消滅してしまっただろうと思っていたけれど、聖王が拾っていたのか??」


シルヴィアを神聖国に連れて来たソーントン伯爵の悲惨な末路を知り、複雑な顔をしているライオネルに主従は尋ねた。拘束されていなければ詰め寄っていそうな勢いだ。


「…というか、それなら今回もし無事に国に帰れたとしてもお前も豚の餌になる可能性があるんじゃないか?ハウズリーグ国王の命令で侵略しに来たわけじゃないんだろ?」


マクディは正規軍を率いてはいなかった。ならばソーントン伯爵と同じように国の許可なく侵略しに来た末路は同じではなかろうか。


「わ、私は建国以来の覚えめでたきウィンストン侯爵家の嫡男だ!父上も私を大事にされている!いかに国王陛下といえど、そんな私を無碍には扱うまい!」

「年取ってから生まれた大事な息子だからと甘やかされてこのザマなんだけどね」


少し焦りながらも大声で言い放つマクディの言葉に、エンダは呆れたようにつけたした。


「まあそれ以前に、生かすも殺すも俺次第なんだけどな?」

「うっ…!私を殺すと全面戦争だぞ!そもそもこの状況を父上が黙っているわけがない!今に解放を求めて進撃してくるはずだ!」

「はあ?お前の家の私兵は壊滅状態だ。あのクソ野郎がお前を解放するためだけに王国軍を動かす許可を出すわけ…」


ライオネルはマクディに冷たく言いながら、ふと気づいた。捕虜の交換請求はシルヴィアを捕獲した時に一度拒否している。ならば次は軍を率いて強行するしかない。まさかこれは…。

その時部屋に聖騎士の1人が飛び込んできた。


「猊下!今すぐお耳に入れなければならないことが…!」


聖騎士はひそっと耳元で囁き、マクディたちを見やる。ライオネルは一応部屋の外に出ると、慌ててやって来ただろうワズと鉢合う。


「げ、猊下…!」

「…タイミング的に、何となく予想はできる。ハウズリーグ正規軍が、来たか」

「は、はい…!現在国境近くに向かってきており、辺境伯より応援要請が出ております」


もはや一時の猶予もなさそうだ。ワズはそのまま言葉を続ける。


「ハウズリーグの要求は全ての捕虜の解放…!向かってきている総大将は、アシュレイ=フォル=ハウズリーグ…!国王自らのお出ましです!」

「なるほどな…これが狙いかあのクソ野郎」


ライオネルは笑いながら納得した。ウィンストン侯爵のドラ息子を捕虜にさせたのは罠で、恐らくその解放を大義名分にして仕掛けてきたのだ。


「本命はシルヴィア…。あの野郎とうとう本気できやがったな…!」


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