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ドラ息子の婚約者を奪った?

ハウズリーグとの停戦が終わった。

ウィンストン侯爵家の嫡男マクディ=ウィンストンが軍を率いて神聖国に乗り込んできたのだ。それ自体は正式な王国軍ではなくウィンストン侯爵の私設騎士団だけだったため、すぐさま国境にて神聖国の辺境伯軍によって鎮圧された。


「猊下!これは完全なる宣戦布告です!すぐさま然るべき手を打たねば!」

「しかし相手の要求は支離滅裂だったのでしょう?この件に王家が関与していない単独行動ならば損害賠償だけ請求でもよいのでは?」

「ウィンストン侯爵家の嫡男と言えばあちこちに女がいるドラ息子として有名ですしな」

「甘い!ここで舐められてはこの先もどんどん軍隊を送り込まれますぞ!」


会議では諸侯たちが喧々轟々と話し合っている。そんな中でライオネルは珍しく黙って考えこんでいた。


「騒ぐな!」


ようやく口を開くと、ヒートアップしていた会議場を一言で静まらせた。


「滅多にない王家からの婚約打診、それから間も無くの侵攻だ。タイミング的に侯爵子息の独断だけとは思えない。裏でハウズリーグ王が糸を引いているはずだ」


ライオネルがそう言うと、会議室のあちこちから確かに…とか、あの王ならやりかねん…とかの声が上がってくる。


「要は狙いが何か…だな」


あの男の狙いは必ず何かあるはずだ。鎮圧されるのは目に見えているだろうに、わざわざ侯爵の軍を動かした理由が。


「まもなく捕虜たちがこちらに送られてくるはずだ。マクディ=ウィンストンが。直接話をして判断しよう」

「承知いたしました」

「仰せのままに」


ライオネルの発言を受け、皆恭順の意を示した。しかしそのすぐあと、1人がちらりと見ながら尋ねてくる。


「…ところで猊下、ご婚約者の件なのですが…」

「ハウズリーグからの打診は全て断っている」

「いえ、そちらではなく…」


まばら頭の彼が言いたいのはシルヴィアのことだろう。ライオネルもそれが分かっているから不機嫌そうだ。


「女神が認め、正式な祝福も受けている。その婚約者の事か?」

「は…」

「数々の奇跡を起こしてきた彼女を粗雑に扱うのは女神への冒涜に等しい。それを踏まえて発言してくれ。…で、何か?」

「いえ…何でもございません」


ライオネルの圧に、言いかけたまばら頭の侯爵は口をつぐむ事にした。


護衛として後ろで黙って立っているバースは、無言でジッとライオネルを見つめていた。


――



「マクディ=ウィンストン?…うーん、知らない」

「そうか」


彼女の食事の後シルヴィアに何か知っていることはないかと一応尋ねてみたが、予想通りの返事だ。


「…それに知っててもあまり下手なことは言えない。今回はハウズリーグとの戦いなんでしょう?」


節目がちにいう彼女の心境はあまりよくはなさそうだ。できればこのまま長きに渡る戦争を収めて欲しいと言うのが希望だったからか。


「…ま、お前の立場からすればそうだよな。安心しろ、無理にあれこれ聞き出す気はない」

「…拷問とかしない?」

「しねぇよ!」


ライオネルは出来るだけ穏やかに言ったが、シルヴィアの言葉に思わずまた突っ込みをいれてしまった。


「あのなシルヴィア、俺は婚約者相手に手荒な真似はしない」

「うん…神聖術つかえなくなっちゃったら困るもんね」


やはり彼女にちゃんと伝わっていないようだ。結局ずっと忙しくて再度の告白ができないでいるのだ。


「いやそうじゃなくて…」

「ライオネル様、そろそろお時間です」


扉をノックする音のすぐ後にワズの呼びかけが聞こえた。戦時中のため仕方ないにせよ、時間がないにも程がある。苦々しく思いながらもライオネルは扉へと返事を返す。


「…わかった、今行く」

「ライ、ごめんね。私今回は味方出来ないし、なんなら敵に回っちゃう。…だから私を信用しないで」


哀しそうな顔で告げるシルヴィアに、ライは苦笑しながら頭を撫でる。


「お前がご主人様に逆らえないことくらい分かってるよ。…だけど、だからといって俺もお前を手放すわけにはいかない。おあいこだ」

「ライ…」

「ゆっくり時間がある時に伝えたいこともある。…じゃ、またな」


そういうとライオネルは扉を開けて去っていく。残されたシルヴィアは不安そうな顔で俯いた。



――


ライオネルが牢に行くと、マクディ=ウィンストンが叫んでいた。


「だから早く聖王を出せ!私から奪ったことを後悔させてくれる!」

「俺が奪ったとはなんの話だ?全く意味が分からないな」


ツカツカと牢に近づきながらマクディに話しかける。実際奪うとは身に覚えがない。こいつとは初対面のはずだ。なぜかライオネルを見た途端に怪訝な顔をしているが。


「貴様が聖王か?いやに若いな…?しかし、私の女を!婚約者を奪ったのだろう!?」

「婚約者?俺の婚約者はお前など知らないと言っているが?」


そう。この男ウィンストンのドラ息子マクディは、聖王が自身の婚約者を奪ったと言って神聖国に攻め込んで来たのだ。さすがに無いとは思ったが、念のためシルヴィアに先程確認したがやはり知らない男だという。


「嘘をつくな!彼女は私を愛しているのだ!幼い頃からずっとそばにいてくれたのだぞ!?」

「幼い頃からそばに?お前は自国の王の契約晶霊を侍らせていたのか?」


やはり訳がわからない。こいつ何かやばいハーブでも吸ったのではなかろうか。


「そんなわけないだろう!私の婚約者は人間だ!」

「俺の婚約者は晶霊だ。何か勘違いしてないか?」

「は?晶霊…?」


正当性を訴え怒鳴っていたマクディだったが、ライオネルの言葉を聞いて勢いを止めた。晶霊だと?


「俺の婚約者の名はシルヴィアだ。ハウズリーグ王と契約している水の晶霊。お前の婚約者とやらは違うんじゃないか?」

「聖王がなぜ陛下の晶霊と…?」

「その疑問は最もだが話すと長くなる。それより俺の質問に答えろ。お前の婚約者は誰だ?」


怪訝な顔をするマクディの質問は流して、再度ライオネルは尋ねた。


「婚約者は…シルフィーヌ=サンドリア侯爵令嬢だ。金髪の美しい女性だ」

「そんな女は知らない。会ったこともない女を奪えなどしないだろう」


マクディの口から出た名に本気で覚えがないライオネルは当たり前に否定した。


「いや、婚約者がいながら私の女にも手を出したのではないか!?そうだろう聖王!」

「お前と一緒にするなドラ息子。この国でそんなことをすれば神聖力が消える。俺の雷撃で無実を証明してやろうか?」


手のひらでバチバチと小さな雷を作りながらライオネルはマクディを睨みつけた。あからさまに怯んだ顔を見せつつもマクディはなおも食い下がる。


「し、しかし、彼女は貴様にかつて純潔を捧げたとまで言っていた…!」

「だから身に覚えがないって言ってるだろう」

「そうだ!聖王猊下はまだ清い身だ!」

「黙れバース!!」


マクディの言葉に冷静に反論を返したライオネルだったが、すかさず口を挟んできたバースに怒鳴り返した。


「婚約前なら神聖力も無くならないのではないか?若い頃の事なら女神もとやかくいわなかろう!」

「それはそうかもしれないが…若い頃?何年前の話だ?」


現在17歳のライオネルの若い頃とはいつなのか。単純に疑問に感じて彼は尋ねた。


「彼女が15の時だから、8年前だ!」

「いや無理だろ!8年前の俺は9歳だぞ!?」

「ライ…俺が知らない間にそんなヤンチャをしてたのか」


マクディが堂々と言った言葉には無茶がある。わかっていながらバースは真顔でライオネルの肩を叩いた。そして万一にも事実ならヤンチャは女性の方である。


「きゅっ…9歳?」

「誰か他の男と間違えてないか?」

「そうだ。当時のこいつはカブトムシの交尾を見ても純粋に戦っているんだとしか思っていなかったぞ」

「バース!いちいちうるせえ!」


ライオネルの年齢を知らなかったらしく、マクディが驚愕の表情を見せた。おそらく人違いか、もしくは騙されている可能性が高い。


「そんな…たしかに彼女は言っていたのに…」

「少しよろしいですか?」

「ワズ、何かわかるのか?」


一連の話を聞いていたワズがライオネルに話しかける。何やら気づくことがあったらしい。


「シルフィーヌ=サンドリア侯爵令嬢、23歳。先日ハウズリーグ王から送られて来た釣書の中にいらっしゃいました。猊下のお相手にしては少し年齢が高いなと思い記憶に残っております」

「そうだ!最近ようやく婚約が整ったというのに、神聖国に嫁ぐからと急に破談になったのだ!それもこれも8年前の初恋が実るからだとか彼女は言っていたのだぞ??」

「はぁぁ?」


もうこの男の言っていることはめちゃくちゃで意味がわからない。妄言にしか聞こえなかった。


「他の捕虜に話を聞こう。…こいつの晶霊はいないのか?」

「晶霊術を封じて術者とは別の牢に入れております。ここへ連行致しましょうか?」

「契約者に近づけない方が…いや、まぁ平気か。連れて来てくれ」


晶霊は勿論、契約者であるマクディにも術封じの手枷はしてある。なんならどちらかを人質にして情報を引き出すか…そう思ったライオネルだったが、連れて来られた晶霊が放つ第一声にその考えは破られた。


「契約を解除したい」


契約者であるマクディに会うなり、晶霊はそう宣言するのであった。


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