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祝宴

先王の仇を討った祝いのために、大聖堂で行われる儀式とは別に城での戦勝会が開かれた。今回の件の功労者ということで、シルヴィアも招かれたのだが…。


「煌びやか〜…」

「ハウズリーグではこういった催しはしないのか?」


あれよあれよとの間に城の使用人たちにドレスを着せられ、化粧も施されて会場に放られたシルヴィア。横にはバースがついていた。


「そりゃあるけど…晶霊はあまり参加しないから。ご飯とか食べるわけじゃないし」


豪華な料理があったところでなんら魅力はない。それに晶霊を連れていると、いかにも警戒心剥き出しという風にも捉えられてしまう。


「むしろ自分の契約者たちがパーティに出席してる時、城で逢引きしてる晶霊の方が多かったかも」

「お前もか?」


パーティ中に参加している契約者を待っている間に、庭園などで晶霊同士ひとときの火遊びをすることが多かった。つまりナンパも多かった訳だが…。


「そういう日は大抵ヒュー兄たちが一緒だったから何も。あとはパーティの隙に寝所に潜り込む不審者がいないか見張るよう言われることも多かったし」

「なるほどな。…と」

「ちょっとあなた!ライオネル様の婚約者なのではなくて!?」


シルヴィアがバースとたわいない話をしていると、そこへ彼の妹ミアンナがやってきた。最近はよく話すようになって気づいたのだが、怒ったような口調は標準仕様らしい。


「えー、でもこの前は認めないって…」

「それはそうですけど!あちらで物凄い数の令嬢に絡まれてるのをご存じないのかと言っているのですわ!」


ミアンナの言う方を見ると、確かにドレスの大群に囲まれているライオネルらしき人物が見えた。それを追い払えと言いたげだ。なぜそんな面倒なことを。


「うん?…何か問題が?あ、ライの護衛をせずにバースがここにいること?」

「それもそうですわ…って、あなたお兄様にも気安いですわね!?愛称で呼んでらっしゃるの!?」

「え、バースって愛称だったの??」


何を騒いでいるのか分からずシルヴィアが尋ねると、ミアンナはさらに騒ぎ出した。しかもバースが愛称だったなんて知らない。本名など気にしたことすらなかった。これからも気にしないだろうが。


「晶霊相手にごちゃごちゃ言っても仕方ないだろう。あまり騒ぐなミアンナ」

「そうやって甘やかすからつけ上がるのですわ!大体お兄様は…!」


この兄妹で言い争うと長くなるんだよなぁ…と思ったシルヴィアはこっそりその場を離れることにした。


気づかれぬようにすすすと逃げ出し、テラスにまでやって来た。そして心地よい夜風にあたりながらふと気づく。


(あれ?今これ逃げれるんじゃない?)


見張りの兵はいるだろうけれど、今なら油断しているかも。その隙に…とまで考えたが、ライオネルの顔が頭に浮かび躊躇う。さすがにこのタイミングで消えるのは気が引けるな、と。しかも運良く逃げれたとて、夜は危険だ。魔物ならともかく、夜盗や獣が現れたらシルヴィアには勝てないだろう。そもそもこのパーティに参加する手前、また晶霊術封じの腕輪をつけさせられている。残念、諦めるかと思った時…。


「美しい方、お一人ですか?」


急に声をかけられたシルヴィアが振り向くと、そこには見知らぬ若い男がいた。服装からしてどこぞの貴族の息子か。


「おぉ女神様のようにお美しい…。良ければ私とお話しませんか?」

「しませんね」


ずいずいと近づいてくるのでキッパリと断ったが、この手の輩はしつこい。というか耳を見て晶霊だと気づかないのだろうか?


「つれないお方だ。だがそこがいい。艶やかな銀の髪、なめらかで白い肌、潤んだ紫の瞳、蠱惑的な赤い唇…どれも美しい…」

「ひ、ひえええ」


気持ちの悪い言い回しに、これは変態だとシルヴィアが気づき逃げようとするも腕を捕まれる。


「さあ、わたしと愛を語らいましょう…」

「い、いやあっ!ライーっ!!」


迫り来る男に恐怖して叫ぶシルヴィア。あわやというところで男の頭が後ろから捕まれる。


「彼女は俺の婚約者だ。不埒な真似をするなら相手になろう」

「ライ!」


掴んだその男をシルヴィアから引き離して、べしっ!と床に叩きつけたライオネル。その表情はいつも以上に怒りを見せている。


「せ、聖王猊下…!」

「俺の雷撃をくらいたいか?それとも女神の裁きを受けたいのか?」

「も、申し訳ありませんでしたー!」


一目散に男は逃げ出し、ライオネルは呆れたようにその背を見送った。


「ちっ…。シルヴィア大丈夫か?変なことされてな…いぅえ??」


ぎゅう!とライオネルに抱きつくシルヴィア。その姿に驚き思わずまた彼から奇声が出た。


「お、おい、なんだ?また魔術でもかけられたのか??」

「違う。…ちょっと、びっくりしただけ」


男に襲われかけたことはもちろん驚いたが、それ以上に何故かとっさにライオネルに助けを求めたことにシルヴィアは自分でびっくりしたのだ。なぜご主人様ではなく彼を、と。


「怖かったのか?…悪かったな1人にして」


ライオネルがそんな彼女の内心に気づくわけもなく、単純に襲われかけたことにショックを受けたと思って謝罪をしている。


「今のやつ、骨の一本でも折っとけば良かったか」

「別に…。ライが近くにいたから」


そうだ、ただ近くにいただけ。遠く離されたご主人様よりも、たまたま近くにいたから呼んでしまっただけだ。シルヴィアは自分でそう納得した。


「バースはどうした?こういうことがないように護衛をさせたはずだが…」

「兄妹喧嘩始めたから置いてきた。で、その隙にここから逃げれないかなって考えてた」


自分の護衛?見張りではなく?シルヴィアは疑問に思ったが、それよりなんだか微妙に遠慮がちな空気が嫌でライオネルからするりと離れつつ冗談めかして言ってみた。


「お前…逃げる気だったのかよ??」

「ふふっ…冗談」


ライオネルの予想通りの反応に満足したようにシルヴィアは微笑んだ。その笑顔にライオネルはドキッとした。


「笑えない冗談やめろ…。それより、そのドレス…」

「あ、うん。なんか着せられた。逃げにくくするためかな?」

「いや違うだろ!じゃなくて、その色…」


翡翠色のドレスにベージュの髪飾り。それはライオネルの瞳と髪色だった。それははたからみればまるで自分の執着心を表す男のようではないか。


「お、俺が指定した訳じゃないぞ??着飾ってやってくれと言ったらそうなっただけで…」

「うん?…似合う?」


そう言ってシルヴィアはくるりと一回転してみせた。夜空にきらめくドレス姿とはにかんだ笑顔。すでに彼女を憎からず思っている思春期猊下はもはやイチコロである。


「似合う…」

「あれ、珍しく普通に褒めてくれるんだね?ライもかっこいいよ、今日はあんまり山賊っぽくないし」


なんだか様子のおかしいライオネルに首を傾げたが、次にはイタズラっぽく笑いながらシルヴィアは正装姿の彼を褒めた。山賊じゃねえとライオネルが言うのも予想通りで、なんだかおかしくて彼女はまた笑う。


「…ライ、ありがとね。色々気を使って助けてくれて」

「いや変態に襲われてたら助けるのは当たり前だ」

「それもなんだけど、他にも色々。魔術にかかった時のこととか…」

「あ、あー…れか…」


シルヴィアに言われて色々、それこそ色々と思い出したライオネルは、思わず顔を赤くした。極力考えないようにしていたのに思い出させないで欲しいところだ。

しかし、ふとずっと気になっていたことを聞くのは今かと口を開く。


「…お前、ハウズリーグ王のことが好きなのか?」


関係は契約者と晶霊だと言う。しかし、そこにあるシルヴィアの感情がライオネルには何より気になっていたのだった。


「私は…」


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