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結果として

結果として、今回の弔い合戦はドルマルク神聖国の完全勝利となった。仇であるマーズリー=ブロア子爵は自白させた後首を落とした。放って置いても魔術が使えない状態では今にも老衰で死にそうだったが。

魔術諸侯連合国、通称魔術国は前代表者が亡くなってからずっと纏まりのない国なのでブロア領での出来事に特に他の諸侯が絡んでくることはなかった。町人が望んでいることもあり、そのまま領地を神聖国が占有すると宣言しても不気味な程文句は出なかった。

そして肝心の先王の件である。マーズリーが自白した内容によれば、本来は魅了の魔術を使って先王を傀儡にするつもりだったらしい。しかし女神が先王にまさかの即死級神罰を下してしまったため思惑が外れてしまった。ならばと次の聖王であるライオネルに目をつけたが、少年ゆえの潔癖さで目を合わせることすら拒絶された。じわじわ落とせば良いかと思ったが王太后にその企みがばれそうになったため、腹いせも含めてその身体を蝕む魔術をかけて逃亡。捨て駒として侍女を残してあとは国へ帰り沈黙を保っていた。


「…あまりにも情けない話だ」

「ライが魅了されなかったのだけが救いだな」

「ライに意気地がなくて良かったね」


城に帰ってきた後しばらく落ち込んでいた2人にシルヴィアが冗談めかして言うと、ライオネルはすかさず反論をした。


「だから意気地がないわけじゃねえ!それに相手くらいちゃんと選ぶんだよ!」

「確かに魔術師やらハウズリーグ王の晶霊やら、手を出してはいけない相手にばかり狙われているような…」

「別に私は狙ってない」


ライオネルの言葉に留守番をしていたワズが頭を抱えたが、シルヴィアとしては語弊があると言いたいところだ。


「とにかく仇は無事に討てたことだし、あと2日後には戦勝会だ。お前も来いシルヴィア」

「え、私?でも私はハウズリーグの晶霊だし…」


ライオネルの言葉に驚くシルヴィア。そんな彼女に今更だろと笑う。


「今回の1番の功労者はお前だ。そのお前を部屋に閉じ込めておけるわけないだろ。安心しろ、誰にも文句は言わせない」

「あ、じゃあそろそろ帰らせてくれると1番嬉しい…」

「それとこれとは話が違う!」


あいも変わらず帰ろうとするシルヴィアをいつものようにライオネルは止める。


「ライ、大事なことは言わないと伝わらないぞ」

「何の話だよ?」


バースはそっと耳打ちするが、ライオネルは何を言われているか分からずに顔を顰めた。お前が気づかないならそれでもいいがな、とバースは付け加える。そんな2人の様子は気にせずシルヴィアは帰りたいのにぃと膨れていた。


「まあいいや。戦勝会には少し興味あるし、せっかくなら行ってみたいかな」

「そういや晶霊は酒も飲まないのか?」


気を取り直して戦勝会に興味を示すシルヴィアに、ふとバースは気になって聞いてみた。


「それは晶霊による。好んで飲むひともいるし、私は…お酒は興味ないかなぁ。っていうか女神様的には飲酒オッケーなの?」

「別に女神はそこまで制限はしないさ。ライは飲めないけどな」


バースの言葉にシルヴィアはなんで?とライオネルを振り向いた。


「ライはまだ17だからな。この国で酒が飲めるのは18からだ」

「…うるせえ、余計なこと言うな」


子供扱いされていることに苛立ちを見せながら小さく文句を言うライオネル。


「あれ?バースは何歳なの?」

「俺は21だ。酒くらい飲める」


バースの答えにふうん、と相槌をうちながらシルヴィアは考えた。そういえば自分はそもそも酒を飲んでいい歳なのかもわからないなと。


「…飲み食い出来なければあまり楽しくはないか?」

「え、ううん。むしろ人がいっぱいいることこそが晶霊的には食べ物いっぱいってことだし。味を想像するのも楽しいよ」

「食べるなよ??」

「絶対にやめてくださいよ??本当にですよ!?」


晶霊ジョークを行ってみたが神聖国の人間には伝わらなかったらしく、ライオネルはおろかワズにまで真剣に止められてしまった。晶霊的には鉄板ネタだったのだが。


「冗談。契約者がいる晶霊はそんなはしたないことしない。強制的には取れないし、主の精気が1番だから契約してるわけだし」

「ライに貰うのははしたなくないのか?」

「捕虜にくれるご飯支給でしょ?ならセーフかな」


正直線引きがよく分からないが、晶霊との感覚の差ということでバースは追求をやめた。が、なぜかライオネルが不機嫌そうな顔をしている。


「…お前は捕虜じゃなくて俺の婚約者だ」

「ライオネル様?」


何故か苛立ちを見せながらも静かに告げるライオネルにワズは怪訝な顔を見せるが、バースがそっと止める。


「お前は最初と変わらず今も帰るつもりでいるのか?」

「え、それは当たり前。そのチャンスさえあればきっと私は駆け出す」


今1人で飛び出しても捕まるかのたれ死ぬかすることはわかっているし、居心地が悪くないから無理には逃げ出さないだけで。帰れる算段さえつけば、きっと走って逃げる。


「でも神聖力の件は申し訳ないとは思うから…なんとか解決できるといいとは思うけど…。今まで婚約者を変更した人とかはいないの?」


そう言いながらシルヴィアはワズを振り返った。ワズは2人の様子に微妙な顔をしながら答える。


「いるにはいますが…殆どの方はあまり良い結果にはなりません。問題なく変更できたのは死別などの特殊なケースが多いと言いますか…」

「し、始末されちゃう!?」


死別と聞いてシルヴィアがビクッとする。


「それこそ先王の二の舞だろが…。女神が認めるわけがない」

「でも、ライが手を下さなくても戦いのどさくさに紛れて他の誰かが始末しようとかは…」

「そんなのは俺が止める。誰であろうと切り捨ててでもお前を守る」


実際その心配があるから魔術国への進軍中、ずっとそばに置いておいたのだ。誰にもそんな真似をさせる気はライオネルには毛頭なかった。


「わお、ライ格好いいね。思わず抱きつきたくなっちゃった」

「…やめろ。シャレになんねえんだよ」


ふざけた様子のシルヴィアに、なんだか疲れている様子のライオネル。またなんだか以前と雰囲気の変わった2人に、今度は何があったんだとワズはバースに目で問いかけた。城で留守番をしていたワズにはこの数日に何があったかわからなかったからだ。

しかしバースはしばし考えた後、一言ですませた。


「…ライを見れば大体分かるだろ」

「…分かり、たくはないんだが、立場的に…」


どんどん問題が取り返しがつかなくなっていくと、頭を抱えながら聖王秘書官ワズはぼやくのだった。



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