晶霊と契約者
シルヴィアが偉そうな服を着た男に連れて行かれた先は、白亜の王宮だった。
「お帰りなさいませ、ライオネル様。ご無事で何よりです」
「おう、つまんねー相手だったぜ」
出迎えた20代後半から30代くらいの秘書官に答えるライオネル。先程までいたのは戦場だ。彼はある小競り合いに勝利して帰ってきたのだった。
「それでその…それは…?」
「あー…、捕虜っつーか戦利品っつーか…」
秘書官の質問に、ライオネルは口籠る。しかし、その後ろにいた男がばっさり答える。
「戦場でライがプロポーズした女だ」
「はぁ!??」
「バース!おっ前…!!」
ざわっ…!
王宮内で騒めきが起こる。
「くそっ…!とりあえず部屋行くぞ!2人ともついてこい!」
そう言いながらライオネルはシルヴィアを担いだまま部屋へと向かった。
――
「うー…気持ち悪い」
「なんか静かだなと思ったら馬酔いかよ!ほら、水飲め」
「…できれば精気の方が…」
「さっきも取ったろ!」
ソファに座らされたシルヴィアは、ライオネルによって手に晶霊術封じの腕輪をつけられている。
「…で、ここまでの話をまとめると、ライオネル様はこの少女に手を差し出しキスをしたんですね?」
「あぁ、そうだ」
「したんじゃねぇ!されたんだよ!」
秘書官の質問に、大柄な男は真顔でうなづく。それを怒りながら訂正するライオネル。
「キスじゃなくて吸精。私は晶霊族だから…」
「ハウズリーグ国の契約晶霊ですか?今日の大将はソーントン伯爵でしたよね?」
この世界には魔術と神聖術と晶霊術がある。
魔術は自身の体内にある魔力を使って放つエネルギーで、術者本人の力を使う。
神聖術は神に祈りを捧げることで放つエネルギーで、神の力を使うと言われている。
そして晶霊術。晶霊と呼ばれる者たちと契約する事で放つことの出来るエネルギーで、使うのは晶霊の力だ。そして契約の対価には精気とよばれる己のエネルギーを晶霊に分け与える。
そして遥か昔にその3つの力をそれぞれに扱う国に分かれて敵対し、長きにわたる戦を現在も繰り返し続けていた。
晶霊術を使うのはハウズリーグ国。今日は国境でイチャモンをつけてきたソーントン伯爵を軽く撃退してきたのだが…。
「私の契約者はソーントン伯爵なんかじゃない。ちょっと…嫌がらせをされて、気づいたら今日の戦いに巻き込まれてただけ…です」
晶霊は見た目はほぼ人間と変わらない者が多い。シルヴィアも色白で耳が尖っているだけで、他はほぼ変わらない。食事は吸精が主だが、契約していない晶霊はその辺の人間や動植物の精気をもらってぎりぎり命を繋ぐことはできる。
「嫌がらせで戦いに巻き込まれるってなんだそりゃ。晶霊の力は契約者にしか使えないだろ?」
「私本人も少しは使えるからそれで組み込まれたのかなって…。水の晶霊なので、飲み水を出したり簡単な治療とかはできる…ます」
「飲み水は大事だな」
シルヴィアの言葉に大柄な男はうなづく。
「飲み水のために小競り合いに組み込まれるって…。で、お前の契約者は誰なんだよ?まず契約紋見せろよ」
「えっ」
ライオネルの言葉に動揺するシルヴィア。契約紋とは、その名の通り契約を締結させた時に契約者が触れることにより刻まれる紋だ。大抵は適当に手などに刻まれる。けれど見たところシルヴィアの手にはそれが無い。
「なんだよ、誰かと契約してんだろ?ご主人様は言えないような奴か?」
「女性に申し訳ありませんが、これは尋問でもあるので正直に答えてもらいますよ」
2人の勢いに押され、シルヴィアはうぅ…と唸りながらも自身のスカートを捲った。
「んなっ…!?」
「は、え!?ちょっと!?」
「紋は…ここです」
いきなりの露出に戸惑うライオネルと秘書官。大柄な男はスンとして見ている。そしてシルヴィアの左内腿に刻まれている紋は、たとえ薄目でも見間違えることはない。
「晶霊王の花…」
「ハウズリーグの国旗じゃねぇか!!」
「つまり、契約者は王族」
3人は敵対国家の国旗そのもののような紋を見つめる。そしてその紋を大きく刻めるのは現在ただ1人。
「ハウズリーグ国王の晶霊かよ!?」
ライオネルが叫ぶと、シルヴィアは観念したように頷いた。