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女神に勝利を

馬を近くに止めて町の前まで来てみると、報告通り町は轟々と燃えていた。町人たちは消火にあたったり逃げ惑ったりで皆混乱状態だった。

そんな中、ライオネルたちの姿を見た1人が叫んだ。


「聖王軍だ…!俺たちの町をこんなにした聖王軍がまた来たぞー!」

「はぁ?またって何…」

「ライ!」


ビュンッ!!と投げつけられた石をバースが神聖術で弾く。


「この人でなし!」

「何をする!」

「…おい、何があった?なんでこんな火事が起きている?」


石を投げつけてきた町人をすかさず兵の1人が押さえた。そのままライオネルが町の惨状を尋ねる。


「しらばっくれるな!お前らが火をつけて行ったんだろうが!」

「そうだそうだ!」

「何が宣戦布告だ!蛮族どもめ!」


どうやら町人たちの話を聞くと、聖王軍を名乗る者たちが宣戦布告と称して町に火をつけて行ったらしい。そしてそのまま去って行ったとのことだが…。


「それは偽物だ!俺はそんなこと命じていない!」

「嘘だ!この狂信徒どもめ!」

「お前ら以外の誰がなんのためにそんなことするって言うんだ!」


こちらが否定しようとも話にならない。完全に頭に血が上っているようだ。町人たちのその様子にライオネルはため息をつくとこう言った。


「…信じる信じないは後でいい。とにかくまずは火を消すのが先決だろ」

「そう言って町を襲うつもりだろう!」

「俺たちの町は俺たちで守る!」


わああっ!と町人たちが声をあげて一斉に襲いかかってくる。


「くそっ…!お前ら!防御に徹しろ!民への攻撃はするな!」


町人たちの攻撃を神聖術で防ぎながらライオネルが指示を下す。


「承知した…!だがライ!やたら数が多いぞ!」

「わかってる!多分こいつらのこれは精神感応系の魔術もかけられてんだろ…!それを解きたいんだが…」


防御に神聖術を使ってしまっているため、魔術解除に使う余裕がない。シルヴィアも守るため剣では町人たちが怪我しないようには塞ぎきれない。と、そうして防戦しているうちに…。


「後ろからも来たぞ!聖王軍だ!」

「きゃあああ!」

「は?何を…」


ザシュッ…!と聖騎士の服を着た者たちが町人たちをその後ろから切り付けていく。


「ちょっ…!誰だてめーらは!バース!背後は任せた!」


慌ててライオネルが町の中からやってきた聖騎士の服を着た者たちと町人の間に飛び入り、ガードした。


「猊下のご指示通りですよ」

「そんな指示はしていない!お前らなど顔も知らない!これは魔術師の罠か!」


ニヤニヤと笑いながら言う聖騎士もどきに、ライオネルは怒りながら剣で斬りつける。


「うわぁっ!」

「なんだ!?仲間割れか!?」

「なんでも構わない!聖王軍は全員殺せ!!」


町人は聖騎士の服を着た者全てに飛びかかり、偽聖騎士は手当たり次第に切り掛かるというもはや喧々轟々の地獄絵図である。本物の聖王軍も炎の中敵味方が入り混じっていて混乱してしまっている。


「くそっ…!」

「敵味方、区別付きにくいぞこれは…!」

「じゃあつければいい。偽者は多分魔術国の人間でしょ?」


神聖術でガードしてくれているバースの言葉に、シルヴィアは答えた。


「それができれば…」

「バースがこの前教えてくれた。神聖国の人間なら子供でも歌えるって」


そう言うとシルヴィアは一歩前へと踏み出し、声高らかに歌い出す。天へ手を伸ばし、浄化の雨を降らせながら。


「祈りは天へ、恵みは大地へ、光の雫が降り注ぎ我らの道を照らすだろう」

「これは…!」

「聖歌だ…!」


キラキラと浄化の雨を降らせながら歌うシルヴィアはまさに歌詞通りだ。


「お前ら続け!」

「「ああ愛の女神エスメラリア、その恵みは等しく大地を潤すだろう」」


ライオネルの号令で、聖騎士たちは一斉に歌い出す。その勢いに怯んだものこそが偽物たちだと誰もがわかる。ついでに浄化の雨が精神感応系魔術に効いたのか、町人たちの動きも止まった。


「偽者は全てたたっ斬れ!」

「「ああ愛の女神エスメラリア、その慈愛は等しく我らを導くだろう」」


歌いながら聖王軍たちは一気に町を鎮圧したのだった。


――



「よく覚えていたな、聖歌なんて」


浄化の雨で濡れているシルヴィアに頭から自身のマントを掛けながらライオネルが尋ねた。ちなみに彼のマントは神聖術でガードしていたため今回は濡れずに無事だった。


「窓開けてたらしょっちゅう部屋まで聞こえてたから…。それより…けしかけておいてなんだけど、まさに狂信徒っぽくて途中から怖かった…」

「おい!」


町の人たちも同意見なのか遠巻きに震えている。浄化の雨ですっかり目が覚めたらしい。ちなみに町の火はシルヴィアの晶霊術と聖騎士たちの神聖術でほぼおさまっている。


「で。町に火を放ちお前らを襲ったのは領主の私兵で、主犯は魔術師であるブロア領主だってことで納得したか?」


ライオネルが町人に振り返りながら尋ねると、びくりと皆怯えた。

先程偽者の1人を捕らえて尋問し、町人たちの前で自白させたのだ。曰く、混乱の内に聖王を始末するつもりだったと。


「ライ、みんな狂信徒に怯えてる。怖がらせちゃダメ。…あとご飯欲しい。力使いすぎた…」

「おおう…」


血色悪くガクガクブルブルしているシルヴィアに、さすがにそれを見て後にしろとはライオネルも言えはしない。仕方ないなと立ってもいられない彼女を、被せたマントごと抱き上げる。


「わかったよ…」

「…んっ…」


ざわっ…!!


急に見せつけられた聖王のキスシーンに、町人たちは騒めく。え、なんで今いきなり??いや、あの聖布を被った女性の姿は…!


「め、女神様…?」

「女神様だ…!」


魔術国の人間でも女神の姿は絵画などでなんとなく見たことがある。聖布を被った銀髪の女性。半端な知識だからこそまさに今のシルヴィアがそう見えたのだ。

そしてすかさず横からバースが叫ぶ。


「そうだ!彼女は女神の導きにより聖王の元に現れた!先ほどの聖なる雨も彼女の力だ!我らが聖王は女神様の祝福を受けられているのだ!」


真顔ですぐに乗っかるバースはこういう時に強い。そして殆ど嘘は言っていない。


「おおおおお!」

「聖王猊下万歳!」

「どうかこの町を悪しき魔術師からお助けください!」


先ほどの光景からまだ興奮覚めきっていなかったのか精神感応系魔術の名残か、神など信じていなかった町人たちも一斉に騒ぎ出した。


「狂信徒が増えた…」

「うそだろ…」


当の2人は若干引き気味である。いや、ライオネルはまだしもシルヴィアに至ってはドン引きだ。


「聖王猊下!」


バースの呼び声にはっとするライオネル。ここは乗るしかないのか…と瞬時に判断し、腹を括った彼は抱き上げていたシルヴィアを降ろして跪く。


「え…」

「この聖戦に、我らの勝利を誓う」


そういうと、ライオネルはシルヴィアの手の甲に口付けた。とたんにまた歓声が上がる。今度は聖騎士たちも加わっている。


「聖王猊下は女神に勝利を誓われた!聖騎士たちよ!我らの女神に勝利を捧げるぞ!」

「「女神に勝利を!」」


バースの号令に聖王軍は声をそろえる。皆ノリノリである。シルヴィアはもはや引きすぎて無言である。


「さあ!お前たちが滅ぼすべき悪は、諸悪の根源マーズリー=ブロア子爵はどこだ!」

「はっ!ご案内致します!」

「我らの真の主のために!」


町人たちはすっかりのぼせてしまっているが、全員ついてこられても困る。正直邪魔だ。


「いや、案内はそんなにいらない。それより怪我人の手当や、町の安全を優先してくれ。神聖術で治療ができる兵も数名残していく」

「聖王猊下…!」

「なんと慈悲深い…!」


ライオネルの言葉に敬愛の眼差しで返す町人たちに、シルヴィアはどこまでも引きながら思った。あ、これ今すぐにも入信するなこいつら…と。


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