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愛の国の母

「よく来てくれたわね、ライ。いえ、もう立派な聖王猊下ね」

「王太后陛下…」


部屋で出迎えてくれたのは彼の母、ハイデマリー王太后だ。まだ落ちた体力は戻り切ってはいないためベッドの上だが、神聖術による治療でだいぶ良くなってはきている。ライオネルと違ってさすが落ち着いた雰囲気の女性だ。


「公式の場ではなく、完全なプライベートよ。息子として接するわ。あなたも、母として話してちょうだい」

「…わかった」


微笑みながらいう姿に、ライオネルは頷いた。そして意を決したように母親に向かって頭を下げる。


「…ごめん、俺がもっと母上を信じていたらこんなに長い間苦しめたりは…!」

「あらいいのよ。嫁いびりしてたのは本当だもの」

「は?」


息子の決死の謝罪に母はあっけらかんと告げる。何を言われたかわからないライオネルはきょとんとしながら顔を上げた。


「だってあの子気が強くて全然言うこと聞かないんだもん。腹たっちゃって!王宮内で噂になるくらいバトルしてたわー」

「え」

「あ、でも殺したいとまでは思ってはなかったのよ?さすがに。でもあの子達夫婦の邪魔をしたのは確かだし、女神様のお怒りに触れたって言われても私ですら納得するわー」


笑いながらいう姿にどうすればいいか分からず反応ができず目を瞬かせるライオネル。シルヴィアは聞いてはいるのだろうが話がよく分からず無反応だ。


「本当に…今となってはお詫びのしようもないわ」


王太后は目を伏せながら後悔の念を告げる。そのまま深くため息をついたかと思うと、ふっと顔を上げた。


「だから、もう懲りたから次は邪魔しないわ」

「次って…」

「その子があなたの婚約者でしょ?バースちゃんから話はいろいろ聞いたわ」


王太后はにっこり笑いながらシルヴィアを見る。ちなみにバースは王太后の甥にあたる。


「ハウズリーグのあのイケメン王から奪って来たんでしょ?情熱的よね〜」

「いや、違う!成り行きだから!」


バースのやつどんな説明をしたんだ。とライオネルは思ったが王太后はあらでも、と2人の手を指差す。


「今だって手を繋いでるじゃない」

「え!?いやこれは…」

「それに私を助けてくれたのはその子よね?その時夢じゃなければ濃厚なキスしてたような…」

「夢!夢だから!」


言われてライオネルは慌てて繋いだままだった手を離したが、問題はそれだけではなかったようだ。吸精の現場を見られていたのをすっかり忘れていた。


「改めて、本当にありがとうねシルヴィアさん。あなたは命の恩人だわ」

「私は大したことしてない…です。この2年ずっと頑張ってたのはライ」

「あらあらまあまあ!」


礼を言う王太后だったが、シルヴィアの言葉に目を輝かせる。


「ライ!あなた良いお嫁さん見つけたじゃない!」

「嫁じゃねえ!仮の婚約者だ!…あ」


先ほどからどんどん言葉が乱れている事に気づいたライオネルが、やべっ!と言う顔をする。


「ふふっ…話しやすい喋り方で良いわ、あなたもシルヴィアちゃんも」

「そういうわけには…」

「ライはまだ反抗期」

「違う!」


笑う王太后にライオネルは恥ずかしそうにしたが、それすらシルヴィアにすっぱりときられた。それを見た王太后が声をあげて笑う。


「うっふふ…!あーおかしい!あなたが女の子の尻に敷かれる日が来るなんて…」

「敷かれてない!」


気まずかった親子も、これならもう大丈夫そうだ。そう思い、シルヴィアは安心した。これできっとご飯の味も戻ると。


「ライ、私は先に戻ってる。あとは親子水入らずで話してて」

「え、おいシルヴィア」

「大丈夫、ちゃんと見張りの人と一緒に行くから」


急な発言に驚くライオネルにむかい、にこりと笑うシルヴィア。


「いや、別に逃げる心配はしてねぇけど…」

「ライもお母さんと話すのから逃げなかった。いい子いい子」

「だからやめろそれ!」


よしよししようとするシルヴィアだったが、顔を赤くしたライオネルにかわされた。


「くそっ…じゃあ必ず部屋に帰れよ。お前らも絶対変な気起こさずに送り届けろよ」

「はっ!」

「あとで美味しいご飯ちょうだいね」


最後の言葉にうるせー!さっさと行け!と言いながらライオネルはシルヴィアを見送った。王太后はまだ笑っている。


「ふふふ…!ほんと面白いしいい子ね。あの子なら仲良く親子になれそう!」

「いや、だから本当に結婚するわけじゃ…」

「そうね、それは無理ね」


にこにこしていた王太后だったが、急にすっとその笑顔を消して真剣な顔になる。何を言われたかもわからずライオネルは思わず聞き返す。


「え?」

「あの子はいい子よ。晶霊だってことも女神様が認めていらっしゃるならこの国では問題にはならないわ」

「母上…?」


急に変わった表情と話の流れについていけないライオネルは首を傾げる。


「問題はあの男。ハウズリーグ王、アシュレイよ。あの男が自分のお気に入りを取られたままにするわけがないわ」

「べつにアレが奴のお気に入りだなんて訳…」


息子のいう言葉に母は鼻で笑うように言う。


「見て分からないの?ならあなたはやはりまだ子供ね。愛で負けるのなら仕方がないわね」

「はぁ!?一体何を…そもそも別に好きとかじゃ…」


お気に入り?ハウズリーグのスカしたあの国王が晶霊を特別に扱っていると?シルヴィアの話ぶりではそんなことは感じられなかったが…。いや、それ以前にそもそもいつの間にか自分がシルヴィアを好きだという前提の話になっていないか??とライオネルは考え抗議しようとしたが…。


「認めないならそれでもいいですけれどね。ライ。必ずあの男は取り返しに来るわ。そうしたら今のあなたなんてけちょんけちょんよ」

「けちょんけちょんって!」

「それが嫌なら守りなさい」


キッ!と王太后はライオネルを見つめた。


「自分の婚約者を、好きな女の子を手離さないように。他の男を見ているようなら自分に振り向かせるのよ。あなたの愛を見せつけてやりなさい!」


愛の国の国母は、己の息子たる聖王にお前の愛を見せろと説いてきた。その剣幕にライオネルは思わず頷くことしか出来なかったのだった。


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