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美味しいご飯のために

結局、2年前の事件は魔術師による罠で間違いなかった。先王を魅了した女性は事件のゴタゴタのうちにいなくなってしまっていて行方知れずだった。ライオネルも急な即位や前王妃の実家への王家からの賠償、そして他国との戦いに明け暮れるうちに、その女性のことなど頭から消えてしまっていた。そもそも当時15だった彼自身はほぼ面識はなかった。概ね怖くなって逃げたんだろうというのが他の者たちとの共通認識だった。

しかし、彼女が魔術師だったのならば先王の仇をむざむざと野放しにしていることになる。


「ライが捕らえた侍女がはいた。女は今、魔術国の女子爵としてのさばっているらしい。侍女は定期的に魔術を補強するだけの捨て駒だ」


王太后の部屋のドアノブにかけられていたのは認識阻害魔法。ベッドの四隅の宝石にかけられていたのと同じで、魔術反応を隠すためのものだ。しかしそれもわかりにくいが魔術ではあるので、わかるものにはわかる。

そしてその阻害魔法によって、王太后はずっと女神の呪いを受けていると思わされていたのだ。


「というか、お前ら一体何をしたんだ?王太后様の部屋にいた者たちは皆口々に愛の奇跡だ祝福だと言って要領を得ないんだが」

「それは…」


バースの疑問も最もである。しかしシルヴィアはもちろん、ライオネルにもあの瞬間何が起きたかはっきりとは分からないのだ。女神の祝福を受けたとしか言いようがない。


「いきなり光が城中を照らしてましたよね。あれが女神の祝福ですか?」

「2人の愛が天に届いたということか」

「その言い方はやめろ…」


感心したようなワズの言葉に、からかうように被せてくるバース。しかしそれにライオネルは珍しく弱々しくしか突っ込めなかった。


「ライはあれからこの調子で若干おかしい。シルヴィア、お前は何か分からないのか?」

「分からない。なんか一瞬意識がなくなってたような気はするけど…」


バースにそう聞かれてもシルヴィアには実際よく分からなかった。女神が降臨しただのなんだの噂をされているが、なんのことだかさっぱりだ。

そんな奇跡だとか祝福だとかの不確かなことより彼女が気になるのは…。


「それよりライ、お母さんと話はしたの?」


あの後、再び眠った王太后を医師(回復特化の神聖術士)に預けて部屋を出た。そしてそのまま事件の捜査に加わりなんだかんだですでに3日が経っていた。

今はシルヴィアの部屋で彼女の食事がてら事の顛末を話していたのだが…。


「…会わせる顔がねぇ。実の息子の俺が1番無実を信じてやるべきだったのに、噂を鵜呑みにして」

「ライ、反抗期」

「ちげぇよ!」


女神の呪いだなんて言葉を信じずに、もっと早く疑ってしっかりとした捜査をしていればこんなに長く苦しめることはなかった。そう思うと、どんな顔して会いに行けば良いのか彼には分からない。


「近日中に魔術国へ行く。今更間抜けではあるが、先王の弔い合戦だ。王太后には仇の首を持って詫びに行くことにする」

「ライ、言い訳良くない」


グッ!と拳を握って決意の顔をしたライオネルをばっさりと切るシルヴィア。それは単に先送りにしているだけだと。


「言い訳じゃ…」

「要はこれから戦争に行くってことでしょ?なら死ぬ可能性はある。だったらなおさらお母さんに会って話をしておくべき。生きて帰れる保証なんてないんだから」


キッパリと正論を向けるシルヴィアは、いつものぽやぽや感はなく、真剣な顔をしていた。


「俺は死なねぇ!」

「ライ不死身なの?違うでしょ?ライのお父さんもお兄さんたちも死んだ。人の子は簡単に死ぬの。だから解くべきわだかまりなら早く解いたほうがいい。大事な人なら尚更」

「ぐっ…」


ずいっと迫り、ライオネルの目を見て言うシルヴィア。何故かその真剣な目を逸らすことができない。


「わ、わかったよ…。戦に行く前にそのうち…」

「今」

「いや、これからすぐはさすがに予定が…」

「だめ。今。ワズ、ライのこの後の予定少し延ばせる?」


キッとした顔で横にいた聖王の秘書官であるワズに尋ねるシルヴィア。


「え、はい。そういう事情なら勿論絶対なんとかします」

「てめぇ、ワズ!」

「はいこれで予定はなくなった。後は?」


ずいずいとライオネルを追い詰めるシルヴィア。


「母親とはいえ王太后だ。まずは先ぶれを出してだな…」

「バース、頼んでたでしょ?」

「ああ。いつでも会いに来てほしいとのお言葉をもらっている」

「はぁ!?お前らいつの間に…!」

「退路は塞いだ。あとはそれが罠でも進むしかなくなったでしょ?ライ」


にこりと微笑むシルヴィアは、彼女のご主人様に少し似ていた。


「わかったよ…」

「うん、いい子!」


そのままぐいっとライオネルの手を引くシルヴィア。


「は?なんだよ?」

「逃げるかも知れないから。一緒に行ってあげる」

「はあ!?」


むしろ逃げるのなら捕虜であるお前だろうと思いながらも、珍しく強引な彼女に渋々と連れられていく聖王猊下だった。


「…ライ、尻に敷かれるタイプだったんだな」

「俺様ワイルド系ではないと妹君に訂正したらどうだ?」


そんな2人を見ながらぼんやりと呟くバースとワズなのだった。


ちなみにシルヴィアがここまで勢いづいたのは、最近落ち込み悩んでいるライオネルの味が落ちたからだということは彼女だけの内緒だ。


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