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モノマネ上手い?

「何かもっと特技とかないのか?ハウズリーグ国王が重宝するような何かは」


犬のような扱いではなく、もっと何か内政に使えるような特技とかないのかとライオネルは尋ねた。


「特技…モノマネが上手いとか?」

「それは見てみたいな」

「ああ、そうだな…ってそれは余興じゃねえか!そうじゃなくてもっと実用的な特技の話だよ!」


シルヴィアの返答に、バースが興味深げに頷くと思わずライオネルもつられそうになった。


「ライも見たいって言ったのにー」

「ああ、言ったな」

「つられただけだ!」


特技に文句をつけられてシルヴィアは不満げだ。特にご主人様のモノマネは彼の契約晶霊たちの前でやるとドッカンドッカンなのにぃと。

ワズは若者たちの会話に特に口を挟まず、後ろでやれやれといった顔をしている。


「そう言うならライは何かあるの?特技」

「ライはオルガンだのヴァイオリンだの、大概の楽器を弾ける」

「いや、それも余興に近くないか…?」


シルヴィアの質問に横からバースが答えたが、ライオネル的にはモノマネとあまり変わらないジャンル扱いらしい。


「ライ凄いね。チンピラなのに」

「だからチンピラじゃねぇんだよ!」

「そうだ。こいつは今反抗期なだけで、本来かなり育ちが良いからな」


そういう自身とて育ちが良いだろうバースの言葉に反抗期じゃねぇ!とまた怒っているライオネルだが、シルヴィアはふと育ちという言葉から考えた。


「そういえばライのお母さんっていないの?」


シルヴィアによる直球の質問である。彼女の前ではあえて今まで触れてこなかった話だ。


「それは…」

「ワズ、いい。俺が話す」


話を止めさせようとしたワズを、ライオネルが制して話を続ける。


「俺の母は現在病に伏せっている…とされている。が、本当は女神の呪いだ」

「ライオネル様!」


敵国の晶霊であるシルヴィアに、自国のそんな話をするライオネルをワズは諌めた。ライオネルの母は当然王太后にあたる。


「こいつを返す気はないから問題ないだろ。それに、隠しているとはいえ本当はみんな知ってる」

「本当?」

「…まず、兄貴が2人いるって以前言ったな?1人は病で亡くなったのは本当だが、もう1人、先王だった兄貴は違う」


珍しく怒らず静かなトーンで話すライオネル。いつもこのくらいならいいのになぁとシルヴィアはぼんやり思う。


「2年前のある日、他所の女にうつつを抜かして、浮気して神聖力を無くしたんだ。そして王妃だった女性を廃して浮気相手を本命にすれば浮気じゃなくなるとアホな事を考えて…」

「考えて?」

「王妃に、自分の妻に冤罪を押し付けて処刑した。…そして当然愛の女神の御怒りを受け、聖なる雷に打たれて死んじまったよ」


不愉快そうに告げるライオネル。シルヴィアは何やら考え込んでいる。


「王太后…俺の母もそれに加担したと言われている。王妃と仲が悪かったからな。実際兄と同じくらいの時期からどんどん弱っていって、ずっとギリギリ状態だ。すでに呪いの原因である兄貴の妻は処刑された。つまり女神の呪いを解く方法はもうない」


徐々に徐々に痩せ細り、今や意識もなくベッドの上から出られなくなってしまった。


「…だからライは成り行きであろうと婚約してしまったお前を離すわけにはいかないんだ」

「この国では聖王猊下の命令は絶対ですが、それ以上に女神様は最上のお方なのです。あなたも他言はしないで下さい」


珍しくバースも真剣な面持ちで言う。ワズも少し脅すように告げた。シルヴィアはずっと考え込んでいる。


「ま、人の口に戸はたてられないし、国民も皆知ってる暗黙の了解ってこった。どうせあのハウズリーグ王ならそのくらい知ってるだろ。…シルヴィア?」


ずっと無言で考えているシルヴィアにライオネルは尋ねた。なんだこいつ聞いてないのかと。

そしてシルヴィアはここだ!と口を開く。


『…あの国は女神様を信仰し過ぎているね。それで一枚岩になるのも良いけれど、簡単なことに気づいていない』

「「!?」」


急に別人のようにニヤリと話し出すシルヴィアに3人は驚き固まる。


『愛が行動原理なら納得してしまう。だから揶揄われるんだよ、性格の悪い魔術師たちに。つまらない魅了魔法でね。女神様も愛の試練だからとそこには救いをくれない。残酷だよね。可愛いシルヴィ、君はどう思う?』

「な…」

「ちょっ…」


今こいつとんでもないこと言ってないか?3人は今のシルヴィアの発言を頭の中で繰り返して何か言おうとするも声が出ない。


『王太后様は気づいたみたいだけど、もう遅いね。すでに魔術師が入り込んでいる。鼠はすぐに逃げるだろうけど、だからこそ他の者は気付けない。次代の若き聖王様はどうするかな?ま、1番得をしたのは彼とも言えるし、むしろ貧乏くじを引かされたとも言えるよね。なんにせよ俺には関係ないけど。…ごめんごめん、可愛いシルヴィ。君を可愛がるところだったね。ほら、おいで…』


そこまで言い切るとシルヴィアはぴたりと止まる。


「どう?モノマネ上手い?」

「いや待ってください、その前!」

「可愛いシルヴィ?」

「そこはどうでもいい!」


いつもの薄い表情に戻って話すシルヴィアにワズとバースが詰め寄る。


「おい…、今のは?まさか実際のハウズリーグ王の言葉か?」

「うん、前に言ってた。一字一句間違えてないはず。上手いでしょ?」

「確かにどこかムカつく感じがそっくりだったよ!じゃなくて!内容だ!」

「魔術師の魅了魔法と言ったか…?まさか先王は…」


魅了魔法にかけられて自身の妻を処刑したと?


「いや…でも、兄貴に落ちたのは確かに女神の雷だった。俺もこの目で見たし、この国でそれを見間違えるやつはいねぇ」

「それは試練を乗り越えなかったから、実際に女神様が与えたんじゃない?」


そもそも別々の話なのではないか。なんらかの目的で魔術師は先王に魅了の魔術をかけた。女神様はそれを見て魅了を弾く程の愛を先王に要求した。しかし彼はそれを乗り越えられなかった。結果として天罰が実際に降ったため周りの者からは結論が出てしまい、それ以上の捜査はされなかった。

ライオネルも周りもてっきり先王が恋に狂っただけだと思っていた。だが、言われてみれば魔術が絡んでいた可能性は確かにあったのだ。


信仰は人を救うけど、人を盲目にもする。愚かしいなあ…。とも言っていたなとシルヴィアは思ったが、今の真剣な男たちに言うのはさすがにやめた。


「…バース、当時の事件をもう一度捜査し直せ。ワズも、魔術師について探ってこい」


ライオネルは酷く真剣な声で命じた。


「承知した。…だがライ、お前は?」

「俺は…シルヴィアと母上のところに行く」

「え?私?」


いきなり名指しで言われてきょとんとするシルヴィア。


「この前魔術の反応を見抜いてたろ。王太后に魔術がかけられているのか見て欲しい」

「いいよ」

「お待ちください!それこそがハウズリーグの罠だったらどうするのですか!」


ライオネルの言葉にワズが反論をする。確かにその可能性もなくはない。しかし…。


「あの男はそこまで不確かでまだるっこしい罠は張らないだろ。それに、ずっと寝たきりのこの国の王太后をわざわざ殺したとしてもハウズリーグにさほどの益はない」

「うん、どっちでも良いって言ってた」


そもそもここにシルヴィアがいるのは彼も予期せぬことだ。しかも連れ戻そうとして使者まで遣わしていた。


「もちろん護衛は連れて行く。これは命令だ。お前らもやれることをやれ」

「…承知、いたしました」

「承った」


2人がそれぞれ拝命されたのを見届け、ライオネルはシルヴィアを連れて足早に向かった。眠り続けている己の母、王太后の部屋へと。


シルヴィアは歩きながら思った。モノマネはちょっとした余興のつもりだったのに、なんだか違う意味でドッカンドッカンになってしまったな…と。



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