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王の犬

ライオネルの神聖力がまた消えた。


「ライが雑に扱ってるからじゃないか?」

「はぁ?客室において毎日ご飯やってるだろ!」

「ライオネル様、犬じゃないんですから…」


ワズの言う通り、明らかに婚約者に対する扱いではない。


「だからって捕虜だぞ?どう扱えばいいんだよ」

「そもそも一日何して過ごしてるんだ?」


見張の話によると、シルヴィアは基本客室から出ない。監禁すると女神のお怒りに触れるためされてはいないが、そこにいるようにと言われて割と素直にしている。

契約者に命じられた訳ではないから逆らうこともできるのに、特にしない。たまに帰りたいと口にするも無理に脱走を試みるわけでもない。要求もご飯を要求するくらいで、婚約者ということを盾に他に何か脅してくることもない。


つまり、日がな一日ぼんやり過ごしている。


「…俺ならそんな生活発狂するな」

「ライ、お前ひどい男だな」


捕虜の扱いとしては破格だが、婚約者としては完全アウトだ。愛の女神のお怒りに触れるのも納得ではある。最近忙しかったためあまり構っていなかったのもある。


「…とりあえず、本人に何か希望があるか聞くか」


ガチャッとシルヴィアのいる客室の扉を開ける。

ソファにもベッドにもいない。ふと窓辺に目をやると、そこにいた。


「…寂しそうに窓の外を見てますね」

「完全に囚われの小鳥だな、ライ」


ワズとバースの言葉にライオネルは得も言われぬ罪悪感に駆られていく。


「…シルヴィア!」

「…あ、ライ」


ライオネルが声をかけると出窓の窓辺からトンッと降りてシルヴィアが寄ってくる。


「どうしたの?おやつ?」

「…何か欲しいものはないか?したい事とか」

「…ご飯と帰宅?」

「それ以外!」


まあ言うだろうなとは予測していたが、やはり想定内の答えだった。しかしご飯はともかく帰宅は許可できない。


「ハウズリーグではいつも何して過ごしてたんだよ?」

「いつも?えーと…他の晶霊たちとお話したり遊んだり、あとはみんな命令があればそれが最優先」

「命令って例えばなんだ?」


戦場以外で晶霊を何に使うのか単純に気になってライオネルは尋ねた。


「それは晶霊ごとに違う。得手不得手に合わせてくれる。事務仕事や戦に関わることや、飼ってる犬の管理や豚の餌の管理、あとは暇つぶしとか…」

「待て待て待て、なんで王の晶霊が豚の餌の管理をすんだよ!?」


ちょっともしかしてそれは物騒な話なのでは?


「ハウズリーグ王は敵に容赦が無いとは言いますが…」

「味方にも容赦が無さそうだな」

「悪いことした人は味方じゃない」


バースの言葉に対してすっぱり言い切るシルヴィアは飼い主にしっかり躾けられているようだ。


「…で、お前は何を命令されてたんだ?」

「…膝に乗ったりとか、待てとか、撫でられたりとか…」

「犬じゃねえか!」


結局元々の扱いも犬だったのかとライオネルは引いた。


「よし、ライ。やってやれ」

「やんねぇよ!」

「ライにされても…」


ご主人様でないと嬉しくない。言外にそう言われてそれはそれで腹が立つライオネル。


「じゃあ俺に何をされたら嬉しいんだよ!」

「ライ、お前のその偉そうな態度がダメなんじゃないか?」

「偉そうなんじゃなくて実際偉いんですよ…。でもそうですね…。婚約者と考えるとまあ…」


バースにはっきりと、ワズにすらやんわりとダメ出しをされてライオネルはぐっ!となった。


「…というか、ハウズリーグ王の膝の上にのるのが晶霊の仕事なんですか?」

「完全にハーレムだな。いつまでも妃の1人もいないのは不能なのかという説まで我が国ではあったが…」


ワズとバースは言いながらじっとシルヴィアを見つめる。見られて彼女は首を振る。


「不能じゃない。とても元気」

「…契約晶霊を部屋に入れても不思議はないですしね。後腐れのない相手としては最適…」

「ワズ、やめろ」


なぜか苛立ちながらライオネルはワズを制した。

ハーレム?いや、以前来たヒューズとかいう晶霊は女の晶霊も扱いは変わらないと言っていたような…。シルヴィアは特別と言っていた意味は結局…。とライオネルは考えていたが、ふと視線を感じて口を開く。


「なんだよシルヴィア?」

「ライは何かして欲しいことあるの?出来ることならするよ?」

「えっ」


シルヴィアにそう言われ、頬を赤くするライオネル。今の流れでは仕方ない、青少年らしい反応ではある。


「ムッツリだな」

「仕方ないですよ、毎日キスだけをやたらとさせられてるんですから…」


はっきり言ってくるバースよりも、意識するなって方が無理だというワズの憐れみの目線が痛い。


「あー、もう!お前らがいると話ができねぇ!一回部屋から出てろ!」


部屋から男2人を追い出し、シルヴィアと2人きりになる。このタイミングで追い出すと普通それはそれで誤解されるだろうということにライオネルは気づいていない。


「話しを、するぞ。座れ」

「うん」


ライオネルはソファに座ると、シルヴィアにも着席を要求した。が。


「なんで俺の上に座んだよ!!」


彼女がぽすりと座ったのは己の膝の上。


「え。だってさっきそういう話してなかった?」

「したけども!しねえって言ったろ!向かいの席とかだろ普通!ちょ!本当ふざけんな!」


平然と言うシルヴィアに色々とキャパオーバーになるライオネル。座れと言ったのになんでまた怒ってるんだこの人はと彼女は不思議そうだ。


「あ、向きが逆?」

「っ…!」


くるりとライオネルの方を向いて対面姿勢になった。


「お話する?ライは何かしたいことある?」

「…!」


目の前にあるたわわな物体に猊下は動揺を隠せない。女神が与えた試練かこれは。


「ライ、大丈夫?顔赤い」


顔を覗き込んでくるシルヴィア。この体勢でそうすると、たわわな物体が当たってくる。


「ちょっ…!離れっ…!」


ガチャリと再び扉が開く。


「命令通り一度出た。そして戻った」

「え、ど、どういう状態ですか??」


ソファの上で睦み合っているようにしか見えない2人に、再度やってきたワズは慌てる。バースはしれっとしているが。


「な?ワズ、我らが聖王のせいりょくを舐めてはいけない。…え、ちなみにそれ入ってはないよな?」

「ねぇよ!!」


半分本気でやばいか?と思いながら尋ねるバースに、ライオネルは怒りながらシルヴィアをどける。


「わ」

「…もう一度聞く。ライ、本当に俺たちは出てた方がいいか?」


ソファに近づきながら尋ねるバースに、ライオネルは彼にしては小さい声で答えた。


「…いや、そこにいてくれ」


そして俺を助けてくれ。そんな言葉が聞こえたような気がした。

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