はらぺこ晶霊
お腹すいた…だめだ、死にそう…。誰でもいい…お願い、助けて…。
国境の近くで、なぜか倒れているのは薄水がかった銀の髪をした1人の少女。
ざっ…
「なんだぁ?晶霊かぁ?ハウズリーグの子飼いかよ。ご主人様はどうした?」
柄の悪そうな茶髪の男がやってくる。あぁ、なんて美味しそう…。
「ライオネル様、危険では…!」
「へっ!よく見ろよ、こいつ枯渇状態じゃねぇか。大方ご主人様とはぐれたまま力使いすぎて死にかけてんだろ」
周りの手下らしき者たちが止めるも、ライオネルと呼ばれた少年は笑いながら近づいていく。
「お願い…助けて…」
少女は縋るように男へと懇願する。
「なんだ、マジで死にかけかよ。ちっ…仕方ねぇな」
「おい、ライまさか…」
「晶霊とはいえ女見捨てて死なれても寝覚めわりぃだろ。おら、ちょっとなら精気分けてやっから…」
横にいた大柄な男と話しながらライオネルは屈んで少女に手を差し出す。手を、差し出しただけのつもりだった。
「ありがとうございます…!」
がばっ!
「!?」
少女は手を掴んだかと思うとそのままライオネルの唇を奪い、貪り出した。
「んっ…」
「!?!?」
周りにいた者たちも固まり、呆然と見ている。
「…っは!…ふぅ、ご馳走様」
「…!…おま、おま…お前…!」
満足げに離れた少女とは裏腹に、尻餅をついたまま真っ赤な顔をして言葉も上手く出ないライオネル。
「…あ、申し遅れました。私はシルヴィアと申します。危ないところを助けていただきありがとうございました。大変美味でした。では…」
「待て!!」
丁寧にお礼だけ言って、そのまま去ろうとしたところをガシッとライオネルに捕まれるシルヴィア。
「ふっざけんなテメェ!!俺に…っ、なんってことしやがる!!」
「へ?だって…、あなたが食べていいって…」
「手ぇ出したろ!!手から取れよ!精気!そ…れをあんな…!!」
「あんな…?」
真っ赤になって怒るライオネルに、何言ってんだこいつと言う目でシルヴィアは見つめた。
「そ…の、キ…ス、しやがったろ!?」
「吸精のこと?キスなんて…そんなんじゃないのに…すけべなんです?」
「おんなじだろ!!しかも、お前!今逃げようとしたろ!」
「いえ、帰ろうと…」
「だからおんなじだろ!!」
怒り狂うライオネルに平然と答えるシルヴィア。これは埒が開かないと思ったのか、後ろにいた大柄な男から声がかかる。
「ライ、とりあえずそれ連れて引き上げないか?いつまでもここにいるのは危険だろ」
「ちっ…!行くぞ!引き上げだ!」
「「はっ!!」」
ライオネルの号令に、周囲にいた兵たちが敬礼する。
「…山賊団?」
「誰が山賊だこら!?こんな格好した山賊がいるかあほ!」
言われてシルヴィアはライオネルをちゃんと見る。確かに山賊にしては高そうな偉そうな甲冑を着ている。彼を山賊の親玉かと思っていたが、改めて周りを見回すといかにもな騎士服を着た者たちが付き従っている。この服は先程まで戦っていた人たちのような…。いや、それより…。
「あの…、なんで私は担がれてるんです?」
「そのまま帰れると思ってんじゃねぇよ!!城に連れてくんだよ!」
山賊ではないならなぜ自分は俵担ぎされているのか。わけがわからないままシルヴィアは馬に乗せられた。
「馬、苦手!わ!わ!」
「じゃあしゃべんな!舌噛むぞ!」
そして少女はライオネルの乗る馬にのせられて、そのまま攫われていくのだった。
新シリーズ始めてみました。
前作はこちら。特に繋がりのない別の世界観のお話です。
↓↓
「追放された龍の番は銀の狼に拾われる」
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