第96話 破格の条件
薄暗い玉座に座っていたのは、かつての仲間。
魔神と名乗る、赤いチャイナ服を着た蓮妃がいた。
恐らく、肩書きから考えれば、悪魔界隈の最高権力者。
過程はどうあれ、再開を喜びたい思いがないわけじゃない。
――ただ。
「……何が目的っすか?」
嫌な気配を感じ取り、メリッサは尋ねる。
容姿、体格、服装、声音、全てがほぼ同じ。
角、羽根、尻尾の悪魔的特徴を除けば、人間。
でも、どこか引っかかる。同じように絡めない。
『久方振りね、メリッサ』
頭に木霊するのは、先ほどの蓮妃の言葉。
同じ時間軸を歩んだ彼女なら、こう言わない。
別れたのは最近。時間的な矛盾があるのは明らか。
それも、ぽっと出の新入りが、魔神にはなれないはず。
恐らく、過去に戻り、悪魔化してから、数千年経っている。
――その過程で人格が変わった可能性が高い。
真偽はどうであれ、警戒するに越したことはなかった。
「冷たい反応ね。……まぁいい。我と博打をしないか?」
蓮妃は足を組み、上から目線で目的の一部を明かす。
邪推かもしれないけど、嫌な予感が当たったような気がした。
「内容と報酬とリスク次第っすね」
勝負を受ける立場として、当然の権利を述べる。
提案してきた以上、強制力はないと見るのが妥当だった。
「白き神と魔神契約者の勝負。どちらが勝つかを賭けるよ。当たれば、自由放免。元の身体に戻した状態で、人間界に帰す。……ただ、外れれば、一生奴隷。成果を上げても評価されず、悪魔界の最底辺で終わりのない作業を続けてもらうね」
パチンと指を鳴らし、蓮妃は勝負内容を告げる。
目の前には、四匹の蝙蝠が集まり、四角形を作った。
そこには映像が表示され、燃える森と男女の姿が見えた。
紛れもなく、バトルフラッグの世界。死んだ後に流れる時間。
「破格すぎる条件っすね。何か裏があるんじゃないっすか?」
内容を前向きに受け止めつつも、胡散臭さを感じる。
悪魔に堕ちた時点で、負けるデメリットはないに等しい。
評価されようが、されまいが、命を奪う仕事には変わりない。
――奴隷以下の存在。
少なくとも、自分にとって何も不都合がなかった。
それを見抜けないほど、蓮妃が衰えてるとも思えない。
好条件を提示したのは、必ず理由があると見るべきだった。
「……裏とは例えば、なんのことか?」
蓮妃は知らん顔で、試すような質問をした。
すでに勝負は始まっている。曖昧な返事は出来ない。
「未来を知った上で、勝負を吹っ掛けてる、とかっすね」
メリッサは鋭い目線を向け、魔神に告げた。
憶測ではあったけど、当たっている自信はあった。
彼女の能力は不明でも、未来予知できる悪魔は必ずいる。
――未来を知っていれば、絶対に負けない。
だからこそ、破格の条件で勝負を持ち掛けてきた。
そう考えれば辻褄が合うし、向こうの損失は関係ない。
「だとすれば、断るか? それでも別に構わナイよ」
蓮妃は、肯定も否定もしなかった。
ただそれは、半ば事実を認めたようなもの。
断る余地を与えて、勝負に誘導しようともしている。
(罠なのか……それとも……)
出揃う条件を踏まえ、あらゆる可能性を考える。
思考を巡らせるのは、今までに蓮妃が発した言葉。
それらを考慮していけば、自ずと答えは見えてきた。
「仕方ないから、乗ってやるっすよ。それが、ありのままのうちっすから」
メリッサは条件を呑み、勝負が成立。
魔神との予期しなかった博打が始まった。