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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第94話 組手

挿絵(By みてみん)




 パチリと音を立て、針葉樹は赤く染まっていた。


 火の元は、荷電粒子と、進行者の爆発によるもの。


 枝葉は燃え盛り、樹々は裂け、次々に火が連鎖する。


 やがて辺りは火の海と化し、森全域を飲み込んでいく。


「「――――」」


 それを意に介さず、戦う者たちがいた。


 褐色肌の少年と中国系の女性が拳を交える。


 センスを纏わず、体術のみで勝負を繰り広げる。


 ――戦況は五分と五分。


 互いに致命傷はなく、回避か防御か相打ちで終わる。


 互角か、力加減をしているのか、ウォーミングアップか。


 いずれにせよそれは、殺傷に重きを置いた戦いとは言えない。


 健全で前向きな稽古。鍛錬に重きを置く、組手の形になっていた。


「……」 


「……」


 白き神と蓮麗の両名は、息を合わせたように距離を取る。


 言葉を一言も交わし合うことはなく、拳を交えただけだった。


 沈黙に満ち、二人の間には火事による樹々の悲鳴だけが鳴り響く。


「其の型、其の套路、其の身のこなし、詠春拳えいしゅんけんですね。少林寺拳法を祖とし、中国南部に起源を持つ徒手武術。特化しているのは、正確な打撃と素早い動き。途切れない攻めで敵を圧倒し、一息で倒し切ることに主眼を置く」


 そんな中、口を開いたのは白き神だった。


 つらつらと語られるのは、組手を受けた感想。


 戯れか、気まぐれか。胸中を知ることはできない。 

 

「お前は人工知能カ? 調べれば分かりそうなことを、よく偉そうに言えるネ」


 対する蓮麗は冷たくあしらっていた。


 肯定も否定もしないが、半ば事実を認める。


 話題には全く興味を示さず、気怠そうにしている。


「……釣れない女人だこと。余談を愉しめないと、情緒が育みませんよ?」


「森は火事。情緒も糞もないネ。それよりさっさと本気を出せばどうカ?」


 話は平行線を辿る中、蓮麗は本題を切り出した。


 センスが生じていない以上、本気ではないのは明らか。


 白き神にとっても、蓮麗にとっても、これは遊戯に過ぎない。


「それは、貴方の出方次第ですよ。――魔神の契約者」


 神が組手で見抜いたのは、表層ではなく深層。


 推定有害と認定した、蓮麗の内に秘めるものだった。

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