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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第93話 バトルフラッグ㊸

挿絵(By みてみん)





 化学工場に通じる、二車線の道路。


 荷電粒子砲の射線上にいたのは、三人。


 ライフを焼き付くす亜光速の攻撃が迫った。


 ――不可避の速攻。


 当たれば、命は取り立てられる。


 撃てた時点で、結果は決まっている。


 あいつら程度の力で対処するのは不可能。


 荷電粒子が通った道には、服だけが残るはず。


 ――しかし、結果は違っていた。


 操縦桿を握る手は緩み、目の前の光景に釘付けになる。


 道路上に立っているのは、強化外骨格パワードスーツを纏うベクターの姿。


 刀を振り下ろした状態で停止し、全身からは蒸気を発していた。


 直接、確認できたわけじゃない。ただ、事実から過程を逆算できる。


「荷電粒子を斬りやがったのかっ!!!?」


 胸部コックピットに声を響かせるのは、アサドだった。


 正直言えば、認めたくない。あらゆる常識から逸脱した現象。


 悪魔の所業ならまだしも、人間の所業とは、到底信じられなかった。


「ふざけやがって。仮に事実なら、魔神レベルだぞ……」


 つい口走ったのは、唯一再現可能と思える存在。


 それは、一人の人間に対しては最大級の賛辞だった。 


「まぁ、どうせ卑怯なトリックを使ったのがオチだろうが……」


 すぐに発言を撤回し、自尊心を守る。


 もし、事実なら自分よりも上の存在になる。


 それをすんなり、受け入れてやるはずがなかった。


「…………」


 すると、コックピットには静けさが満ちる。


 さっきまでの慌ただしさは、微塵も感じられない。


「いや、待て……。残りの馬鹿はどこに……!?」


 そこで異変に気付き、我に返った。


 あの鎧男が命を賭した先にあったもの。


 捻出したのは、取るに足らないはずの時間。


『人間を……舐めるなぁっ!!!』


 耳朶を揺らしたのは、侮っていた人間の声。


 正面モニターには、杖刀を突き立てる中年の男。


 黄金色に輝くセンスを切っ先に全集中し、突き穿つ。


『――――ッッッ!!!!』


 次に声を発したのは進行者プログレッソルだった。


 生き物と同じような、悲鳴を上げている。


 同時に正面モニターは暗転。視界の一部を失う。


「こんの……行き遅れの売れ残りがぁぁぁぁぁあああっ!!!!」


 遅れてアサドは操縦桿を握り、迎撃を試みる。


 進行者の前腕と連動し、頭部へと爪を立てていく。


 当然、モニターは暗転したまま。当てずっぽうだった。


『――――』


 聞こえたのは、ブンという盛大な空振り音。


 音響は生きており、外れたという事実が伝わる。


「ちっ、クソがっ!!!!」


 ピキリと青筋を立て、操縦桿を手早く動かす。


 選んだのは、回避行動。脚部を使った跳躍だった。


 正面カメラは時間が経過すれば治る。そういう仕様だ。


 闇雲に攻撃を繰り返すより、ここはいったん引くのが安全。


『――――――』


 しかし、進行者プログレッソルはピクリとも動かない。


 跳躍はせず、ただの鋼鉄の塊と化していた。


「このポンコツが!! どうなってやがる……っ!!!」


 座席を叩きながら、アサドはパネルを操作する。


 右モニターに表示したのは、機体の損傷を示す画面。


 見えたのは赤く光る、左脚部と右脚部の損傷報告だった。


「野郎……っ!! 駆動装置アクチュエーターを的確に……!!!」


 資料通りの設計だからこそ、突かれた弱点。


 回復するにしても、動けるまでタイムラグがある。


「あぁ……。そっちがそのつもりなら、手段は選んでやらねぇよ」


 覚悟を決めた顔で、アサドは次の手を講じる。


 回避も防御も不可能なら、残っている手段は一つ。


 モニターを確認せずとも確実に効果が期待できるもの。


 ――それは。


「全方位ミサイルってやつだ!!! 避けれるもんなら避けて――」

  

 発射シークエンスに入り、背中の装甲が開いていく。


 これで敵は引かざるを得ない。時間さえ稼げればいくらでも。


「…………ッッッ!!?」


 すると、突然、胸に激痛が走る。


 白スーツが青く染まっているのが見えた。


 自分事のようには思えない。他人事のような感覚。


「あぁ? どうなって……」


 アサドの内に生じるのは、疑問。


 返ってくるはずのない答えを求める。


電磁投射砲レールガン。君の下位互換の兵器さ』


 そこで返ってきたのは、侮っていた人間の声。


 敗北の原因を告げられ、進行者プログレッソルはミサイルと共に爆発四散した。

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