第91話 バトルフラッグ㊶
針葉樹の森、上空。進行者内、胸部コックピット。
正面モニターに映るのは、焼けた大地とバニースーツ。
火の手が上がり、煙がたなびき、徐々に勢いを増していく。
残ったのは、勝者のみ。奇襲により、欲望を叶えた悪魔がいた。
「しゃあ!!! 手中に収めたぞ、お前の全てを!!!」
アサドは操縦席で、熱く拳を握り込む。
それは、冥戯黙示録に参加した目標の達成。
ひいては、その先にある目的の足がかりとなる。
「あいつさえ率いれば、俺は魔神に……」
決して尽きることがない、強欲の最終到達点。
悪魔界における最高権力者の地位。それが、魔神。
全悪魔の支配者であり、直接的な指揮権を持っている。
命令に逆らうことはできず、断れば存在そのものが消える。
最上位級悪魔。十二貴族の面々であろうと、条件は変わらない。
「と……ゲームはまだ終わってなかったな」
アサドは高い壁を認識し、ふと現実に立ち返る。
勝ち誇るのは、今じゃない。魔神の座についた時だ。
その頂に至るまでは、手を抜いてやるわけにはいかない。
「行きがけの駄賃だ。その他大勢の命も、ついでにもらってやるよ!!!」
次に矛先を向けるのは、優先すべき脅威。
メインカメラに対象を映し、操縦桿を操作する。
そこに映し出されるのは、道路上で身構える脇役三名。
『――――』
空から落ちる進行者は、再び口を開く。
口内に秘められている武装は、荷電粒子砲。
電子を生成、加速して、目標物に撃ち放つ兵器。
威力もさることながら、最も脅威と言えるのは速度。
光速の99%。亜光速と呼ばれる勢いで、発射されている。
光った頃には命中する。人間の身体能力では、回避が難しい。
能力やセンスで察知できたとしても、撃ち放った後なら手遅れだ。
――警戒すべきは、撃つ前。
電子を生成、加速するタイミングが弱点。
必ずタイムラグが発生し、無防備な状態になる。
「撃たれたら終わりって、気付いてんだろ。来るなら来いよ」
準備段階に入る中、注視するのは正面モニター。
特に、強化外骨格を装着した野郎に注目していった。
生き残った参加者の中だと、最も邪魔できる確率が高い。
あの性能と運動性を考慮すれば、発射直前に到達できるはず。
奇襲される角度によっては、主砲に頼れない可能性も十分あった。
「…………」
ジリジリとした空気を感じ、操縦桿を握る手には緊張が走る。
進行者は重力に引かれ落下中。読み合いが発生するのは、着陸時。
そのタイミングで荷電粒子砲の準備は完了。同時にそこで、接敵する。
――着陸まで0.1秒。
反応が遅れれば、狩る側が、狩られる側に回る。
接敵の瞬間だけは、気を抜くわけにはいかなかった。
『――――――』
口内の加速器が唸りを上げる中、その時は訪れる。
地面への着陸。ミサイルで粉々になっている道路の上。
辺りは針葉樹に囲まれていて、見通しがいいとは言えない。
よく見えるのは正面の道路と、道路上に立っている二人の男性。
――そして、正面から堂々と迫る強化外骨格。
ベクター=♡♥
ヘケト=♡♥
一鉄=♡♥
表示されるライフは、残り一つとなっている。
受け攻めをいくらか考えた上で、最も愚かな選択。
陽動だろうがなんだろうが、悪手にもほどがある行動。
「あぁ……たまんねぇなぁ、おい。馬鹿には馬鹿をってか。上等だ!!」
むしろそれが、敵として好感を持てた。
感情が滾り、センスは昂ぶりを見せていく。
それに応じるように加速器は作動し、準備完了。
照準は正面を捉え、後はスイッチを押すだけの状況。
射線上には、脅威と認定していた三人が揃っている状態。
「仲良く、まとめて逝けや!!! 三馬鹿が!!!!」
アサドは、景気よくスイッチを押した。
『――――――ッッ!!!!』
そこで放たれるのは、二度目の荷電粒子の発射。
メリッサを成す術なく葬った兵器が、再び産声を上げた。