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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第90話 バトルフラッグ㊵

挿絵(By みてみん)




 樹々の合間を駆け抜けるのは、二人の女性。


 向かうべき場所は、ジェノ・アンダーソンの元。


 互いの目的は共通して、足並みは見事に揃っている。

 

 ――ただ、二人の間には会話がなかった。


 心地いい沈黙か、気まずい沈黙か。


 話すことがないだけか、話したくないか。


 主観によって異なり、胸の内によって左右する。


(もし、アザミがジェノさんと……)


 メリッサは後者。悪いイメージが先行する。


 問題の根っこは明らかで、深く考えるまでもない。


 ――嫉妬。


 自分が欲するものを奪われるのが嫌だから。


 口にはできず、彼女と意見を共有することはない。


 言えば、終わる。関係に亀裂が走る。目的に支障が出る。


 ――第一優先はジェノを主人格に戻すこと。


 女々しい感情のせいで、失敗するのだけは避けたい。


 ここで言い争ったところで、なんのメリットもなかった。


「……あ、あの。メリッサさんは、どこまで、本気、なんですか?」


 そう踏ん切りをつけた時、アザミは尋ねる。


 純粋な疑問。女同士特有の腹の探り合いじゃない。


 悪気がないのは、彼女の性格から考えれば明らかだった。


「本気の度合いをどうやって定量化するんすか。出来るなら教えて欲しいっすね」


 ただ、あまりにタイミングが悪すぎる。


 まだ自分の感情に折り合いがついてない。


 素直に応じられるほど、大人じゃなかった。


「……そ、それは」


 意地悪な質問を前に、アザミは言い淀む。


 今はこれでいい。余計なノイズは行為に不要。


 最終的に、どちらかが白き神を誘惑できればいい。


「………………こ、子供、何人産めますか?」


 しかし、会話は終わらなかった。


 話題に本気で向き合い、回答してきた。


 確かにそれなら、思いの強さを定量化できる。


 ――数が多い方が勝ち。


 適当に数を盛ることは許されない。


 本心を偽るのは、相手にも自分にも失礼。


 的を得た答えが返ってきた以上、無視できない。


「先に答えるのは、フェアじゃないっすね」


「……せ、せーので、言い合いっこしましょう」


 話はまとまり、前向きな方向へと向いていく。


 答えが出れば、感情にも整理がつくかもしれない。


「「せーの」」


 息を合わせ、タイミングは完璧に揃う。


 読み合いも、イカサマもない賭場は整った。


 勝てば正妻、負ければ側室に格付けされる勝負。


 本人の気持ちはさておき、思いの丈は定量化される。


「「……九人 (っす)」」


 外しようがないタイミングで声は揃った。

 

 そこには、優劣も勝ち負けも存在していない。


 ――同格。


 彼を思う気持ちは全く同じ。


 今ここに、定量化されてしまった。


 嬉しくも、悲しくもない不思議な気持ち。


「……アザミになら、オールインしてもいいかもっすね」


 清々しい気持ちで、メリッサは結果を受け入れる。

 

 そこに嫉妬なんてものはなく、あるのは純然たる気持ち。


 不純物は一切なく、胸の内を満たしているのは、100%の信頼。

 

「……え?」


 アザミは異様な空気を感じ取り、表情が曇っていた。


 全てを説明する時間はない。手短くまとめる必要がある。


 やり切れない気持ちもあれど、思いの丈が同じなら仕方ない。


「――ジェノさんのことは任せたっすよ」


 語ると同時に、天上から降り注ぐのは紫色の光だった。


 人生最後の瞬間に、メリッサは一世一代の大博打をしかける。


 避けきれない紫光が全身を焼き尽くす中、確かに意思は伝えられた。


 メリッサ=♥♥


 アザミ=♡♥


 バトルフラッグのルール上、メリッサの死が確定する。


 いかな異能を持とうとも、抗うことができない強制的な死。


 ――しかし、賽は投げられた。


 この一世一代の大博打は、死してなお、有効。


 対象者が死なない限り、この勝負は受け継がれる。


「め、メリッサさん!!!!」


 アザミの決死の叫びは、誰にも届かない。


 光が消えた場所には、バニースーツだけが残っていた。

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