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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第86話 バトルフラッグ㊱

挿絵(By みてみん)




 化学工場に通じる、二車線の道路。


 被爆の影響を受け、道路は寸断される。

 

 その原因は、全長約13メートルの鋼鉄の塊。

 

 進行者プログレッソルが、道半ばで巨大樹のようにそびえ立つ。


「万物は流転する。皮肉にも、骸人を踏襲したというわけか」


 ヘケトを抱える一鉄は、一部始終を見ていた。


 所属不明の鎧と、進行者プログレッソルとの一騎打ち。空中衝突。


 鎧が扱う妖刀が、鋼鉄の尻尾を斬り裂くも、再生した。


 こちらはミサイルを回避したが、戦況は良いとは言えない。


 ――硬い装甲、高い再生能力、優れた運動性。


 基本スペックが、あまりにも高すぎる。 

 

 骸人を巨大化させ、兵器を積んだようなもの。


 再生能力に関しては、資料にも書かれない隠し性能。


 無理難題を前に途方に暮れる中、キュインという音が鳴った。


「……チャージは完了。でも、当てて意味あるのかな」


 抱えていたヘケトが持つ、電磁投射砲レールガンの駆動音。


 当たりさえすれば倒せる、と意気込んだ近未来兵器。


 進行者プログレッソルの隠し性能が明らかになった今、雲行きは怪しい。


 苦労して命中させたとて、再生されれば、元の木阿弥となる。


「試す価値がないとは言い切れん。胸部電源ユニットは人間でいうところの心臓。破壊できれば、エネルギーの循環が止まり、再生能力を無効にして倒せるやもしれん。……だがこれは、希望的観測。そいつに再使用時間クールタイムがある以上、闇雲に撃てんのが現実よ」


 どうにか攻略法を探るも、状況はかなり厳しい。


 前向きに発射を検討しつつも、問題点が引っかかる。


「失敗したら、一分待ち。次も時間を稼げるとは限らないもんね……」


 ヘケトは要点をまとめ、後ろ向きな反応を見せる。


 あの性能を前にして、さっきまでの勢いは消えていた。


 ――足らないのは、熱量。


 背中を押せる馬鹿になれば、変わる。


 理想を押し通せば、必ず元の勢いに戻る。


「総合的に判断して、ここは撤退する」


 ただ、生憎ながら、現実に基づいたことしか話せない。


 変に理想や希望を抱かせるのは、どうも性に合わなかった。


「うん、分かった……。それが一番堅実、なんだよね」


 不服そうにしながらも、ヘケトは案を受け入れる。


 心情や本音は手に取るように分かるが、これが精一杯。


 進行者に自ら背を向け、不利な戦いから退く覚悟を決める。


 抱えるヘケトを下ろして、脱出地点探しに意識を割こうとした。


「―――――」


 そこに現れたのは、所属不明の白銀の鎧だった。


 右手には白銀の刀を持ち、表情を伺うことはできない。


 ただ、状況から考えれば、敵対意思があるようにしか見えない。


「「……」」


 一鉄は刀を構え、ヘケトは投射砲の銃口を向ける。

 

 一挙手一投足を見逃さないように、鎧を注視し続ける。


 空気は張り詰め、場は緊張感に満ちていくと、動きがあった。


「……」


 膝を折り曲げ、地面に着地させる。


 刀を傍らに置き、その視線は下を向いた。


 次に両手を体の前に置いて、指先を揃えていく。


 それは、想像とは違うものであり、馴染みのある光景。


「頼む……。俺と夢を見てくれないか……」


 行ったのは、土下座。帝国における最大級の敬礼。


 その所作と言葉には、確かな誠意と、熱量がこもっていた。

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