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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第85話 バトルフラッグ㉟

挿絵(By みてみん)




「―――」


 少年を襲い、殴られて、ぶっ飛ばされた。


 凄まじい勢いで、針葉樹の樹々を通り過ぎていく。


 白き神との戦い。四足歩行兵器との戦い。全てが遠ざかる。


 戦線復帰するには、それなりの時間がかかる。致命的なタイムラグ。


 騒がしい風切り音を聞きつつ、冷静に状況を考えると、思うところがあった。


(あぁ……。何もかも、どうでもよくなってきたっすね……)


 メリッサが陥るのは、自暴自棄。


 努力も苦労も報われなかった末の反応。


 豊富な知識から、客観的な分析はできていた。


 ただ、理解できるからといって、結果は変わらない。


 ――失敗した。


 人間に生まれた時点で、避けては通れない事象。


 普通の人間なら幼少期に失敗しまくって、耐性をつける。


 結果、歩けるようになったり、自転車に乗れるようになったりする。


 ――ただそれらは、生まれた時点で出来ていた。


 帝国の少年漫画は『友情、努力、勝利』が面白さの秘訣。


 なんて言われるけど、その一部がどうしても気に入らなかった。


 『努力』の必要性。苦労して成功する過程に、面白さを感じられない。


 好みや価値観は人それぞれだけど、こう思ったのには、ちゃんと理由がある。


 ――異能があれば、大抵の問題を解決できたせい。


 糸による、切断と行動の阻害。


 影による、索敵と空間の封鎖。


 思念通話による、知識の共有。


 再生能力による、死への克服。


 吸収による、エネルギー貯蔵。

 

 これらを駆使して、今までどうにかなった。


 先天的才能。努力せずに身につけた力で成功した。


 失敗した時は、『本気を出してないだけ』と言い聞かせた。


 ――でも今回は、本気でやって駄目だった。


 これまでの人生の中で、味わったことのない苦痛。


 目に見えた傷はないのに、全身を切り刻まれた時に近い。


 寒気がするし、倦怠感があるし、血をごっそり抜かれた感じ。


(もういっそこのまま、地平線の彼方に消えてもいいかもっすね……)


 思考を重ねるごとに、心は後ろ向きになっていく。


 怠惰。言い訳。現実逃避。自己正当化。悲観的思考。


 色々な言葉が頭に浮かぶけど、本質はもっとシンプル。


「もう、失敗したくないんすよ……」


 思いの果てに、メリッサは両目を閉じた。


 その背後には、巨大な樹がそびえ立っている。


 森全域を見渡せるほどの高さで、極太の幹を誇る。


 このままいけば、ぶつかる。便利な影の異能で分かる。


 どうせダメージはないし、ブレーキ代わりに使ってやろう。


「――――っ?」


 そう思っていたら、身体がフワッとした。


 風の衣に包まれたような、奇妙な感覚だった。


 今まで得た知識を網羅しても、説明できないもの。


 結果として殴り飛ばされた斥力が消え、着地していた。


 どうにか予想を立てるなら、自然現象に近いようで遠い力。


(風の異能、っすか……?)


 仮の答えを作り、メリッサは左右を見る。


 そこには誰もおらず、影の探知にも引っかからない。 


(だとしたら、一体どこから……)


 諦めず、メリッサは気配を探り続ける。


 影の異能の索敵範囲は、半径約十メートル。


 それも、地に足をつけた人間しか索敵できない。


 サーマルサイトの方が精度がいいとも言えてしまう。


 ただ、現代兵器にはないものを、メリッサは持っていた。


 ――異能の成長。


 影の索敵範囲内にある、条件の拡張。


 失敗と挫折が、皮肉にも影の異能を進化させる。


(十メートル上空に敵影ありっす……っ!)


 メリッサは真上を向き、目視で確認する。


 そこにいたのは、刀を腰に差す、見知らぬ女性。


 反射的に右手を上空に向け、迎撃態勢に入っていった。


「こ、こちら、千葉アザミ!! い、一時共闘といきませんか!!!」


 そこで響いてきたのは、見知った声。


 努力を否定した先にあったのは、友情だった。

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