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賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
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第80話 バトルフラッグ㉚

挿絵(By みてみん)




 そこは、針葉樹に囲まれる二車線の道路。


 折れた照明の火花が、割れた地面を照らした。


 被害の元凶は、超大型級の狼。四足歩行型の兵器。


 進行者プログレッソルとの激しい戦闘が続く中、新たな動きを見せた。


『――――』


 敵機の背中から放たれるのは、無数の白い筒。


 今までの原始的攻撃ではなく、現代的兵器の使用。


 不運にも真っ先に標的になったのは、近場にいた二人。


「どどど、どうしよう。このままじゃ……」


 ヘケトは電磁投射砲レールガンを抱え、焦りの色を見せる。


 顔中に汗を浮かべて、その場であたふたとしていた。


 戦闘が開始して、約20秒。チャージ完了までは、約40秒。


 切り札が再使用時間クールタイムにある現状、戦力にはカウントできない。


「騒ぐなぁ。黙って見ておけ」


 頼れる味方がいない中、一鉄は重荷を背負う。


 その間にも押し寄せてくるのは、十発のミサイル。


 逃げ道を塞ぐようにして、あらゆる角度から襲い来る。


 恐らく、人の熱を追尾する性能。回避も防御も厳しい場面。


(ここまで追い込まれたのは、熱い夜以来か)


 右足の傷がチクリと痛み、ある修羅場を思い出す。


 窮地にいるのを理解しながら、少しばかり思いを馳せる。


(あの時は何もできなかった。だが、今は……)


 過去の失敗を火種にして、一鉄は黄金の光を纏った。


 身体能力の向上に加え、動かない右足をフォローする。


 これでようやく、人並み。ここからは、技量が問われる。

 

「北辰流――」


 杖刀を中段に構え、柄を両手で握る。


 基礎中の基礎。現代の剣道における常識。


 目新しいものはなく、広く体系化されている。


 アイデアは掘り尽くされ、型も構えも手垢がつく。


 いくら意思の力を混ぜても、常識の枠に収まりやすい。


 実際、並みの使い手なら、この構えを選んだ時点で終わる。


 人の想像力には限界があり、平凡な構えという観念は崩せない。


 窮地を打開するイメージを頭で描けず、現実と理想の差に殺される。


 そこで重要視されるのは、心構え。北辰流開祖、千葉周作は生前語った。


『雨あられ雪や氷とへだつれど、とけては同じ谷川の水』


 今がどんな状態にあろうと、帰る場所は同じ。


 無数の型や構えを経由しても、最後は刀を振り切る。 


 その本質を理解し、凡事徹底した先に見える景色があった。


「【星王剣】」


 それは、北辰流千葉派における、奥義。


 中段の構えから派生する、基本に忠実な斬撃。


 その切っ先が、マッハ3で迫るミサイルを斬り裂いた。

 

 内蔵された爆薬を破損させて、本末転倒な事態を招いていく。


「…………っっ!!?」


 ヘケトは異常事態を察し、目を見開いた。


 ミサイルを斬った事実と、爆発を警戒した驚き。


 その予想通り、斬り裂かれた飛翔体は、起爆を始めた。


「…………」


 ヘケトの顔を横目で見ながら、一鉄の身体は動き出す。


 起爆速度を上回り、最適化された動きがミサイルを駆逐する。 


 センスによる身体能力の向上。北辰流の核心を掴む者が成せる異常。


 ――正体は無意識。


 脊髄レベルに刷り込まれた剣術。


 対象へ杖刀を振り切る瞬間以外の脱力。 


 無駄を徹底的に省き可能とした、超人的動き。


 それで、地球の重力すら影響しない上位存在に至る。


 ――ゆえに、星王剣。


 斬る対象がある限り続き、物理法則を無視する。


 その非現実的な敏捷性が、ミサイルを次々と斬り落とす。


「…………」


 その最後の一発が綺麗な断面図となっていく。


 すでに起爆しており、二人を巻き込もうとしていた。


 星王剣の効力も切れかけ、時間が徐々に早まるのを感じる。


 ミサイル十発の爆発。まとめて一回の攻撃、とは恐らくならない。


 最低でも、ライフを二つは削る威力のもの。巻き込まれれば、死に至る。


「――」


 それでも一鉄は、さらに加速する。


 驚愕の顔で固まるヘケトを回収し、疾走。


 起爆速度を上回った状態で、安全圏に脱出する。


 理由は単純だった。現代剣道においても、基本の技術。


 ――残心。

 

 攻撃した後も警戒を怠らずに移動し、相手への礼儀を示すこと。


 一鉄は斬撃の余韻を残し、ミサイルの攻防を無傷でやり過ごしていた。

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