第77話 バトルフラッグ㉗
両手に操縦桿を握り、モニターを熱く見つめる悪魔がいた。
ズームで表示されるのは、第三ゲート付近にいるプレイヤー。
黄金のセンスを纏い、進行者を前に体一つで挑もうとしている。
「こいつで二人目か。ルールに例外は付き物だが、ここまでくると笑えてきやがる」
アサドは、起きた事実を淡々と受け入れる。
言葉とは裏腹に、大真面目な表情を作っていた。
理由はバトルフラッグが行われている舞台にあった。
――独創世界『鋼鉄要塞』
本来の用途は意思の力を封じ、銃撃戦に重きを置かせる場。
旗の争奪は後付けで、得意分野に相手を引きずり込むのが趣旨。
センスを使われるのは、企画倒れ。ルール違反もいいところだった。
バグと切り捨て、思考停止したいところだが、原因はハッキリしている。
「マルチタスクだったかね。本物を抑え込むには、容量が足りねぇか」
アサドは否を認め、現状の改善点を思い浮かべた。
意思の力を封じる空間。この一点特化型なら問題ない。
格上が相手だったとしても、抑え込めるだけの縛りになる。
だが、発電所、高炉、化学工場、NPC、アイテム、進行の管理。
ここまで条件を加えると、器用貧乏型。どうしても拘束力が弱まる。
――恐らく、同格以上の相手には通用しなくなる。
意思の力の根本は、心の強さ。
独創世界は、その力の延長線上だ。
マルチタスクをすれば、自信が揺らぐ。
破られるかもしれないと心のどこかで思う。
結果的に世界が歪み、強者にルールを破られる。
これを機に、意思封じが、形骸化する可能性も高い。
欠点を自覚した以上、世界が崩壊する危険性すらあった。
――ただ、悪い意味合いばかりでもない。
「ま……久々の上物だ。簡単にはくたばってくれるなよ!!!」
今の理屈が正しければ、相手は最低でも同格以上。
操縦桿を操り、アサドは進行者の右脚部を勢いよく振るった。
「――――ッッ!!!!」
その期待に応えるように、一鉄は杖刀を振るう。
ガキンと尋常ならざる剣戟音を奏で、火花を散らす。
振るったのは、重量500トン以上の巨体から放たれた爪。
物理的イメージなら、受け止められても、潰されるのが普通。
「おいおいおいおい……」
しかし、モニターには、爪を易々と受け止める敵の姿。
それどころか、やや押されるぐらいの膂力を確かに感じる。
独創世界のルールも、物理における常識も一切通用しない相手。
「人間ってやつは、これだから――ッ!!」
紛れもない本物を前に、アサドの意識は闘争に溶けていく。
その間、約5秒。電磁投射砲のチャージが完了するまで、残り55秒。