表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
76/156

第76話 バトルフラッグ㉖

挿絵(By みてみん)




 化学工場で量産される四足歩行兵器。進行者(プログレッソル)


 その存在は、停電前の研究資料室で確認している。


 資料には装備、弱点、出現地点などが書かれていた。


 ――だからこそ、この展開は予測できた。


 有効な武器を入手し、発進ゲートに先回りした。


 戦死のリスクはあるが、他のプレイヤーも同じこと。


 それよりも、倒せた場合のリターンがあまりにも大きい。


 ――進行者(プログレッソル)を倒せば、旗が二つ与えられる。


 資料はすでに廃棄済みで、情報は占有している状態。


 後に気付くとしても、真っ先に気付くことはできない。


 先行者利益を得るために必要な条件は、全て揃っていた。


「狙いは胸部、電源ユニット。用意はいいか?」


 一鉄は、隣に立つヘケトに尋ねる。


 彼の両手には近未来兵器。電磁投射砲レールガン


 チャージ時間は一分。第一射目は準備済み。


 弱点を突けば、一撃で沈める可能性は十分ある。


 むしろ、ここで倒せなければ、待ち受けるのは死だ。


「うん……。任せてよ!」


 命運を握っているヘケトは、声を張り上げた。


 瞳に揺らぎはなく、根拠のない自信に溢れている。


 強がりか、張りぼての勇気か、恐怖を隠し通すためか。


 ただ、未知の兵器を前にしても、立ち向かう意思があった。


(黄金の精神は、惹かれ合うか……)


 直感するのは、ヘケトの内に秘めたもの。


 目視したわけでもなく、確たるものは何もない。


 それでも、同種の力を扱うものとして、確信があった。


「……標的捕捉」


 彼は着々と照準を合わせ、引き金に手をかけていた。


 その先には、進行者の胸部。貫けば、全機能は停止する。


『……………………』


 対する進行者プログレッソルは、沈黙を保っている。


 撃ってみろとでも言わんような態度を示す。


 完全自律型のAIが積まれているとは思えない反応。


 中に人間が乗り、操縦しているような錯覚を覚えてしまう。


(杞憂だな。それより、問題は……)


 すぐに考えを切り捨てるように、頭を振るう。


 気にするべきは、妄想よりも、目の前に広がる現実。


「――――いっけぇぇええええっ!!!!」


 威勢のいい声音と共に、ヘケトは引き金が引く。


 二本の導体レールに、目に見えるほどの電流が走る。


 発生するのは、物体を加速させる性質を持つ強力な磁場。


 そこに放たれるは、口径16mmにも及ぶタングステン合金弾。


 微量の雷光を纏い、目にも留まらぬ弾道を描いて、標的へと迫る。


 その速度は極超音速。音速の約七倍に至る速さ。マッハ7に相当する。


「…………」


 見てから対応することは、ほぼ不可能。


 重量500トンの物体は、マッハ7で動けない。


 密着した状態で撃てた場合、弾は必ず命中する。


 その限定条件を満たした時点で勝ったも同然だった。


『――――――』

 

 しかし、進行者(プログレッソル)の運動性は、マッハ7を超えていた。


 地面を蹴り、弾を物理的に回避し、易々と予想を打ち破る。


「ここまでとは……」


 一鉄の目論見の甘さが露呈する。


 リアリティに偏り過ぎた思考の欠陥。


 普通ならあり得ないという、視野の狭さ。


 目の前に広がるのは、勝つ見通しのない絶望。


「……チャージまで一分。次で決めるよ! 絶対!!」


 折れかける心を支えるのは、ヘケトの声音。


 ネガティブな要素が一切ない、ポジティブな言葉。


 上手くいく根拠は一切ない。避けられる確率の方が高い。


「舌先三寸口八丁。……だが今は、その口車に乗せられてやろうかぁ!!!」


 仕込み杖の鞘を抜き、一鉄は刀身を露わにする。


 その全身には、黄金色に輝くセンスが纏われていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ