第75話 バトルフラッグ㉕
化学工場一階。電気室。
上げられるのは主電源のレバー。
外部電源に切り替わり、停電は復旧する。
幾度か電灯が明滅した後、深い闇は晴れていった。
「…………」
レバーを操作していたのは、ベクターだった。
右手の甲に表示されるライフは、一つ削れている。
着用する白スーツは、戦闘の影響で少し着崩れていた。
地面には無数の白い糸、赤い空薬莢、電灯の破片が転がる。
そこに、カツンという音が鳴り響き、黒いヒールの踵が見えた。
「……約束は、守ってもらうっすよ」
復旧の一部始終を、メリッサは近くで見ていた。
着用するバニースーツに、着崩れや損傷は一切ない。
両腕を組んで、やや不服そうにしながらも見逃している。
「俺にとっちゃタイマンは神聖なもの……。約束を破るほど腐っちゃいない……」
死闘の果てに、交わされたのは約束。
二人の争いを終わらせた要因となっていた。
「ま、信じないのも野暮ってもんっすね。そっちの健闘を祈ってるっすよ」
互いの関係は良好でもなければ、険悪でもない。
ただ二人は、互いに納得がいく状態で別の道を進んだ。
◇◇◇
化学工場より西に2km地点。第三ゲート。
舗装された地面には、赤いランプが明滅する。
アラームを鳴り響かせ、侵入者への警告を示した。
駐車禁止と書かれた床が左右上下にスライドし、展開。
格納庫と通じる地下空間が見え、昇降リフトがせり上がる。
「きたかぁ……」
声を発したのは、杖を持つ中年の男性。
一鉄はゲートのすぐそばに立ち、待ち受ける。
収集品を装備している様子はなく、ほぼ丸腰の状態。
「…………」
一方、隣に立つのは、陰気な黒髪の少年。
ヘケトは、ゴクリと唾を飲み、身構えている。
その両手には、二本のレールを軸に作られた兵器。
――電磁投射砲が握られていた。
『…………』
ガタンと無機質な音が鳴り、リフトは上がり切る。
現れたのは、黒色のフォルムをした四足歩行型の兵器。
狼の形を模しており、全長は13メートル。重量は506トン。
――名は進行者。
目に見えた武装はなく、動物由来の爪と牙を覗かせる。
潜在能力や詳細は一切不明ながらも、確実なことがあった。
『アォォォォオオオオオオオオオオオンッ!!!!!』
進行者は全プレイヤーの敵である。