第74話 バトルフラッグ㉔
アサルトライフル。AK-47。
世界で最も生産された自動小銃。
生産コストが低く、耐久性に優れる。
マクシスが持つ銃であり、装弾数は30発。
予備弾倉は三つ。100発以上は確実に撃てる。
上部には、熱源を感知するサーマルサイトが付く。
丸腰の少年を相手にするには、過剰とも言える戦力差。
――だが。
「…………」
組立エリアの床に散らばるのは、大量の空薬莢。
トリガーに指をかけるも、簡素な音が鳴り響くだけ。
ハンマーに叩かれた撃針が、チャンバー内部で空を切る。
――ようは弾切れ。
予備弾倉を使い切り、全弾を少年に撃ち込んだ。
弾詰まりを起こすこともなく、ほぼ全てが命中した。
標的との距離は、約三メートル。外す方が難しい状況だ。
ズブの素人だとしても、AKなら似たような結果に導くだろう。
――問題は弾を当てた後にある。
「もう、御仕舞ですか?」
立っているのは、無傷の少年だった。
ケロっとした表情で、小首を傾げている。
(弾は当たったが、効果がなかったと見るべきだろうな)
バトルフラッグのルール上、ライフの上限は二つ。
当てた弾の数を考えれば、オーバーキルもいいところ。
そのはずなのに、生きている。まるで、ものともしてない。
理由は色々考えられるが、シンプル化するなら二つに絞られる。
(ルール内の物か。ルール外の力か。どちらにせよ、厄介極まりない)
マクシスは、冷静に起きた状況を分析する。
戦場で指揮官が混乱すれば、部隊に死を招く。
いちいち驚いてやるほど、人生経験は浅くない。
それより、問題解決に意識を割く方が重要だった。
「生憎だが、諦めが悪い性格でな。……手合わせ願おうか」
直感に従い、マクシスは銃を捨て、身構える。
ルール上では、収集品以外の通常攻撃は全て無効。
ただの殴り合いには、なんの意味もないように思える。
だが、ルールが通用しない相手には、有効な気がしていた。
少なくとも、二択に絞ったダメージ無効の真相に迫れるはずだ。
◇◇◇
暗闇の中、組立エリアに響くのは足音と打撃音。
視覚以外を頼りに、二人は意味のない組手を続ける。
拮抗した状況が続いて、どちらかに偏ることはなかった。
「…………」
違和感を察し、マクシスは大きく距離を取る。
神格化が進んでいる割には、手応えがなさすぎる。
力量を同程度に合わされ、自分の分身と戦ってる感覚。
恐らく、ダメージ無効の真相は、ルールで縛れないセンス。
銃弾を意思の力で受け止めて、肉体まで届かなかったのが答え。
それだけでもかなりの収穫だったが、もう一つ分かったことがある。
「審判と称した、脅威の品定めだな。私はお眼鏡に適ったか?」
マクシスは結論を口にし、反応を待った。
白教においての白き神は、陰謀論者の救世主。
世界の脅威を排除してきたと布教し、信仰を得た。
その歴史に沿ってやるなら、目的は自ずと見えてくる。
「推定、無害。残念ながら、自ら手を下すまでもありませんね」
その読みは当たっていた。当の本人の口から、直接語られる。
わざわざ嘘をつくメリットもないため、事実で間違いないだろう。
神を基準にして比較されれば、脅威の対象にならないのも納得がいく。
「なるほど。お気に召すとしたら、『最上位級悪魔』といったところか」
すぐにマクシスは、相手の本命を邪推していく。
神に釣り合う存在と言えば、真っ先に思い浮かんだ。
「ここで味見しておくのも、悪くはないでしょうね。ただ、今宵の本命は……」
白き神は何かを口にしようとする。
『最上位級悪魔』を凌ぐ、脅威的な存在。
先が気になってきたところで、それは起きた。
「…………っ!?」
眩い光が、天井から差し込み、周囲を照らしていく。
組立エリアのみならず、光は工場全体にまで及んでいる。
――ようするに、停電の復旧。
白き神の目論見がどうこうの話ではなくなった。
電気室に行った相方の死に結びつく可能性があった。