表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
73/156

第73話 バトルフラッグ㉓

挿絵(By みてみん)




 ポンプアクション式ショットガン。レミントンM870。


 メリッサが持っている散弾銃であり、装弾数は4発+1発。


 発射されれば、細かい鉛玉が飛び散り、動く対象にも効果的。


 近距離、至近距離において、絶大な威力と命中精度を誇っている。


 狭い電気室内での攻防なら、無敵のように思えるが、弱点も存在した。


 ――排莢と装填は手動。


 弾薬は、銃下部にあるチューブマガジンに内蔵。


 自動なら発射時に排莢、弾倉から次弾が装填される。


 動作による戦術的不利はないが、M870の場合は異なる。


 銃前方の握り手(フォアエンド)を引き戻す必要があり、わずかな隙が生じる。


「……」

 

 それが攻防の要になると、メリッサは予期していた。


 安直な装填を選ばず、影で気配を探り、相手の出方を伺う。


(問題はこっからっすね……)


 ただ、彼女が有する影の異能は、未発達。


 精度は、五段階評価で示すなら、二段階程度。


 影の索敵が可能でも、視野は暗視ゴーグルに劣る。


 分かるのは、十メートル内の地面に足をつく人の位置。


 現状、肉体の細やかな動きを感知するのには限界があった。


「おいおい……。リロードの仕方も知らないのか……?」


 諸々の事情をおおよそ把握した上で、ベクターは煽る。


 メリッサの索敵。影の習熟度に関して、彼が知る由はない。


 ただ、M870における構造上の弱点は、当然ながら理解していた。


「生憎、コンマ一秒を許す相手じゃないっすからね。様子見っすよ」


 煽りに対し、メリッサは真摯に答える。


 交渉が決裂した時点で、怒りは冷めていた。


 安い挑発に乗るほど、今の彼女の沸点は低くない。


「追い込まれるほど利口になるタイプか……。上等だ……っ」


 一連の流れを評価し、ベクターは地面を蹴った。

 

 暗闇の中を縦横無尽に動き回り、攻めの糸口を探る。


 無数の足跡だけが残って、肝心の本体の動きが追えない。


 奇しくも、影の索敵において、最も苦手な動きとなっていた。


(追い、切れないっす……っ)


 的を絞れず、リロードをする隙もない。


 後手後手に回ってしまう中、動きがあった。


「滑稽だな……」


 ベクターは声を発し、逆手に握ったナイフを横に振るう。


 位置は背後。吸い込まれるように刃は彼女の胴体へと迫った。


「…………っ!!!」


 遅れてメリッサは散弾銃を振るう。

 

 銃の先端についた斧で、叩き落とす感覚。

 

 あわよくば、ダメージを与えたいという腹積もり。


「「―――」」

 

 しかし、そんな甘い見通しは通らない。

 

 ベクターの刃は、容易く胴体を切り裂いた。


 感覚に惑わされ、見事な一撃を食らってしまう。


 出血はないが、その代わりとして失うものがあった。


 メリッサ=♡♥


 右手の甲に表示されるライフが一つ消える。


 バトルフラッグで課せられた、限りのある命。


 再生能力があろうと、ライフがなくなれば死ぬ。


「後がないぞ……。このままでいいのか……?」


 ベクターは煽り立てながら、地面を蹴った。


 同じ戦法。縦横無尽に駆け、切りかかるスタイル。


(このままじゃ、駄目っすね……)


 不利な戦いが強いられる中、メリッサは悟る。


 持ち味だった五つの異能に、一切頼れない状況。


 彼女の人生において、最も死に近付いている瞬間。


(もっと、うちも……強くならないと……)

 

 胸に抱いたのは、成長への強い渇望。


 余計な感情は一切なく、あるのは向上心。


 憧れの存在に、近付きたいという純粋な思い。


 脳裏に浮かんでいる人物は、当然、決まっていた。


(ジェノさんのように……っ!!)


 パチリと目を開き、メリッサは影を遮断する。


 いらないリソースを消し、行動を最適化していく。


「…………」


 気配を全く感じ取れない状態で聞こえるのは足音。


 影で索敵していた時と、同じようで全く違っていた。


 余計な邪念が一切入らない。集中力が全く乱されない。


 ――過集中状態。


 今なら何だって出来るような気がした。


「またマグロか……。底が知れるな……」


 呆れたような声を発し、ベクターは移動を続ける。


 攻撃の前兆。あえて知らせて、行動を鈍らせる作戦。


「――」


 そこでメリッサは、ポンプアクションを行う。


 排莢と装填が済まされ、致命的な隙を晒している。


 ――それを見逃すベクターではなかった。


「これで積みだ……っ!」


 彼の狙いは、先ほどと全く同じだった。


 背後から迫って、逆手に持つナイフを薙ぐ。


 ただ、速度だけは先ほどよりも洗練されていた。


 なんの加減もなく、命を奪う凶刃がメリッサを襲う。


「――――っっ!!?」


 しかし、刃は空中で止まり、ベクターは停止する。


 何が起きたか分からず、疑問符を浮かべることしかできない。


「そういえば今まで……異能のメモリ管理、してこなかったんすよね」


 その答えはメリッサの口から語られる。


 威勢よく右手を見せ、細い糸を覗かせている。


 影に意識を割いた分を全て、糸の精度向上に捧げた。


 彼女が最も得意とする領域。それに、全神経を注いだ結果。


「底を見誤ったか……」


 糸で身動きの取れないベクターは、悔し気に語る。


「うちの伸びしろは底なしっすよ」

 

 それに対し、メリッサは澄ました顔で答え、引き金を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ