第71話 バトルフラッグ㉑
化学工場一階。電気室。
並んでいるのは、複数の配電盤。
中でもレバーが備わるのは、主電源のみ。
自動切替装置と紐づいて、外部電力の供給が可能。
独創世界の主により、意図的に用意されたイベントだった。
「……」
ベクターは、慎重に足を踏み入れる。
暗視ゴーグルの視界を頼りに進み続けた。
(あれが、配電盤か……)
見えてくるのは、壁際に配置された箱型の物体。
様々な配線が繋がり、右側には下がったレバーがある。
電気系統の知識はなかったが、言われたものだと認識できた。
(何もなければ、いいんだけどな……)
ただ頭には、一抹の不安がよぎる。
順調すぎるせいか、一人が心細いのか。
なんにせよ、嫌な予感がしてならなかった。
「――動くなっす」
そんな時、聞き覚えのある女の声が響く。
背中には、銃口が当たっている感触があった。
暗闇の中でも見える証拠。一瞬の不覚を突かれた。
(ちっ……ソロで、こんな体たらくは……)
誰かと行動してたなら、まだ言い訳ができる。
相方の責任にして、自分の失態から目を逸らせる。
ただ、今回は十八番のソロ。言い訳できる余地はない。
一番パフォーマンスが発揮できる状態で、背中を取られた。
「くそが……っ」
その憤りが、ベクターを愚行へと駆り立てる。
警告を無視して、振り向きざまにナイフを振るった。
「「――――」」
生じるのは、火花。刃と刃が空中で擦れ合う。
同時に目が合った。斧付きショットガンを持つ女。
王位継承戦では、まともに絡む機会がなかった特異体。
「メリッサ・ナガオカ……。邪魔するなら、ここで……」
「ご機嫌麗しゅうっす、第三王子。良ければ、うちらと手を組まないっすか」
鬼気迫る状況で出された条件は、共闘。
良くも悪くも、一考の余地のある提案だった。