第68話 バトルフラッグ⑱
化学工場二階。研究資料室。
等間隔に、棚が並んでいる部屋。
棚には資料が綺麗に陳列されている。
ただ、停電は継続しており、辺りは暗い。
目視は困難な中、白い光が棚を丸く照らした。
「さーて、じっくり探索といこうかの」
懐中電灯を片手に、シェンは語り出す。
足元には、完全武装の兵士が二人倒れていた。
その隣に立っているのは、屈強なアフリカ系の男性。
「……何度見ても爽快な仕様だねぇ。そいつが一撃必殺なんてな」
マイクは懐中電灯を見つめ、驚嘆している。
プレイヤーとNPCは共通してライフを二つ持つ。
本来なら収集品の攻撃を、二度当てる必要があった。
しかし懐中電灯は例外。一度の攻撃でライフを二つ削る。
――当たれば、即死。
銃器に目が行きがちになる戦場での、隠れ仕様。
バトルフラッグ内で、最高火力を誇る収集品だった。
「それより、手を動かさんかい。脱出地点さえ把握すれば、吾らの勝ちよ」
シェンは意に介さず、棚を探索する。
旗を回収し、脱出するまでが一連の流れ。
例外はなく、全プレイヤーが最終的に通る道。
そこさえ把握すれば、結果を出せる手段があった。
「先回りして、叩く&盗む。実に社交的だ」
マイクは、皮肉めいた物言いで目的を語る。
同調か、非難か。表情からは伺い知れなかった。
今はどちらとも取れる状況。空気は自然と重くなる。
「今更、卑怯とは言うまいな。もし、裏切るつもりなら――」
微妙な空気を感じ取り、シェンは相方に探りを入れる。
顔にライトを当て、表情の機微を読み取ろうとしていた。
「おいおい、勘弁してくれよ。今は内輪で揉める場合じゃないだろ」
マイクは両手を上げ、焦った表情を作る。
収集品の攻撃は、敵味方問わず、有効になる。
即死武器を持つシェンは、立場上、優位にあった。
「…………」
光源を徐々に近づけ、無言の尋問は続く。
わずかでも揺らぎがあれば、手を下す雰囲気。
回避、防御、反撃、どれも難しい距離にまで迫る。
センスも使えない状況で、能力に頼ることもできない。
「苦い情人節――」
状況を理解し、マイクは覚悟を決めている。
下手な弁解は逆効果と判断したようにも見えた。
気付けば、懐中電灯は顔のそばにまで近づいている。
殺されるか、殺されないか。どちらにも転ぶ状況が続く。
死の気配は濃厚。剣呑な空気に満ちていく中、それは起きた。
「……あったぞ。こいつは製鉄所の見取り図だ」
シェンが手に取ったのは、分厚いフォルダ。
製鉄所の見取り図に加え、脱出地点も描かれる。
それにより、疑いは晴れ、彼らの計画は一歩進んだ。