第67話 バトルフラッグ⑰
高炉崩壊後、同時刻。化学工場、南口付近。
決して遠くはない距離から、轟音が響き渡った。
舗装された地面が揺れて、生暖かい風が肌を撫でる。
停電のせいで視界は悪く、目視で確認することは不可能。
ただ、状況証拠から考えれば、何が起きたかは明らかだった。
「高炉が爆発したみたいっすね。……恐らく、うちらのせいで」
化学工場の小振りな扉を前に、メリッサは小声で語る。
斧付きのショットガンを持つ手は、わずかに震えてしまう。
理由は至ってシンプル。心の中の問題が身体に影響を及ぼした。
――恐らく、正体は罪悪感。
他のプレイヤーを巻き込んだ可能性があった。
間接的とは言っても、責任が全くないわけじゃない。
旗を取り合う競争相手だったとしても、心が痛んでしまう。
「そのようだが、気に病む必要はないかもしれんぞ」
心情を察したのか、マクシスは気休めの言葉を並べる。
理由は、容易に想像がつく。軍人らしい切り捨て型の思考。
「はいはい。敵が減った方が、有利っすもんね。分かってるっすよ」
利害関係だけで物事を考えるなら、正しい。
戦争では、相手の気持ちなんて考える余裕はない。
生きるか死ぬか。勝つか負けるか。メモリはそれで限界。
共感できるかは別として、他人の考えと割り切れば理解できた。
「……いや、爆発の被害者は、ルール上、出ないと思われる」
しかし、返ってきたのは、予想とは異なる反応。
罪悪感の根っこに近い問題。それなら、話が変わる。
口にされた言葉の中から、想像を巡らせ、真剣に考えた。
「収集品以外の通常攻撃は無効……。高炉の爆発は適用されない……」
ルールと言えば、一つしか思い当たらない。
深く考えるまでもなく、すぐさま答えに至った。
事実はどうであれ、可能性としてなら十分あり得る。
「仰る通り。だからこそ今は、我々の心配をした方が有意義だろうよ」
マクシスは話を綺麗にまとめ、前を向く。
目の前には、三階建ての古びれた化学工場。
明かりはなく、物々しい雰囲気を放っている。
被害者がいないのなら、気にするべきはこっち。
頭では分かっていても、身体の震えが止まらない。
緊張のせいか、何か別の問題を気にかけているのか。
「ま、そういうことにしとくっすよ……」
メリッサは無理やり納得して、化学工場に足を踏み入れた。
違和感の正体。それを理解するのに、大した時間はかからなかった。