第66話 バトルフラッグ⑯
約3秒の自由落下が終わりを告げた。
地上には、大量の残骸が降り注いでいく。
建材、足場、モニター、パイプ、その他諸々。
辺りは瓦礫で埋め尽くされて、静まり返っていた。
――崩落に巻き込まれたのは、四名。
安否不明の状態が続く中、動きがあった。
バタンと音を立て、瓦礫の一部が倒れていく。
「…………生きてる、のカ?」
中から現れたのは、蓮麗だった。
きょとんとした顔を作り、動揺している。
「収集品以外の攻撃は無効。これも適用されたようね」
一方、彼女の隣にいたバグジーは冷静だった。
いち早く状況を理解して、言語化する余裕もある。
分析力と戦闘経験の違い。それが、如実に表れていた。
「…………もし、適用されていたら?」
眉をひそめ、蓮麗は仮定の質問をぶつける。
化け物を見るように、やや引いている様子だった。
「問題なし。この程度でくたばるほど、柔な鍛え方はしてないわ」
バグジーは力瘤を作り、自信を示す。
鍛え抜かれた肉体。隆起する上腕二頭筋。
反論を一切許さない事実が、そこにはあった。
「力が封じられているのに、大した自信ネ」
「センスは、心の力。鍛え抜かれた肉体があって、初めて輝くものなのよ。みずぼらしい身体をしていて、『私は最強!』なんて言い聞かせても、限界があるでしょ。自分に自信を持てるぐらいの肉体がないと、真の力は引き出せないわ」
「……女性差別カ? 肉付きがいい男が有利ヨ」
「何もムキムキになれって言ってるんじゃないわ。自分を納得させる努力をしたかが重要なの。見た目が売りのモデルで、美容やダイエットをサボる人はプロ失格でしょ。才能に頼って、努力を怠るアナタには、耳が痛い話でしょうけどね」
バグジーは自身の腹部を軽くつまみ、語る。
視線の先には、黒スーツに隠れた自堕落な肉体。
接触時に触られており、なんの言い逃れもできない。
「……//////っ!!」
蓮麗は顔を赤らめ、両腕で腹部を隠した。
指摘が事実であることを、間接的に認めていた。
「ま、いじるのもこのぐらいにしてましょうか。それより……」
他愛もない雑談は終わり、バグジーは目を細める。
その先では、パラパラと音を立て、瓦礫が動いている。
直接、現場を目視していなくとも、起こった状況は明らか。
「どちらが勝ったのか。場合によっては、アタシたちにも危害が及ぶわよ」
バグジーは一切の油断もなく、結果を観測しようとしていた。