表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賭博師メリッサ  作者: 木山碧人
第七章 マカオ
63/156

第63話 バトルフラッグ⑬

挿絵(By みてみん)




 高炉制御室は、炎上していた。


 火災の原因は、一酸化炭素の引火。


 機材は次々と燃え、煙を上げていった。


 火の手が激しくなる中、赤い旗が置かれる。


 そこは、エントランス中央。障害物のない場所。


 唯一延焼を免れ、周りの炎が戦う範囲を限定させる。


 まるで、天然のボクシングリングを形成するようだった。


 ――高炉爆発まで残り二分。


 対話の道は絶たれ、衝突は必須の状況。

 

 勝ち負けの条件は、一方的に定められていた。


 ――殺し合い。


 どちらかが死ぬまでの勝負。


 ライフが0になった方が敗北する。


 広島――♡♡。

 

 ジェノ――♡♥。


 ライフは、広島がリードしている。


 ジェノは二撃に対し、広島は一撃で済む。


 ただし、ライフを削る手段は、限定されていた。

  

「――――」


 先に動いたのは、広島だった。


 長い銃口を向け、引き金に手をかける。


 近距離のため、目視によって照準を定めている。


 ――得物は狙撃銃。

 

 遠距離射撃に特化し、銃身が長いため、取り回しは悪い。


 スコープも遠距離用のため、近距離戦では使い物にならない。


「――」


 一方、ジェノは地面を蹴った。


 銃口を避ける形で、迂回していく。


 敵を中心にした円を描くように駆ける。


 様子を伺いつつ、徐々に距離を詰めていた。


 ――得物は自動拳銃。


 銃身が短いため、取り回しはスムーズ。


 至近距離においては、格闘にも移行しやすい。


 問題は射程の短さだが、不利になる場ではなかった。


「あぁ、まどろっこしい! 慣れんことはするもんじゃないのぅ!!」


 互いに睨み合いが続く中、広島は銃口を下げた。


 罠か、フェイントか、狙撃銃での勝負を諦めたのか。


 本人以外には知る由もなく、ジェノも例外ではなかった。


「…………」


 諸々の状況を承知した上で、彼は距離を詰めた。


 いずれにしても、このマッチアップでは接近戦が有利。


 勝ちにこだわるのなら、正攻法とも言える戦法を取っていた。


「やっぱ、うちはコレじゃ!!!」


 それを見届けた広島は、ようやく動き出す。


 持っていた狙撃銃を、そのまま強引に振るった。


 ブンとバットがフルスイングされたような音が鳴る。


 長い銃身による横薙ぎが、距離を詰めたジェノに迫った。


「でしょうね」


 当の本人は、その場で屈み、紙一重でかわす。


 予期しなければ反応できない速度を、難なく突破。


 隙を晒す広島の懐に照準を向け、引き金に手をかけた。


「――お見通しじゃ」


 冷たい声音と共に、ダンと重い銃声が鳴り響く。


 照準はでたらめで、銃弾は燃えるモニターを貫いた。


 一見、的外れのように見えるが、彼女の狙いは別にある。


「……っっ」


 ジェノは顔を歪め、いち早く状況を理解する。


 再度やってきたのは、空を切ったはずの長い銃身。


 発砲の反動による軌道変化。それが連撃を可能とした。


 身体のどこかにヒットすれば、ライフは削り取られる仕様。


 避けることができなければ、ルール上では、死を意味している。


「手応え、アリじゃ!!」


 ガゴンと音が鳴り、銃身は対象を捉え、叩き飛ばす。


 身体をのけぞらせながら、ジェノは火の海に消えていく。


 わずか六十秒の攻防。高炉爆発まで、残り一分を切っていた。


 ◇◇◇


 高炉制御室近辺、下降用梯子前。


 そこでの攻防にも、動きがあった。


「……くっ」


 引き金を引く蓮麗の拳銃は、スライドオープン。


 床には大量の薬莢が散らばり、弾切れを意味していた。


「素人にしては、頑張った方じゃない?」


 対するバグジーに、武器はない。


 バックパックを背負うのみで、素手。


 身体能力だけで弾を全て避けきっていた。


「あの少年をここで殺すのカ? アイツには利用できる価値が!!!」


「彼はラインを越えたわ。意思の力が使えない今、早めに処理するべきよ」


 戦いの手を止め、互いの主義主張をぶつけ合う。


 意見は真っ二つに割れており、譲る気はない様子。


「何を根拠に言っている? まだアレは狂ってないヨ」


「アナタを殺そうとしたんでしょ。どう考えても、狂ってるわ」


 白き神を内包している前提で話は進み、具体的な内容に触れる。


 高炉での攻防が起こる前、スコープ越しに見た出来事のことだった。


「……いや、アレは」


 事情を理解した蓮麗は、反論しようとする。


 その間に生じるのは、異様なほどの焦げついた臭い。


 空気は振動し、足場は揺れ、火の手は増し、その時は訪れた。


「「――っ!!」」


 高炉で溜まりに溜まった一酸化炭素が起爆。


 足場は崩れ、高炉周辺施設は全て吹き飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ