第62話 バトルフラッグ⑫
自動拳銃、グロッグ17による発砲。
それに伴い、充満した一酸化炭素に引火。
制御室を含めた高炉周辺には、火の手が上がる。
爆発には及ばないものの、全焼させる勢いで燃え盛る。
「…………」
頭上から浴びせられたのは、水の粒子。
スプリンクラーが起動し、消火活動にあたる。
それでも火は消えない。衰えることを知らなかった。
周辺設備に燃え移り、人体にまで害を及ぼそうとしている。
「……読みは当たったようじゃの」
降りかかる火の粉を払いもせず、広島は語る。
熱さや痛みは、微塵も感じていない様子だった。
神格化が進んでない人間の、貴重なモデルケース。
彼女が問題ないなら、巻き込んだ人も大丈夫そうだ。
「ええ。それも恐らく、数分以内に高炉まで火が届きます」
「そうなりゃあ、辺りは木っ端微塵。ほぼテロ行為じゃ……」
意図を読み取り、広島は本題に入る。
NPCが相手だったら、殺すつもりだった。
でも、プレイヤーだった場合、話は別になる。
言葉が通じるなら、対話の場を設けるのがベスト。
かなり手荒だったけど、交渉の土台には立てたはずだ。
「もう俺の命は狙わないでください。次は火傷じゃ済みませんよ」
だからこれは、警告だった。
現実世界だったら、互いに焼死体。
運が悪ければ、この世界でも死んでいた。
脅威は十分伝わっただろうし、手を引くはずだ。
「……確かに、あんたは少し変わったかもしれん」
広島は、手に持つ旗を地面に置き、語る。
降参のつもりか、宣戦布告のつもりかは不明。
旗の色の意味をそのまま受け取るなら後者になる。
「なんのつもりですか。これ以上は……」
不穏な気配を感じ取り、口を挟む。
正直言って、嫌な予感しかしなかった。
「宣戦布告じゃ。火傷で済む間に、うちが殺す。勝てば、旗は好きにしんさい」
肩に背負うスナイパーライフルを構え、広島は言う。
爆発まで数分。交渉は決裂し、決着をつける腹積もりだった。
◇◇◇
製鉄所、高炉制御室周辺、連絡通路。
辺りは火の手が上がり、燃え広がっている。
高炉に通じるパイプは焼けただれ、通路を塞いだ。
「……やるならやるって、言って欲しいわね!」
愚痴をこぼしながら、バグジーは跳躍。
驚異的な身体能力で、障害物を避けていく。
「さっさと、放すヨ!!!」
脇で抱えられているのは、蓮麗の姿。
拳を叩きつけ、抵抗を試みるも意味をなさない。
肉体の問題ではなく、あらゆる通常攻撃は無効となっていた。
「あらぁ、放してもいいの? 命の保証はできないわよ」
「それは……良くないけどモ……」
「だったら、決まりね。アナタを殺す気はないから安心なさい」
それに気付くことなく、やり取りを続ける。
その間にも移動は進み、降下用の梯子にたどり着く。
いくつかの足場を経由して、地上に繋がる仕様になっていた。
「彼を……どうするつもりカ?」
梯子付近の通路に下ろされ、蓮麗は尋ねる。
「刺し違えてでも、殺すでしょうね。残った以上、助かる気はないはずよ」
バグジーは制御室の方向を見つめながら、語る。
火事では死んでない。二人はそれを確信していた。
だからこそ、相容れない。違えてしまう道があった。
「だったら、お前は敵ネ。我の前から消えるといいヨ!」
蓮麗が取り出したのは、自動拳銃。マカロフPM。
高炉が爆発間近の状況で、もう一つの戦いが勃発した。