第57話 バトルフラッグ⑦
製鉄所の最奥に設置されるのは、高炉。
鉄鉱石を溶かし、鉄を取り出すための施設。
見た目は、縦長の筒。高さは、約100メートル。
地上と高炉上部は、ベルトコンベアで繋がっている。
本来、鉄鉱石を運ぶ通路だが、ジェノたちはそこにいた。
「「…………」」
気まずい沈黙の中、緩やかな斜面を前進し続ける。
機械の稼働音はなく、高炉もベルトコンベアも停止中。
炉内の通風装置や冷却システムも、軒並みダウンしている。
そのため、高炉近辺は平常時以上の異様な熱気に包まれていた。
「……距離を詰めた後は、どうするのですカ?」
だらりと汗を流し、問いかけたのは蓮麗だった。
目を合わそうとはせず、地面に視線を向け続けている。
「NPCなら問答無用で倒します。プレイヤーだったら……」
一方、ジェノは前を見続け、応答する。
瞳に迷いはないものの、先の言葉に詰まっていた。
「……だったラ?」
わずかに視線を上げた蓮麗は、反応を伺った。
天眼視心は使えず、意思の力による読み取りも困難。
暗闇の中、表情も見えず、判断材料は声色のみに絞られる。
「俺が、殺します……」
そんな中で発せられたのは、重苦しい言葉。
声に震えは一切なく、確かな殺意がこもっていた。
◇◇◇
製鉄所内。高炉中央付近。高炉制御室。
非常電源が入り、赤色の光が辺りを照らす。
そこにはデスク、モニター、制御盤などが並ぶ。
製鉄所内で唯一、まともに機能している施設だった。
作業員はおらず、高炉の制御は第三者に委ねられていた。
「マニュアル通りじゃったら、これで停電は……」
片手に持つ資料を見つつ、広島は制御盤に手を伸ばす。
操作パネルはロシア語。マニュアルは帝国語で書かれていた。
「ちょっと待って。……これ、何か匂うわねぇ」
しかし、隣に立つバクジーは、手を掴み、復旧作業を阻止していく。
「まぁ……この熱さじゃけぇ、ちったぁ……」
広島は顔をほんのり赤らめ、自身の体を見つめる。
セーラー服の布地が地肌に張り付き、やや湿っている。
そこに恐る恐る顔を近づけ、鼻をひくひくと動かしていた。
「乙女の方じゃないわ。もっと、実害のある方よ」
バグジーは肩のスナイパーライフルを背負い直し、目線を上げる。
そこには一枚のモニターがあり、ロシア語で文字が表示されていた。
――― Газоанализатор ―――
Сенсор:Оксид углерода (CO)
Текущее содержание:900 ppm
Уровень предупреждения:физические симптомы
Состояние: Обнаружено отклонение
Требуется действие.
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