第54話 バトルフラッグ④
製鉄所内、高炉制御室付近、連絡用通路。
地上から約五十メートル近くに位置する場所。
「…………」
銃口から硝煙が立ち上がり、薬室から空薬莢が排出。
ボルトハンドルを押し込み、下げて、次弾が装填される。
使われたのは、緑色のフォルムのボルトアクション式狙撃銃。
銃身下部の前床には、二脚。左横には、レーザーサイトが備わる。
上部には四倍スコープがあり、覗くのは、指貫グローブを着けた女性。
「1アウトじゃ……」
毛利広島は、うつ伏せの姿勢で静かに語る。
スコープと赤いレーザーサイトの先には、少年。
結果にぬか喜びすることもなく、再び狙いを定める。
「……撃つ必要が、あったのよね?」
隣に立ち、行為の是非を問うのは、バグジー。
その手に武器はなく、黒のバックパックを背負う。
「パートナーに銃口を向けた。理由としては十分じゃろ」
簡潔に理由を述べ、広島は引き金に手をかける。
迷いも揺らぎもなく、赤い照準は少年の胴体を捉えた。
相手の武器は自動拳銃であり、反撃は射程が短いため難しい。
さらに、被弾面積を減らす高所が、広島を一方的な優位に立たせる。
意思の力が封じられている以上、二射目を避けるのも、防ぐのも難しい。
「……待って。とどめを刺すのは、時期尚早じゃない?」
そんな中、バグジーは銃口をずらし、直接的に狙撃を止める。
二射目がすぐに発砲されることはなく、わずかな猶予が生まれた。
「白き神を利用したい。その気持ちは分かるが、アレはもう制御できんね」
時間にして、約三秒。広島が否定し、バクジーが納得するまでの間。
外れた銃口はすぐさま修正され、少年の胴体には狙いが定まっていく。
狙われる側からすれば、策を講じるにも、距離を詰めるにも、短すぎる。
広島の絶対的優位は揺るがず、彼女は引き金に手をかけて、冷静に言った。
「うちが終わらせる。泣こうが笑おうが喚こうが、これで最後の2アウト目じゃ」
そこに甘さも慈悲もなく、淡々と引き金を絞っていく。
トリガーが機能し、銃弾が発射されるまで、ほんの数ミリ。
少年ジェノに残された最後のライフを削られるまで、後わずか。
「「…………っ!!?」」
そんな時、起こったのは、予測不能の出来事。
照明器具の消灯。一切の停電。狙撃先の視界不良。
たった三秒の猶予が、彼の命運を分けることになった。